51-森の洋館〜忍者の仕事


テストが終わった。そしてテストも返ってきた。テストの結果以外は平和に過ごしていた。



夜家に帰ってのんびりしていると、凪元から連絡があった。


「明日学校終わったら付き合って欲しいところがあるんだけど」


凪元から連絡があるなんて珍しい。


「何だ」

「僕の仕事で付き合ってほしいことがあるんだよね」

凪元の仕事。それは日常にはびこる怪異を始末するとかいうそういう仕事だっただろうか。

轟剛力の時も凪元の仕事について軽く聞いたし、その後もそれとなくアピールされていたような気もするが、凪元の仕事に実際に巻き込まれるのは初めてだ。


素直に面倒だと思ったが、いつものようなおちゃらけた感じでもなかったので、とりあえず話を聞くことにした。


「わかった。明日の学校終わりに話だけでも聞く」




学校の帰り、凪元が話しかけてくる。

「今日のことだけど」

「ああ。仕事についてこいってことだろ。俺を一緒に連れて行きたい理由は何だ?」

俺は一般人だぞ、と続けてもよかったかもしれないが、流石にわざとらしく白々しすぎる故、言わなかった。

「ちょっとだけ山、というか、森?の中に入るから、着替えてさ。それから集合したいんだけどどう?」

俺の話なんて聞いちゃいないのか?

古今泉百々華もそうだったが、俺の周りには自分勝手に話す奴しかいないのか?

「何で俺なんだ?」

もっかいめげずにチャレンジ。

「ほら、色々手伝ってあげたでしょ?」

「……」

そう言われたら、何も声を出せなかった。俺は凪元には明確な借りがある。例えばケンカの力添えが欲しかったとしたら、俺を呼ぶ理由もある。凪元は、俺がそれなりに戦えることを知っている。それなら力を貸さざるを得ないだろう。

怪異に対して俺に何の太刀打ちが出来るのかは全く不明ではあるが。




学校から帰り、着替えた。山登り?だか、森散策だか、そういう格好をしてこいということだったが。5月も中旬を過ぎた。暑かったり涼しかったりもしてるが、今日は結構涼しかった。

長袖の服を着ていくことにした。


枝で傷付いたり、虫がついたりするのは面倒だ。


凪元が車で迎えに来た。

今回こそは、車に乗らなければいけなかった。


運転手は、20代後半ほどの男性に見えた。

後部座席に俺も座り、何故か凪元も座っていた。助手席に座らないのか。


「やぁ。待った?」

ドアを開けると、凪元はデートの待ち合わせをしているカップルに尋ねるかのように言った。

やめろ、気色悪い。


「待ってない」

「そう。よかった。じゃあ乗ってよ」

言われるままに乗る。隣に座ることになる。

「よろしくお願いします」

挨拶は欠かさない。


「20分くらい乗るよ」

と言うのを皮切りに、凪元は色々と話し始める。

学校でのこと。

週刊マンガの最新号での話。

俺がその漫画を読んでないとわかると、自分な好きなマンガのストーリーについて、見たほうがいいよ!と語り出す。

師匠に引き取られる前はいくつか読んでいたような気もするが、師匠に引き取られた後は触れる機会が全然なかった。


俺は師匠から「マンガなんて読んでる暇あるのか」と責められるのが怖くて読んでいなかった。実際に師匠に咎められたわけではないが。

だけど、その恐怖心からほとんど読んでいなかった。


師匠はいくつか読んでいたようだったけれど。



車が止まった。

「ここから歩くよ」

「金森さんは連絡したらまたここに迎えに来てね」

運転手は金森さんと言うらしい。



車から降りて、2人で森道を歩いている最中に本題についての会話になった。


「木々村くんは、妖怪とか都市伝説とか信じてる?」

「いきなり何の話だ?それこそマンガの話じゃないのか」

「いやいや、さっきのは単なる雑談だから。関係ないよ」

「さっきの話は伏線とか導入じゃなかったのか」

「ないない。車の中で本題に入っちゃうと金森さんにも木々村くんのこと色々聞かれちゃうしね。あまり聞かれたくないでしょ?」

車内で凪元が雑談をして、本題に入らなかったのは、奴なりの気遣いだったらしい。

まぁ、俺は凪元に認識のすれ違いを起こさせているわけだから、話としては合わせるわけにはいかない。

だが、実際は凪元は半分以上認識があっていて、間違っていないわけで。

「そうか」

曖昧な返事をしておく。


「で、話し戻すけど、そういうの信じない人?」

「いや……」

俺は妖怪、都市伝説ではないが、何というか、世界にとっての異物、そういう類のものは知っている。師匠から怪異を専門にする退治屋が存在すると聞く以前から、そういう存在がいるということは聞かされていた。妖怪ではないのだけれど。

異形のもの。

もっと悪意のある存在だと、世界に仇なす者。

師匠はそんな風に言っていたか。

そして、それに対抗するために能力者が存在すると言っていた。

「能力は人と人が争うためにあるんじゃない。人が人ならざるものと戦うために存在する」


凪元が言ってるのはこうではなく、ろくろっ首やぬりかべ、人面犬、そういう類いのものだと思うが。


「そういうのは見たことがない」

「見たことがないってのは……普通そうかもしれないね」


「まぁ、木々村くんが信じてるか信じてないかはあまり関係ないけどね」

だったら何で聞いたんだ?と思ったが、凪元が続きを言いたそうだったので、黙っておく。


「赤鬼とか知ってる?鬼のパンツーはいいパンツー♪とかの鬼ね」

「流石にそれくらいは知ってる」

赤鬼は知っているし、歌に関しても小さい頃に、園児の頃に歌ったような気もする。

「じゃあ赤鬼が、西洋人説は?」

「いや、聞いたことないな」

どういうことだ?何が言いたいんだ?

「赤鬼はお酒を飲んで酔っ払って肌が赤くなった西洋人だって説。身体も日本人よりデカくて力強い」

「後は天狗も西洋人説あるね。顔が赤くて鼻が高い。西洋人の方が鼻高い傾向あるでしょ?」

「俗説じゃないのか?」

天狗の話は聞いたことがあった気がする。

しかし、学術的にはどこも確証がなかったのではないか?

「そう。俗説。他にもカッパの正体はハゲた浮浪者のおっさん、とか」

「いや、知らないな」

「昔は浮浪者になったら川沿いに住むことが多かったらしくてね。でも川って危ないから。雨降った後の川って氾濫するでしょ?子供たちに対して危険だから行くなって脅すために河童の伝説を作ったって」

「あるいは、子供の水死体説とかね」

「間引きされた子供が、水中に捨てられるんだって。水中で死ぬと、背中が膨らんで甲羅みたいになるんだって。後、肛門の括約筋が緩んで、飛び出たようになって、それが尻子玉を抜いたように見えたりね」

「グロいな」

「そうだね。僕はショタ好きの浮浪者のおじさん説もアリだと思うけどね」

「何だそれは」

「尻子玉を引っこ抜かれるって奴の話よ。子供大好きおじさんが、子供と相撲をとって、勝ったら尻子玉を抜くって話があるんだよ。知ってる?」

「尻子玉については知らない。というか、尻子玉ってそもそも何だ?」

「ああ、肛門のところにあると思われてた架空の臓器だよ。死体の肛門から飛び出てるのは、尻子玉を抜かれたから飛び出てるんだっていう話が有名かな。本当は尻子玉なんてないけど」

「なるほど」

納得してしまった。

「まぁ、諸説あるけどさ。河童って実在しなかった訳よ。見間違いだとか、現実を利用した作り話だとか。そういうのが妖怪の正体ってのが実際だったりするわけ」

「なるほど。そうやって妖怪とかが生まれた訳か」

それだと、師匠の言う世界に仇なす者とは全く関係ない。それに妖怪退治とかも単なる不審者退治ということになりそうだ。

「そう。そうやって妖怪の伝説が生まれてった」


「じゃあ、お前たちが扱う怪異って何なんだ?」

凪元の一族が怪異を処理する専門家だと聞いた。しかし、妖怪とかが実在しないのであれば、凪元の一族はニートだということになる。


「そう。そこがポイントなんだ。

僕が今日1番話したかったこと。

実際には妖怪とかっていないはずなんだけど、その噂が立つことには大きな意味がある。

言霊って知ってる?言葉は、実際に言葉にすることで実現しちゃうってやつ」

「ああ。知ってる」

これは別に師匠から聞いたとかではない。一般常識的に知っているだけだ。

「神様の力、とかもそうだけど、人々が信仰することで大きな力を持つんだよね。だから、信者さんや参拝者が多い神社とかの神様は力が強い。

実は民間伝承とかに出てくる妖怪とかも同じようなものでさ。それを語る人が多ければ多いほど、力を持つようになるんだ。

そして力を持てば持つほど実体化する力も大きくなる」

「さっき、実際にはいないと言ったが?」

「そう。実際にはいないんだ。でも、人が噂をすることによって形成されていくんだよね。この世界の裏側に」

「裏側?」

急に胡散臭い話になってきた。世界の裏側?そんなものは初めて聞いた。

俺たちが話している間に、周りが木々に囲まれていて、歩いているのが獣道になっていることに気づいた。

暗い森道の中で、段々と平衡感覚がなくなっていく。

凪元は今から何をしようと言うんだ。


「そう。裏側」

意味ありげにそう呟いた跡、凪元が懐中電灯を前に照らした。

「あ、ほら。あそこだ。見える?古そうなレンガ造りの洋館があるよ」



確かに古い洋館が建っていた。こんなもりのなかに。


「ここに暮らしていた人は不便そうだな」

「そうだね」

俺の軽口に凪元が意味深に返す。

何なんだ。こいつさっきから。


「今日の目的地はあそこの中なんだ。後のことはあの中で話すよ。はい、これ明かり」

と言って凪元は俺に自分の持っているものとは違うもう一本の懐中電灯を取り出して俺に渡してきた。


頼りない2本懐中電灯の明かりだけが、周りを照らし、後の大部分は暗闇に呑まれたままだった。


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