63-想起能力不全について


凪元と古今泉と別れて家に着いた。

今日学校内で行われた検証については何も思い出せない。

帰り際に学校の外で聞いた限りでは、俺は学校内で起きた能力に関する出来事を思い出せない、ということになっているらしい。

更に学校内では、能力関係のことを自分からは思い出せない。

その様子は、さながらボケ老人だという。


そのくせ、能力に関係ない学校での出来事は思い出せる。そのため、発覚するのが遅れた。今の今まで発覚しなかったということだろう。


今の状態は検証できても、いつからこうなったのかは、検証できていない。

それはわからない。だが、以前、轟剛力のことに関しては思い出せていたため、それより後に能力にかかったということになっている。


これから師匠にそのことを報告しなければならない。


凪元から送られてきた文章は師匠に転送したので、読んでもらえばどういう状態なのかはわかってもらえると思うが。


かなり気が重かった。

目立ったつもりはなかったが、やはり目立っていた。

とか

古今泉の件を考えるのでいっぱいで、ここしばらくの学校内の能力関係のことを気にしたことがなかった。

とか

反省することは多々ある。


しかし、今は師匠に手短に伝えるよりも、俺の状況をわかってもらい、指示を受けることの方が重要だった。


師匠から着信があった。

「読んだ」

第一声から短い。いつものように声に鋭さがある。怒られるのかどうかは声色では判断できない。

「はい。俺の状況は書いてある通りです」

「やっぱりお前もやられたようだ」

「やっぱり?」

やっぱりということは、師匠は既にこうなることを予期していたみたいだ。

「近い内に私もそっちへ行く。今すぐには無理だが」

「師匠来るんですか?」


どうしたことか……。やっぱりたるんでるように思われたのだろうか。

いや、殿子さんと2人きりだからと言ってたるんでたわけじゃありませんので……!!

お願いですからもう少し長く。殿子さんと一緒に居させてほしいです。


師匠がこちらに来るということは、俺の今までの平穏な日々が失われてしまうということを意味していた。


だが、俺からは拒否はできない。俺が今、心の中で思ったように願ったとしても、変えられないものは変えられない。これは決定事項。運命だった。


師匠より上の人が方針を転換するくらいしか運命を変えられない。

天に祈るしかない。


そんなようなことが頭をよぎったが、師匠に動揺が伝わりすぎるのもよくない。すぐに俺は切り替えることにした。ポジティブに考えよう。


そう。

師匠が来てくれるということは、俺の件もすぐに解決できるということ。

今までは仕事ができなかった分、仕事ができるようになる。これで巻き返しを図ることができる。

師匠には早くこちらに来てほしい。


無理矢理が過ぎる。


「お前がダメだったなら、次は私だろう。それにたるんでいるお前を絞らないといけない」

「いや、そんなたるんで……ないことはないですけど」


たるんではいません、と抗議の声をあげようとしたが、学校内での能力のことが思い出せない状況になってること自体がたるんでいる証拠だと思い、すぐに引っ込めた。

先ほど一瞬でもたるんでないと思ったのは思い込みだ。師匠から言われて改めてその思い込みはベリベリに剥がされた。


俺が師匠の言葉によって現実を直視していると

「殿子から聞いた。2人で映画を見ていたんだってな。楽しかったか?」

師匠はクリティカルに俺の弱いところをえぐってきた。

実際には、師匠の顔は見えないが、師匠が俺を責めるときの余裕のある笑みが頭に甦る。

「楽しかったです……」

俺はこう答えるしかなかった。ここで否定しようものなら、攻めはいつまでも続く。こっちで直接会ったときの意向返しもとんでもないものになる。ここはこうやって認めるのが被害を最小限に止める方法だった。


「そうか。いい休日を過ごしたようだな」

世間話を振っているように思えるが、どうやって俺を絞ろうか考えているに違いない。師匠の心はウッキウキだろう。

俺の心はそれに反比例するように重くなっていく。


俺が沈んでいく中、俺をからかうことに飽きたのか

「お前の記憶の件だが」

師匠が急に話の舵を取り直した。俺も心が重いのを若干引きずりながらではあるが、引き戻された。

「池崎龍弥の能力のせいではない」

そこは俺も気になっていたところだった。

「誰による能力かわかるんですか?」

「いや、誰の能力かまではわかっていない」

わかってないのか。でも、池崎龍弥の能力が原因ではないと言い切る根拠は何なんだろうか?

「あいつも確かに記憶を操る精神操作系の力を持っているが、時期が違う」

「時期、ですか?」

「ああ。もっと言えば時期だけではなく、能力の種類も違う。池崎龍弥の能力では、今のお前の状態にするのは無理だ。池崎の能力は、思い出せなくするものだ」

「なるほど?」

「もし、池崎の能力にかかっているのなら、お前はその物事について話しかけられても思い出せないはずだ」

そう言って俺の疑問を解消するように話を続けてくれた。

そして更に話を続ける。

「池崎の能力もかなり強力だが、お前にかけられた能力自体も相当強力なものなはずだ。それにかなり恣意的だ」


「恣意的、ですか」


「そうだ。お前も能力にやられてしまったのだから伝えてもいいだろう。お前がその能力にやられる前に既にその能力にかかっているやつがいる」

かかっている奴がいる。過去形でない。それは今もということか?

「それは?」

「お前も知っているはずだ。安井と藤竹だ」

「いや、わからないです」

誰だ?藤竹はともかく、安井は、どこにでもいそうな名前だ。

「お前、教師の名前は覚えておけ。安井は保健室の養護教諭、お前が用務員さん、とか言った人だ。それと、藤竹は古典の先生だ。お前の苦手な科目の」

「えっ?」

先生方が?能力にかかっている?

「お前の前に派遣された2人だ」

保健室の先生……。確かに。言われてみると。通りで隙を感じさせない、立ち振る舞いだと思ったような記憶がある。組織側の人間だったのか。

古典の先生に関しては思い当たる節がない。俺が古文苦手過ぎるのが問題かもしれない。全くそんな様子を感じたことがなかった。


「ピンポイントで、私たちの組織のものがやられている。教師だけでない。凪元や古今泉はやられていないのに、お前だけが影響を受けている。能力について知っている者が無差別に対象という可能性も考えたが、そういうわけではない。これは恣意的だと言わざるを得ない」



「なるほど」

師匠が恣意的だと言った意味がわかったような気がする。


「私たちが派遣した者たちがクサいのか、能力により判明しているのかはわからないが、明確に狙われている。それは半年以上前からだ。

藤竹と安井の様子がおかしくなった時期、池崎はこの学校とは何の関わりもなかった。池崎が原因だとは考えにくい。

だが、学校内の何らかの存在が、お前たちに能力をかけているんだろう」


「これはやっぱり能力……なんですか?」

「ああ、能力だ」

能力らしい。師匠が断言するからには間違いない。

「一体誰が?」

「それを探るためにお前を入学させた」

「それは……面目ありません」

俺は聞かされてなかったが、実は記憶想起不全の能力を持った存在を俺の能力で探り、解決しようという意図があったらしい。

しかし、このザマだ。

結局は俺もやられた。目論見は外れた。

師匠の期待を裏切るような真似をしてしまい、俺はいたたまれなくなった。


「学校内での出来事に関しては何もできないなら、学校外でのことに集中してもらおう。私が来るまで。短くて1ヶ月……」

「その間、誰か他の方が来たりはしないんですか?」

師匠が来るまでの間のことを心配した。

勿論、師匠が来てくれる方が確実だ。だけど、1ヶ月も開くのであれば、組織内の他の人を派遣することになってもおかしくないのではないか?と思った。俺は学校内のことに関して何もできなくなるわけだし。

「来ない。私が行くまで待っていてくれ」

俺の疑問に対してばっさり言われた。来れないらしい。

「わかりました」

俺はそのまま受け止めるしかなかった。



師匠が今何をやっているのかわからないが、約1ヶ月後に来るらしい。恐らく今は外れることができない任務なんだろう。

ただ、確実に言えることは師匠が来たら記憶想起の不具合に関してはなんとかなっているだろうということだ。

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