45-危ないと思った時はやっぱり危ない。気のせいとして処理してはいけない
休み明けの月曜、凪元とテストについての話をした。
「今回の範囲は狭いらしいね」
「そうなのか」
「うん。先輩たちからすると、すっくな!って感じらしいよ。先輩たちは歴史が60ページくらい範囲あるって」
「ヤバいなそれ」
「英語もユニット3つとか言ってたよ」
「俺たちの2倍か?」
1年の英語の範囲は1つとあとユニット2の少しといったところ。
2年生はユニット3つ分が丸々あるのだという。
「2年生は大変だな」
「来年の僕らもそうだからね。他人事じゃないんだよ」
たしなめるように凪元が言う。
まぁ、そうか、とも思ったが、俺は高校のテスト自体が初めてなわけで。いや、それは1年生なら同じか。
とにもかくにも、俺は定期テスト自体が初めてなわけで。勝手がわからなさすぎる。勝手がわからず、いまいち容量が掴めないでいた。
殿子さんは「わからないところがあったら教えてあげるよ!」とか言っていたが、見たら殿子さんもわからなかったらしく、
「ごめん、私には力不足だったよ」
と言ってうなだれていた。
殿子さんに勉強教えてもらうのは少し楽しみだっただけに残念ではある。
できる限り自分で対策するしかないよねと思った次第だ。
俺は昨日そう思った。
「でも、先輩たちが言うにはこの時期は1年生範囲狭すぎるから、訳の分からない細かいとこ聞いてくるって言ってたよ」
「そうなのか」
割りと有益な情報を聞けた気がする。
活かし方はわからないが。
実際は、どこを勉強すればいいんだ?
学校の授業も社会なんかは、テスト前で範囲が終わってしまったので、授業をやらないで自習の時間にしてくれた。ありがたいことだ。
自習といっても、覚えるだけ、みたいなところはあるが。
それより俺の場合、問題は古文だった。既にさっぱりわからん。
何を覚えるのかすらさっぱりだった。
仕方ない、と。
家で古典辞書とにらめっこをする覚悟を決めて帰ろうと、昇降口から出て、後者の前を歩いているところだった。
「誰かー」
悲鳴と助けを求める声がした。昼の学校にはおよそ似つかわしくない叫び声。
俺がいつも帰る方向とは違う方の校門の方から声がしたようだ。
何か事故でも起きたか?と思い、野次馬根性を発揮し、帰るには遠回りになるが、そっちに向かう。
いつも使う校門とは違う方向の校門の向こうに、大混雑というほどは集まってなかったが、数人の人の壁があるくらいには人だかりができていた。
その壁の向こうの中心には、座り込んでいる女子生徒がいた。
大丈夫?とその友達であろう女子生徒が泣いている女子生徒を慰めているように見える。
本格的に何かあったようだ。
壁の1人に話しかけてみる。
「何かあったようだけど」
「古今泉さんが……」
「古今泉が?」
相手は言いかけだったのに遮ってしまった。そして自分の思った以上に大きな声が出た。
泣いているところ悪いが、女子生徒に話を聞くことにする。
「おい、何があった。古今泉に何かあったのか?」
腰を下ろして尋ねた。泣いてる女子生徒は答えず、その隣で慰めていた女子生徒が俺に答えた。
「木々村くん。あの、未来ちゃんが連れ去られちゃったって」
それを聞いて血の気がひいた。肝が冷えた。構えていたはずなのに、思っていたよりも大きな威力で不意打ちをくらったようになった。
またもや俺はやってしまった。
「連れ去られたって、誰に?金髪でガタイのいい男だったか?」
これは池崎龍弥の外見的特徴だ。
「うん」
と今度は泣いていた女子生徒が首を縦に振って答えてくれた。
ほぼ分っていたにも関わらず、心臓を強く鷲掴みにされた。
俺は古今泉とずっと一緒にいるべきだった。家まで送るべきだった。できれば姉の百々華も。テストなんて本当にどうでもよかった。テストのことで悩んでる場合ではなかった。
古今泉に被害が及んではいけなかった。無関係の古今泉だけは、俺が守り通すべきだった。
後悔と自分に対する憤りが溢れる。
止まらない。
師匠に怒られるかもしれないだとか、それよりも遥かに大きい絶望だった。
「連れ去られたのは、どれくらい前だ?」
虚空を見つめたまま辛うじて、声が出た。
「え、わかんない。2分くらい、前?」
力を振り絞り、女子生徒の方に視線を向ける。
女子生徒はこちらを向いて答えてくれていた。
向こうも、振り絞って答えてくれた。
「ありがとう」
泣いていた女子生徒からの力も受け、軽い立ちくらみを起こしながら立ち上がり、歩みを前に進める。
身体が重い。
だが、その重さも気にしてられない。
俺は古今泉を助けなければならない。
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