65-報告2@喫茶店
凪元が言っていた「忙しくなるよ」っていうのは、確信めいたものがあった。
凪元は、学校での不審な出来事に能力が関わっていると確信していたのだろう。
俺には判断できないのだが。
能力を使った瞬間を俺が見ていたのなら学校内でもその時点ではわかるらしいが、俺はその記憶が残らない。詳しく言われたら思い出すこともあるようだが。
あんまりにも不便だ。
凪元に話した後は古今泉にも話をすることになる。
凪元と話した日は古今泉の都合が悪かったらしく、その次の日になった。
わざわざ時間をとってまで話す必要があるのか?とも思わないでもなかったが、手伝ってもらったし、話しておくべきでしょ、と殿子さんに言われたのもあって話すことにした。
ちなみに師匠からは、(古今泉未来に話すかどうかは)お前が決めろ、と言われた。
だから、最終的には俺の判断で話すのを決めたことになる。
もう凪元と古今泉には無駄に誤魔化す必要もないかな、と思い始めていた。むしろ協力者になりうるのではないか?と思って必要ならば話していくことにした方がいいのではないか?
学校の外で古今泉未来に出会う。
もう暑いので、公園で話すのではなく、近くの喫茶店で話すことになった。
「今日話すことは覚えていたんだね」
「学校から出れば思い出す。学校にいる間は完全に思い出さなかったけど」
「思い出さなかった記憶はあるんだ」
鋭いところを聞かれた。
「いや、思い出した記憶がない、と言った方が正しいかもしれない」
「ふーん……。あ、これ、何か関係あるかな?何かのヒントになりそう?」
今の会話で、俺の表情に変化を見出した古今泉は、俺が何かピンと来たと思ったのかもしれなかった。
だが、俺が反応したのは、古今泉のツッコミに対してだった。だから、
「いや、どうだろうか?わからない」
と答えることになった。
適当に答えたわけでなく、本心だった。
ヒントになるかもしれないし、ならないかもしれない。
「そっか。残念だ」
俺の発言を適当に返事されたと思ったのか、どう思ったのかはわからないが、古今泉はこう返事をした。
喫茶店に入った。
よくある普通の喫茶店。
混んでいるというほどではないが、人もまばらにいた。みんなも涼みに来てるのかもしれなかい。
「もう夏だねー。ちょっと涼しい時もあるけど、今日は一段と暑いね」
「そうだな」
「7月になってもっと暑くなると考えるともっと暑くなってくる」
「なら、考えなければいいんじゃないか」
「もうすぐそんなこと言うー」
何をむくれたのかわからないが、そんな風になっている。
店員さんに案内されるまで俺たちは夏の暑さに対しての愚痴を話していた。
席に案内され、向かい合って座る。
「何飲む?」
古今泉は俺に尋ねる。
だが、俺はこういうところには疎く、何を頼めばいいのか、全く検討がつかなかった。
「じゃあコーヒーを」
「木々村くん、コーヒー飲むの?」
「いや、飲まない」
「じゃあ、何でコーヒー頼もうとしてるの」
古今泉はツッコミを入れ笑っている。
「一緒に選ぼっか?」
少しぎょっとした。思わず俺は古今泉の方に顔を上げる。
「木々村くんのことだから、何頼んでいいかわからなかったんでしょ?」
バレていた。
「実はそう」
「やっぱり。そうだと思った」
そう言って2人でメニューを見る。
「でもよかったよ。木々村くん、水頼むかも、ぐらいは思ってたもん。ちゃんと飲み物頼もうと思ってたんだね」
「それくらいは流石に」
喫茶店で水だけを頼むとかはしない。
だが、古今泉からはそんなことしかねない男だと思われているってことか。
俺に反省すべき点は多いのかもしれない。こういうところからも凪元の言葉が少しずつのしかかってくる。
「いつもは何飲んでるの?」
「いつも?」
「家とかで」
「ああ。紅茶が多いかな」
殿子さんが入れてくれるから。紅茶の味の良し悪しはわからないが、殿子さんが入れてくれるお茶はおいしい。砂糖と牛乳も入れているけれど。
「砂糖とかは入れる?」
「ああ。入れてる」
「甘いやつ好きなのかな」
「そうだな」
「じゃあ、ラテとかいいかもね」
「ラテか……」
「カフェラテか抹茶ラテか……がいいんじゃないかな?他にもたくさんあるけど。バナナシェイクとか」
「本当に甘いやつを勧めてくるな」
「それ以外がよかった?マンゴーラッシーとか」
それも甘そうだ。
「いや、カフェラテにしよう」
「抹茶はあまり好きじゃない?」
「いや、そういうわけじゃない」
抹茶は確かにあまり飲まないが。嫌いというわけではない。
単純に抹茶ラテよりスタンダードっぽいカフェラテにしようと思っただけだった。
これも読まれるかもしれない。
読まれるのは何となく気に障るので、俺のことから話題を逸らしたい。
「古今泉は何にするんだ?」
「私?私は、キャラメルモカ。キャラメル好きなんだ」
古今泉は既に決めていたようだ。
「ここにはよく来るのか?」
「それなりにね。友達とかと」
だから、慣れてるわけか。
俺たちは店員さんに頼み、来るのを待った。
「飲み物だけでよかった?」
「ん?何がだ?」
「だって、お腹減ってたりしたら、食べ物とかデザートとか頼むのもアリだよって」
「ああ、いや、まだ大丈夫だ」
「そう?ここのパンケーキ美味しいから、後で頼むのもいいと思うよ」
「そうか。じゃあ、後でいただこうか」
喫茶店初心者の俺は古今泉からレクチャーを受けているなどという、なんてことない会話を繰り広げた。
実際初心者にもほどがある。古今泉が教えてくれてありがたかった。
「俺の記憶の件だが」
「そうそう。その話。どうやって切り出していいかわからなかったから、待ってた」
「ああ。あれは、池崎龍弥の能力ではないらしい」
「そうなんだ。やっぱり」
「やっぱり?」
「うん」
「やっぱりとはどういうことだ?」
「えっと、そうかなって思ったってこと。池崎の力ってのは、忘れさせる能力なんでしょ?でも、木々村くんは、思い出すことができないって感じだった。あの時は確かに池崎龍弥のせいかも!って思ったけど、よくよく考えてみたら、ちょっと違うかなって。お姉ちゃんの様子とも違ったし」
「お姉ちゃん?百々華のことか」
「うん。池崎龍弥の能力のこと聞いてから、お姉ちゃん自身にも何か能力の影響ないかな?って思って色々と調べてみたんだけど。忘れてることは、私が言っても思い出さなかったから。
勿論、確証はなかったけどね。池崎龍弥自身が思い出させにくくするって能力もあるかもしれないし、お姉ちゃんがわかってて演技してる可能性もないわけじゃないから。でも、そうかなって」
「そんなことしてたのか」
「調べたって言っても、話しただけだよ。普通の会話。会話の流れでお姉ちゃんが忘れてることあって、私がこういうことあったじゃんって言っても思い出してくれなかった」
「なるほど」
そういえば、古今泉の姉が、池崎龍弥の能力にかかっていたのかについては、はっきりと検証できなかったな。
今の話によれば、何らかの影響は受けていたみたいだとわかるが。
師匠にも後で報告しておくか。
「それから、学校内で俺がポンコツになるのはしばらくはどうしようもないないと思われる。俺の力ではどうしようもない」
「そうなんだ。じゃあ、どうなるの?木々村くん、ずっとこのまま学校では不自由なの?」
「それに関しては、恐らく時間が解決してくれるはずだ」
「時間?しばらく待つってこと?」
「ああ、そうだ」
「ふーん。そうか」
期間についてはあまり突っ込まれなかった。
そのまま具体的に言う瞬間を逃してしまった。
「でも、私にできることがあったら言ってね。木々村くんのためなら、頑張っちゃうよ」
もうすっかり古今泉を巻き込んでいる。
「例えば古文の勉強とか。苦手なんだよね?」
そんな風に言う古今泉の表情と声がキラキラしてるな。そんなに俺のためになりたいのだろうか?
「あぁ。苦手だ」
古今泉と話しながら自分が感じている感覚について思い当たった。
これは感じたことがある。
俺が殿子さんに構われる時の感覚に似ている。
頼りない年下を世話してあげようという厚意を受け取る感覚。
「一昨日頼まれたし。今度一緒に勉強会開こうね」
「ああ、世話になる」
「任されよ」
古今泉は、右手で拳を作り、胸元で叩いた。
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