53-森の洋館〜夜の少女
部屋の中を見ると、内装は勿論見えなかったが、窓からうっすら光が入っているので、大きな窓にレースがかかっているのはわかった。
その窓のところに背の高い影がある。
何だこれ?
「ほら、アレ見てよ。帽子掛けがあるでしょ?」
なるほど。帽子掛けか。腕が何本も伸びてるように見える。
「あるな」
「アレが美少女幽霊の正体だよ」
「なるほどな。そういうことか」
「実はね。この部屋のドア、緩くなっててね。1人でに開いたりするんだ。それで他の窓が割れてる部屋とかから風が吹いて、ここのレースが揺れて、この窓に人影があるように見える。
病気がちなお嬢様は白い服を着てるイメージがあるからね」
「はっきりと原因までわかってたんだな」
「うん。前々に調べておいたよ」
それなら下見、とかいうレベルではないな。ガッツリ調査をしていたんだろう。もしかしたら日中にそれに何日もかけて調査していたのかもしれない。
「お前の仕事って、幽霊屋敷の正体を突き止めることだったのか?」
「うーん。まあ、そういうのもあるかな。でも本当の仕事はここからでさ」
そこまで言って、中を光で左右に照らす作業に移る。勿体ぶるな。
「さっき噂ってのは大きな力を持つって言ったじゃない?」
「確かに言ってたな」
「本当に小中学生がここによく来てたみたいでさ。得体の知れないものに近づかない方がいいっていうのに。で、かなり噂が立ってるんだよね」
「そうするとどうなるかっていうと、その噂されたものが実際に出てきちゃうんだよね。現実世界に」
「……」
「ここの洋館にもさ、本当にいることになっちゃうんだよ。病気がちで部屋から出れなかったお嬢様」
ここにいるということか?怨霊……というわけか?
「まぁ、ちょっと待ってて。今見せてあげるから」
凪元が、持ってきた道具を使って何かを唱え、動く。
その動きはこの部屋の中を自分が支配しているのを示すような踊り?踊りなのか?
その動きは実際には10秒に満たないほどの僅かな間ではあっただろうが、とても長く感じられた。
凪元が用意したものによって、部屋の中が赤紫に灯る。部屋の内装が見えるようになった。
「ほら。あそこ。洋服ダンスの前。いるでしょ?」
いるでしょ、と言われても、と思ったが、
凪元が、指を刺した先には確かにいた。
長い髪、白い服、背丈は凪元と同じくらい。
表情は髪に隠れてよく見えない。
線の細い女の子がそこに立っていた。
若干、全身に冷たいものが走った。
「この娘が、まだ実体化はしてないけど、この先幽霊として現実世界に来ちゃうかもしれない女の子。
縁もゆかりも無いこんなところに連れられて来てかわいそうでしょ。だから、僕が元の場所に返してあげようと思って」
凪元が何を言っているのかは全くわからなかったが、目の前にいるのは、実体のない女の子らしい。
よく見ると透けている……のか?輪郭もそれとなくボケている?
凪元が声を発している。
少女に語りかけるように。
そうすると、少女もそれに反応する。顔が垂れていた髪の間から見えそうだったが、表情はハッキリとは見えない。
「じゃあ、行こうか。この娘と一緒にこの館から出るね」
というと凪元はこの部屋を赤紫に染めていた光源を消したようだった。
一気に懐中電灯の光だけが頼りの暗闇に戻る。
勿論幽霊?の少女は見えなくなった。
「あぁ、見えないけど、僕の後ろについてきてるから。安心して」
そう言って、先を俺に促す。
ああ、部屋の外に俺が先に出ろってことか。
凪元の意図通りかは分からないが、外に出た。
その後に凪元も出てきた。
「本当にいるのか?」
「うん。この娘1人だとここから抜け出せなくて、僕についてきてもらってる」
「そうか」
だが、凪元の歩みは後ろに人がいるように歩いているとは思えない。
いや、人でなくて幽霊なのだが。
先ほどと同じ階段を降り、館の出入り口の扉を開ける。
サーっと風がなだれ込んでくる。
気圧の問題か。入る時は気にならなかったが。
「あそこの門から出たらそこでこの娘を解放するから」
あそこの門というのは、錆びた鉄の扉だ。
そこを越えればいいということか。
何だか日常と非日常の境の扉のようだな。
この洋館の敷地内が非日常で、あそこの門の先は日常の世界、といった感じに。
自分が今非日常の方の世界にいると考えると、意識が遠くなりそうだった。
門までの距離が遠くなったような。
「と。木々村くん。しっかり。雰囲気に呑まれないで。もう少しだから」
後ろにいた凪元が俺の背中を支える。
マジで俺が後ろに倒れそうだったらしい。
自分の精神の弱さに少し恥ずかしくなりながら、もう凪元の世話にはならんぞ、という決意を新たに、前に進んだ。
決意を新たにしてからは、ふらつくこともなく、外に出れた。
入る時は硬かった門も、帰りはすんなりと開けられ、困ることもなかった。
手が少々鉄臭くはなったが。
凪元も敷地外に出て来た。お嬢様の幽霊?も一緒にいるのかもしれないが見えない。
「まだ一緒にいるのか?」
「うん。いるね」
「お前にはわかるのか」
「うん。わかるようにしてるよ」
相変わらず凪元の言い方ではハッキリとは分からないが、多分問題ないのだろう。
凪元がよくわからない動きをする。
すると周りが先ほどの赤紫の光が現れた。光源を取り出したようだった。
屋外だというのに、辺り一帯が赤紫に染まる。
「これ、何なんだ?」
「後で説明するよ。これからこの娘をこの場所か解放する。しばらく待っててね」
周りが赤紫に染まると先ほどの少女が見えた。
どうやらこの光のお陰で見えるようになっているらしい。
どういう仕組みなのか。
凪元は少女の周りに手をかざす。何かを探っているようだ。
心なしか少女が警戒しているように見える。
年頃の少女に向かって手の平を向け、ゆらゆらさせていたら変態にしか見えない。
「うーん……」
凪元は少し唸ると、少女の左下の辺りに右手を持っていき、何かの動作をした。
道具も何もなしだったからハッキリとはわからなかったが、何かを握るパントマイムのような。
凪元が何かを喋った。
少女がそれに反応して動く。5歩くらい歩き、その後こちらを向き直り、少女は和かな表情をむけて来た。
初めて表情が見えた。
あどけない顔の少女だった。小学生4年生の辺りの女の子だろうか。
「……」
凪元が何を言った。何を言ったのかわからない。が、言葉を発したのだけはわかった。すると少女は凪元に向かって礼をして、手を振る。そして少女はついでにと俺の方にも手を振る。
ああ。解放されたんだな、と感じた。
少女はそのまま翻り、歩いて行く。数歩歩いたところで、そのまま消えていった。
「よし、これでおしまい。今回の女の子は、友好的でやりやすかった」
「アレが幽霊なんだな。初めて見た」
「正確にはなりかけ、だけどね。まだ現実世界に現れる前の存在かな」
「あの赤紫の光が、現実に現れる前の存在を見えるようにしてたってことか」
「そんな感じ。怪異はあの空間で力を蓄えてるみたい」
「なるほど」
「わかった?僕らはああやって現実世界に来る前の怪異を何とかしたり、現実世界に出て来ちゃった怪異を何とかしたりしてるわけ」
「そうだな。わかったよ」
だが、この仕事、俺要らなくないか?何で連れてこられたんだ?
「幽霊とか妖怪とかは人の念とか想いとか、そういうのから生まれてくるんだよね。最近はそういう解釈が割りと浸透してきたっぽくて、そういうお話も書かれてるみたいだけど。
物語の世界も実際に近づいたってことだね」
「さっきお前が言ってた漫画の話か」
「あー。それは違うよ。アレは単純に超人気作の話。木々村くん、国民的なマンガも読んでないみたいだから、読んどいた方がみんなに溶け込めると思うから、読んでおいた方がいいと思うよ」
凪元に人間関係について諭された。
マンガか。確かに溶け込むために必要なら考えておくか。
いや、それよりも
「で、凪元。何で俺を今日は呼んだんだ。まさか仕事ぶりを見せたいがためか?」
「いやー。それもあるけどね。そうじゃなくて。木々村くんを呼んだのは、ここからが本題」
まだ何かあるのか。
「木々村くん。この洋館さ。すごい古そうでしょ。あの女の子も昔、ここに住んでましたって感じがするでしょ?」
「そうだな」
「何年くらい前のものだと思う?」
「そうだな……」
電気が通っているかどうかは分からなかった。造りの様子から見て、これは何十年前のものだ、と言い当てたい気持ちもあるが、正直俺には建築的な知識がない。だから、分からない。
少女の服装からそこまで古くなさそうでもあるが、しかし、建物が昔に建てられたっぽいとは思った。
「建てられたのは100年くらい前か?戦前になってしまうが」
「うん。まぁ、そんな風に見えるよね。でも、ここ、昔は何もなかった」
「は?」
「もっと言うと1年前までは、ただの森だった」
「おい、ちょっと待て」
何言ってんだお前。もっとわかりやすく話せ。
この1年の間にこんな古そうな洋館がこんなところに建てられたってのか?
「これが建てられたのは早くても半年前」
「半年前?どういうことだ?」
「最近、誰かが無理矢理建てたんだ。こんな古そうで、いかにもってものをいかにもって場所に」
「何の理由で?」
「さあ?」
「この洋館が出来たのは早くても半年前って言ったけど、もっとおかしいことがあってさ。この洋館、急に現れたらしい」
「墨俣の一夜城かよ」
「そう。まさにその墨俣の一夜城みたいな感じ」
墨俣一夜城とは、豊臣秀吉という名前になる前の木下藤吉郎が、一夜にして城を建てたと伝えられている城だ。敵兵があまりにも早く城が建てられてビックリしたとか、そんな話だった気がする。
「誰が何のために、どうやってこれを建てたのか?
それはわからないけど。
元々ここら辺の心霊現象が多発してて、その解決のために僕は今の高校に入学したんだ。
おじいちゃんの家もちょうどあったしね。あ、今住んでるところ、おじいちゃんの家なんだ」
凪元の家は祖父の家だったのか。だから、あんな和風な家だったんだな。
「でも、ここ最近は多すぎる。まるで、誰かがわざと心霊スポットを作り上げているかのように」
「作り上げてる……」
「無理矢理に作ってるんじゃないかって僕は思ってる。こんな大規模な建築、普通じゃない。それにこういうやつのせいか、ここ最近の僕らの仕事が多すぎる」
「お前の、お前たちの仕事を手伝え、とそういうことか?」
「ああ、それもいいね」
凪元は言葉の内容とは裏腹にそれはどうでもいい、みたいなテンションで同意した。
「魅力的な提案だけど、本当に言いたかったことは」
「能力者案件だよね?これ」
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