59-「ヤバいのは古文だけじゃない」

59-凪元源蔵視点

そもそも木々村くんはおかしかった。

僕が学校内での怪異について話をしたにも関わらず、そのことを覚えていなかった。

それに、その学校内の仕事に付き合ってもらった時には師匠のことについて話をしてくれた。厳しい師匠だと。

僕にも師匠がいたけど、そこまで苦労はしなかった話もした。

でも、木々村くんはそのことを覚えていなさそうだ。


木々村くんが、色々話してくれて、かなり心を開いてくれたのかな?って思ったにも関わらず、また距離が開いたような。

テストを必死になって解いて10分前に全部終わったーと思ったら、まだ裏面があった時のガッカリ感のような。


そんな気持ちを味わいながら、僕は古今泉ちゃんのところに向かっていた。

木々村くんと雑談しながら。


「あ、そうだ。今日の1時間目の授業は覚えてる?」

「ん?今日の1限は、英語だっただろ?それがどうかしたのか?」


それがどうかしたのか?じゃないんだよなぁ!!今1番大事なことなんだよなぁ!!


「何やったか覚えてる?」

「確か時制の問題を解かされた」

「助動詞絡めたやつね」

「ああ、そうだった」

「普通に覚えてるんだね」

「今日やったことくらいはな」

「どう解くんだっけ?」

「確か、過去に〜したに違いない、のときは、haveを入れるんだったか?」

「うん、そんな感じ。記憶力が悪い訳じゃないみたい」

「テストは大丈夫そうだ」

「はは、そうだね」

「いや、だが、これを後3週間ほど覚えてないといけないのか」

「そうだね。そーいや、木々村くんは木々村くん、前のテストどうだったの?」

「英語はそこそこだった。そこまで苦手ではない」

「苦手科目何だっけ?」

「古文だな。古文はどうしても勉強しないといけなかったが、結局一夜漬けだった」

「古文って一夜漬けで何とかなるっけ?」

「いや、ならなかった」

「だよね」

「訳だけなら覚えられるが、文法的に説明するのは無理だ。助動詞がわからん」


「そうだね。僕も文法的に説明するのは苦手だな。難しいよね。助動詞テスト範囲じゃなかったけど」

「そうだったのか?」

「そこから?」

古文に関しては記憶力がよくないみたいだ。

「でも、いずれあの助動詞一覧表を覚えなきゃいけないんだよなぁ」

「マジか。今日授業で一覧表見たがあの数を覚えるのか。面倒くさすぎる」

本当にだるそうに答える木々村くん。

授業の内容は覚えている。嫌なことだけ覚えてられない、とかでもなさそうだ。


「そうだね。僕も面倒だな。あ、そうだ。動詞の活用形は覚えてる?」


「ぞなむやかこそ?」

「は?それはない」


つい、辛辣にツッコミを入れてしまった。

活用と言われて「ぞなむやかこそ」が出てくるのは古文苦手とかいうレベルなのか?それを超えてない?

「……嘘でしょ?」


「いや、悪い。冗談だ。何だっけ?活用形って」

必死に取り繕おうとしてるけど、これ、冗談じゃなかったな。多分本気で「ぞなむやかこそ」を言ったはず。仕方ない。もう少し具体的に話をしよう。

「えっと、じゃあ、四段活用ってわかる?」


「あー、それか。ない、つけて、ア段になるやつだな」

よかった。話が通じた。晴れやかな表情で答える木々村くん。本当にピンとくるものがあったようだ。この調子なら、もう少し話せるか?

「そう!それ!それの活用は?」


「あ、あ、い、う、う?あ、い、う、う、う、え?」


「嘘でしょ」

古文ヤバすぎる。

これも能力受けてるんじゃないか?古文が苦手になる能力。


「いや、本当、古文苦手なんだよ。わからん」

ボクの「嘘でしょ」発言を受けて、バツが悪そうになる。

「苦手というか……。そのレベルを超えてるよね。活用形覚えてないと、流石に文法的説明とか無理だよ。助動詞がわからんとか言ってる場合じゃないよ。一夜漬けとかしてる場合じゃない」


「そうか。助動詞と言ってる場合じゃないか」

珍しく僕の言葉を受け入れている。いつもは謎の反発を感じさせるような対応をするのに。

古文に関しては本気で悩んでいるのかもしれない。



「早急に何とかした方がいいよ。あ、そーだ。古今泉ちゃん、勉強できるからおしえてもらったら?」


「古今泉勉強できるのか?」

ちょっと意外!みたいな顔で聞いてきた。

木々村くんは、古今泉姉妹の凄さをイマイチ知らないようだ。古今泉のお姉ちゃんの方は、美人で元生徒会長で、余裕の学年トップ。そしてみんなの憧れ。あまりの完璧さ具合に玉砕するのが当たり前だから、告白する男子は最早いないと言われるくらいの完璧さを合わせ持つ、何これ?マンガの世界の住人では?と言われるくらいのスペックを誇っている。

未来ちゃんの方もお姉さんに似てすごくかわいい女の子で、勉強もできる。

ぶっ飛び具合はお姉さんに劣るらしいけど、それでもかなりのぶっ飛び具合だ。

お姉さんと違うところは、お姉さんほど完璧オーラを発していないから、それのお陰か惹かれる男子が多いという点。


「木々村くんは、古今泉未来ちゃんと結構仲いいと思ってたけど、そういう話はしなかったの?」

「ああ、してないな」

「確か学年2位だって聞いたよ」

「ヤバいなそれ」


「でしょ?古文が得意かどうかはわからないけど、流石に木々村くんよりはできるでしょ」


「そりゃそうだろうな」

「だから、教えてもらったら?」

「そうだな。それもアリかもしれない」




古今泉ちゃんのクラスの前の廊下に本人がいた。これから部活みたいな雰囲気だ。


「あ、古今泉未来ちゃんいたね。よかった、早く見つかって」

「そうだな」

「これから部活みたいだけど、取り合ってくれるかな?」

「急用だと言えば取り合ってくれるかもしれん」

「まぁ、確かにね」

本当に緊急性が高いからね。


古今泉ちゃんに近づいていくと、僕らが声をかける前に古今泉ちゃんが気づいてくれた。

「木々村くんと凪元くん」

「古今泉さん、これから部活かもしれないけど、時間もらえる?かなり緊急事態なんだ」

「え、何?また何かあったの?」

古今泉ちゃんは驚いてる。また、ということはやっぱり何か能力に関わることを体験した当事者なんだろうな。

「……」

「ほら、言わなきゃ」

木々村くんが何も言わないから僕が促した。何でそんな何も言わないんだ?照れてるのか?


「いや、別に何かあった訳じゃない。ただ、今度古文を教えてほしいと思って」

最初はジャブ、みたいな会話を繰り広げる木々村くん。うん、まぁ、いきなりストレートを打つのは相手もびっくりするしね。牽制から入るのもなしではないか。

「そうそう。さっき話してたんだけど、木々村くん、マジで古文ヤバくて」

「そうなの?いいよ。今度一緒に勉強会しようか?」

ちゃんと話合わせてくれる古今泉ちゃん、優しい。

「じゃあ」

と木々村くんが、踵を返して帰ろうとする。

「え、うん、じゃあ」

と古今泉ちゃんもキョトンとしていた。もう帰るの?みたいな。

「え、ちょ、はぁ?」

思わず、はぁ?って声が出てしまった。

ちょっと待ってよ。

古今泉ちゃんも緊急事態じゃなかったの?みたいな顔してるじゃん!古文のことだけで終わっていいわけないから!!とは思ったが。

この反応には心当たりがあった。

僕はそのまま去ろうとする木々村くんの肩に手をかけ、グイとこっち側を向かせた。


「……あのさ、また忘れてるの?」

「何をだ?」

「……嘘でしょ。とぼけてないよね?」

「……とぼけてはいない。……嫌な予感はするが」


「はぁ……。マジかぁ……」

ついさっき話していたことなのに。

古文の話を挟んじゃいけなかったかなぁ……。


「古今泉さん、ごめん。ちょっとこっち来て。僕から話す」

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