60-「ポンコツの深淵」
怪訝そうな顔をしている古今泉ちゃんを連れて、人に話が聞かれなさそうなところに来た。
古今泉ちゃんは、頭がいいから察してるところもあるかもしれない。
「古今泉ちゃんは木々村くんのこと、どこまで知ってる?」
「どこまでってのは?えっと……」
「木々村くんが、実は普通の人とは違ったところがあるよって感じのこと」
「ああ、うん。知ってる」
「どこまで?」
「どこまでって言われても……」
「まぁ、いいか。木々村くん自身が古今泉さんを指名したんだから。あのさ。今木々村くん、誰かが能力使ってもわからないらしくて」
「え、そうなの?」
「それだけじゃなくて、記憶も変なんだよね。ついさっきまで、古今泉さんに話をして手伝ってもらおうって話をしてたのに、そのこと忘れてるんだよね。ホンの5分くらい前のことだよ」
「5分前……」
「そう。でも、1限に受けた授業のことは覚えてるんだよね。謎じゃない?」
「何それ、意味わからないんだけど!そんなことある?」
ギャグだと思われたみたいだ。古今泉ちゃんは笑った。
まぁ、ふざけてる話だと思うよね。僕だってそうだ。
「体験してもらったらわかると思うからさ。今から用事あるかもしれないけど、ちょっとだけ時間くれないかな?ふざけてるように見えてマジだから」
「うん。わかった。ちょっと待ってて」
と言って古今泉ちゃんは、友達に断ってからこっちに戻ってきた。
「大丈夫だった?ごめんね、わざわざ。部活だったでしょ?」
「ううん。大丈夫だよ。今日は部活なかったし」
「あれ、じゃあさっきの友達は?」
「一緒に帰ろうとしてたけど、ごめんねって」
「それは本当に申し訳ないね」
「木々村くん、ほら行くよ」
僕たちは放っておいた木々村くんを回収して、空き教室に向かった。
人通りが少ない棟。授業後にこんなところに用事がある人なんてほぼいない。
この時間帯に誰かが覗きに来る可能性を出来る限り排除した場所を選んだつもりだった。
「ここなら人に見られる心配もないっしょ」
「おい、凪元、こんなところに連れてきて何するんだ?」
木々村くんの妄言を聞いた古今泉ちゃんは驚きを浮かべる。
言葉を失うくらいの衝撃が来たようだ。
「ボケたみたいでしょ?」
「木々村くんには悪いけど……」
と言葉を濁すけれど、そこに肯定の言葉が省略されてることは明らかだった。
当の木々村くんは、怪訝そうな顔をしている。
何不思議がってるんだ!ふざけるな!と言いたくなるけど、言っても通じないだろう。
「古今泉さんは、能力を使えるって聞いたんだ。まずは、目の前で使ってみてほしい」
「あ、そうだ。そのためにここに来たんだ!」
木々村くんが唐突に声を出したので、ビックリした。側から見ると「何だこいつ、ウザいやつだな」と思われること必至だった。
「古今泉、能力を使ってみてほしい」
思い出した木々村くんが、言葉を続ける。すごい変わり身だよね。意識がちゃんとあれば、いつも通り、冷静になろうとしている。
「いいけど、何になればいいの?」
「何でもいい。能力を使っていれば」
「じゃあ、お姉ちゃんになってみるね」
お姉ちゃんになってみる。かなり聞き捨てならない言葉だけど、古今泉ちゃんの能力って、変身能力みたいだな。どんな風に変身するのかな?
と思っていたら、古今泉さんは一瞬で古今泉百々華先輩の姿になった。服までも変わった。お姉さんの私服姿かな?ふわりとしたワンピースだ。
「どう?」
「パッと変わるんだね」
声までも古今泉百々華先輩になっていたと思う。少なくとも未来ちゃんの声ではなかった。
「能力を使った時の匂いもする」
「じゃあ、能力を感じられない訳じゃないってことかな?」
もしかしたら、古今泉ちゃんの能力はわかるってことかもしれないけど。
「そうだな……。あと、調べたいのは、能力を使い終わった後にどうなるのか、距離とか俺が見てないところではどうなるのか、とかか?凪元。あと他に検証した方がいいことは?
「記憶の持続時間、知りたいかな。持続条件も」
「そうだな。俺が忘れていたら、頼む」
忘れていることは覚えているらしい。
「まぁ、流石にこうやって話してたら忘れないでいてほしいけどね」
「じゃあ、変身解くね」
パッと、未来ちゃんは自分の姿に戻る。服も制服に戻った。
「木々村くん、どうかな?」
僕の代わりに未来ちゃんが尋ねてくれる。
「匂いはする」
「古今泉さん、今まで学校で、能力を使ったことは?」
「え、学校では使ってない……かな」
「木々村くん、いつも能力の匂いを感じるのはどのくらいまでなの?あと、距離とか」
「その能力や使い方次第だが、1時間もすればだいぶ薄くなる。距離も能力次第だが、発生した瞬間なら、1キロくらい先でも感じることはあった」
「結構わかるもんなんだね。実はその能力めちゃくちゃ強くない?」
1キロ先から敵がいるかどうかわかるって相当強力すぎる能力だよね。
「正確な場所はわからないから、そこまででもない。鍛えれば、もしかしたら使えるのかもれないが」
「じゃあ、古今泉さんの能力はどれくらい感じるのかな?500メートル?30分?」
「それは検証してみないとわからないな」
「え、何か恥ずかしい」
古今泉ちゃんの恥じらう乙女心爆発。
そりゃ、じろじろと検証に使われるのは恥ずかしいよね。
でも、普通、嫌がるかな、と思いきや、ちゃんと受け入れてくれてるし、話が通じるいい子だ。
「教室の端から端のところを見てみようか」
木々村くんは、窓際の後ろ。古今泉ちゃんは対角線上の扉のところに。
古今泉ちゃんが変身しても全然問題なかった。
「この距離は流石にわかる」
と木々村くん。
「じゃあ、教室から出て試してみよう」
万が一、古今泉ちゃんが変身するところを誰かに見られるとまずいから、と木々村くんが廊下に出て、僕は扉のところに立って2人とも見えるようにした。
「どう?能力感じる?」
「いや、感じない」
「残り香は?」
「残り香とは?」
残り香って、言い得て妙だと思ったんだけど、木々村くんには通じなかったみたい。
「さっき古今泉ちゃんが能力使ってたでしょ?」
「……そうだった」
………ヤバ。
「え、うそでしょ……」
古今泉ちゃんも聞いてたみたい。絶句だった。
「思い出したところで確認するけど、能力の残り香は?」
「いや、わからない。感じない」
「じゃあ、もっかい中入ってみて」
とぼとぼと、木々村くんが教室内に入ってくる。
古今泉ちゃんを視認した途端
「感じた」
と言う。
「能力使ってるのは、見て確認したらわかるのかもね」
「そうか……」
木々村くん、考えこんじゃった。
「記憶の方はどうなんだろ?」
「まだ覚えてる。今何のために集まっているのかを覚えているのは覚えていると考えていいはずだ」
「そうだね。今何のために集まっているのかを木々村くんが覚えている、あるいは思い出せる、を基準に検証してみよう」
「まずは時間を置いてみよう。1分とかなら記憶は持つのかな?」
「1分か……」
流石に苦い顔をしている。1分くらい余裕だ、ということを言いたいにも関わらず、実際は自信がないのだろう。
僕も1分ならまだワンチャンあると思ってるけど。
「1分間何する?古今泉さん、どう?どう過ごしたらいいかな?」
「1分だったら特別何もしなくていいんじゃないかな?適当に喋ってれば」
「そうか。じゃあ、喋ってようか。あ、そうそう。古今泉さん、木々村くんとはどういう経緯で知り合ったの?」
「んー、お姉ちゃんの件かな。実はお姉ちゃんが事件?に巻き込まれてて。それで、木々村くんに助けてもらったんだ。ね?」
「ああ。事件と言うか、能力者に利用されそうになってた」
「なるほどね。お姉さんも巻き込まれてたの?」
「うん。ずっと……お姉ちゃん、池崎龍弥っていう人たちのところに行ってて。その利用されそうだったところを助けてくれたんだ」
「池崎龍弥……ああ、あの人ね」
「知ってるの?」
「あぁ、うん。この前木々村が押さえつけてるところ見たよ」
「え、あの時?」
「そうそう。僕が来るまでずっと1人で押さえつけてたもんね。あ、これは覚えてる?」
木々村くんに向けて話す
「覚えている」
「僕は荷物を届けに行ったんだ」
「そーだったんだ」
「能力のことはその時に知ったの?」
「うん。最初は隠してたけど」
「そうだね。木々村くん、最初は隠してたね。何で隠してたの?」
「何でって、隠すだろ、普通」
「わかるよ。私も最初は誰にも言えなかった」
「まぁ、そうだよね。周りから厨二病患者としか思われないしね」
「厨二病……」
古今泉ちゃんがぽそりと呟く。
「ああ、厨二病ってのはね、自分は特別な存在だと思い込んで、粋がっちゃう痛い奴のことだよ」
「そんな奴いるのか?」
適当に説明したら、木々村くんの方が反応しちゃった。
「多分、正確には違うけど、ざっくり言うとね。詳しく言うと色々なタイプに分類されるみたい」
こう言うとアレだけど、木々村くんは若干その気がある。本人を前にして言わないけど。
見ようによっては僕にもその傾向はあるしね。お互いのために言わないのが華ってやつ。
「あ、そろそろ1分経つかな?」
僕と古今泉ちゃんは一斉に木々村くんの方を見る。
「どう?今、何で集まってるか覚えてる?」
「なんだ?雑談だろ。そう言えば初めてじゃないか?こうやって3人で話すのは」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます