44-憧れの人と一緒に紅茶を飲む空間


ないとは思うが少しは警戒しておくか。

古今泉が姉の百々華と2人で外出するらしい。

池崎が居場所を探り当てたり、あるいは、古今泉百々華の方から連絡を取っていたり……。可能性としてはある。


そう思ったので、一応古今泉にどこに出かけるのかだけは聞いておいた。

もしもの時のために。

電車で繁華街まで出かけるとのことだった。具体的にはどこかは決まってないが、ぶらぶらするとのことだ。

「お姉ちゃんから誘ってくれたから嬉しい。木々村くん、ありがとうね」


古今泉からお礼を言われてむずがゆい気持ちになる。俺は今回、特別なことはやっていない。ただ、無理矢理役割をもらっただけ。そして、姉を家まで帰らせただけだ。

部隊の方から報酬はもらうことになるらしい。そこら辺の金銭的なやり取りに関しては師匠や殿子さんがやっている。


しかし、そんなお礼の話よりも、姉の百々華の話だ。自分から誘ったというのが引っかかる。

あまりにも急に態度を変えすぎだ。

なぜ、怪しまれる要素を自分から残していくのか……。これが古今泉百々華の為せる技か。


俺は古今泉百々華が、池崎の能力について知っているかどうかも判断がついていない。

古今泉百々華が池崎の能力のことを知らないのならまだしも、知っているのなら黒の可能性は高い。


何も起こらないことを祈るしかないか。



古今泉のことは心配ではあったが、流石に俺も古今泉がいるという繁華街に出ることはしなかった。




俺は勉強していた。今週末からテスト週間なるものが始まるとかなんとか。

気づいたら夕方だった。

殿子さんが俺の様子を見て「珍しいね、一日中勉強してるなんて」と言っていた。

「今週からテスト週間なんで」と答えたら「なるほどね。感心だね」と俺を労ってくれた。

学生生活の方が慣れていない俺にとって、テスト勉強なんていうものは新鮮だった。

それなりに有意義に過ごせたのではないだろうか。

不穏なことが何もないならそれに越したことはない。


勉強を終わらせてその後、殿子さんとお話ししていたら、古今泉から連絡があった。

「今から帰るよ。今日どこで話す?」

と来た。俺の用事は池崎のことを伝えたいだけだったので、もう要件はなかった。だが、そうか。俺の連絡したいことはもう伝え終えたことを言ってなかったようだ。

「悪い。俺が伝えたいことは伝え終わったから話すことはない。もし帰りを急がせたようだったら申し訳ない。」

「あーそうなんだ。わかった。帰りを急がせたなんてことはないから大丈夫だよ」

「何もおかしなことはなかったか?」

「大丈夫!なかったよ」

「ならよかった」

「心配してくれてありがとう」

と本当に何もなったようで安心した。



「良平くん、それ、古今泉さんって子?」

古今泉とやり取りをしているのを見て、殿子さんが聞いてきた。

「え、そうですけど、どうしてですか?」

「なんか嬉しそうだったから」

そんな風に顔に出ていたのだろうか。これでは確かにわかりやすいと言われても仕方ない。

「安心してたんです」

これは本心だ。

「池崎が今捕まってないって話でしたけど、今日は古今泉の方にはいかなかったみたいで」

「そういうことだったんだ」

殿子さんは紅茶を飲んだ。

「良平くんも何か飲む?」

俺のコップにはもう既に何も入ってなかった。

「じゃあ、紅茶のおかわりをお願いします」

殿子さんが紅茶を入れるだろうから、そのついでにと思った。俺は紅茶の味の区別は全然つかない。殿子さんはいつも同じ銘柄飲んでるからついているのかもしれないけれど。


「はーい。入れてくるね」

殿子さんは席を立った。


キッチンの方から音が聞こえる。

ポットからお湯を注いでティーバッグを入れている。


殿子さんは優しい。そして紅茶も入れてくれる。嬉しい。

今日は久しぶりに殿子さんもオフだったから、こうやって2人でのんびりできる時間がたまらなく嬉しい。

細かい紅茶の味はわからないが、殿子さんが俺のために紅茶を入れてくれてるということがとても嬉しい。


殿子さんは親代わりというよりも、お姉さんという感じだ。

俺が甘えようと思える存在でもある。実際に甘えるのは、今のような紅茶を入れてもらうことくらいだけど。

出会った当初から、殿子さんは俺のことを気にかけてくれていた。

俺が家族を失い、クソ生意気にも悲劇のヒーロー気取りで殿子さんに対して不機嫌を振りまいていた時であったとしても、殿子さんは俺のために動いてくれていた。

そのありがたみに気づいたのは師匠にぶん殴られてからだったが。

今は勿論ありがたいことだと知っている。

問題児だったであろう俺を受け入れようとしてくれていた。殿子さんに出会えたことで、俺は幸運だったとさえ言える。


そういう女性だから、俺は憧れているし、今も一緒にいれて幸せだ。




殿子さんが紅茶を入れて戻ってきた。

「ねぇ、その子かわいいの?」

「えっ?」

思わず顔を上げて殿子さんの方を見る。予想外の言葉だった。

「古今泉ですか?」

「うん」

はい、どーぞ、と俺の分の紅茶をコースターの上に置いてくれた。

殿子さんは、そのまま自分の分の紅茶を飲む。

「かわいいと思いますよ」

俺は精一杯、動揺を悟られないように答える。

「お姉さんによると、モテるらしいです」

「そんなかわいいんだ」

「みたいですね」

「みたいって、良平くんはそこまでかわいいと思わない?」

「いえ、かわいいと思います。お姉さん思いだし、いい子だと思います」

「そっかー。じゃあ、古今泉さんにも挨拶しに行かなきゃね」

「え?マジですか」

「今回の件で、お世話になったんでしょ?じゃあ、挨拶しておかないと」

「確かに、かなり迷惑かけたし……」

凪元の件と同じように殿子さんは一緒に行こうとしている。そういう意味の挨拶だ。

「でも、もし殿子さんと一緒に挨拶しに行ったら、俺が1人じゃ挨拶できないちょっと甘えた高校生になりませんか?」

「ならないでしょ」

「ならないですか」

「うん。ならない。だから、今度一緒に行こうね」

「そうですね。今度テスト終わった辺りにでも」

古今泉にもテストがあるだろうし。今行くのは得策じゃなさそうだ。


殿子さんと一緒に古今泉に会うというのはかなり気恥ずかしいものがあるが、お礼とお詫びを兼ねて、ということなら、不自然ではないか?



そういえば古今泉はテスト大丈夫なのだろうか?



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