43-ミスが起きた時、自分に原因の心当たりがある時不安になる。


「着きましたよ」

と運転手が言った。

そのまま俺が金を払う。深夜料金なので、少し割高だ。

古今泉百々華の方を見ると目を開けて起きていた。ただ、動く様子はない。

「出るぞ」

「わかってる」

眠りかけの声だった。恐らく本当に短い時間睡眠に落ちたのだろう。そして、そのまま起こされた。

だから、言ったのに。

タクシーはそのまま去っていく。

道端の電灯と住宅の電気がまばらにある程度だ。そんなものでも、真っ暗闇にならない。

ここが住宅街であるが故か。

だが、もう12時を回っているので、人気はない。


家の前で降りたのだから早く中に入ればいい。

んー、と立ったまま目をつむっている。

「眠いなら早く家に入れ」

「んー」

あまり動くつもりはないらしい。

古今泉未来に連絡してみるか?

今連絡したら確実に迷惑だろうが。


俺がケータイを取り出すと

「今日はありがとう」

と古今泉百々華が言う。

どうやら俺がスマホに集中している隙に動き出したらしい。

俺が百々華の方に目を向けると

「じゃあね。おやすみなさい」

と家の門に手をかけていた。

そのまま一方的に別れの挨拶をして家に入っていった。

掴めないやつだ。何だったんだ、あいつ。



古今泉に連絡はしておくか。

「お姉さんはとりあえず家に返した。詳しくはまた明日」

俺はそのまま歩いて帰った。

40分くらいかかった。帰った時には1時を回っていた。

明日は休みだから問題はないが。


40分も歩けば、かなり考えてしまう。ただ、今回の古今泉百々華に関しては考えたところで何も見えてこなかった。



家に着いて、まだ起きていた殿子さんに帰ってきたことを報告して、師匠にも明日報告しますと連絡を入れて、シャワーを浴びてさっさと寝た。

まだ起きてはいられただろうが、師匠から来る返事を待ってられなかったので、寝た。



朝起きたら9時は過ぎていた。

師匠と古今泉から連絡が来ていた。

師匠は俺が送った後すぐに返信したらしい。報告しようと思えばできたかもしれない。

古今泉からは朝の時間だった。

興奮した様子で何通かメッセージが連続で届いていた。


師匠からは

「伝えることがある。時間をとれ」

とあった。こんな言い方するのは何かあった時だ。俺の報告を聞くためだけにこんな言い方はしない。嫌な予感しかしない。



「申し訳ありません。師匠。今起きました。」

そう送った。

なんとすぐに着信があった。

師匠すごいな。ずっと起きてるのか?

俺は今師匠がどこにいるのか知らない。時差関係でずっと起きていた時間帯なのかもしれないし、ただ、それだけの可能性もあるのだが、最近の師匠は俺が連絡を入れるとすぐに気付いている気がする。


「報告は後回しにして、先にお前に伝えておくことがある」

「はい」

俺の起きた時間報告に関しては触れられない。「おせーな、お前」くらいは思っているかもしれないが。

「池崎龍弥が捕まってないそうだ」

「え?ホントですか?」

「本当だ」

1番捕らえないといけないやつを捕らえてないってことだ。それは大丈夫なのか?あの作戦は池崎に味方をしようとする予定だった能力者を一斉にしょっぴくためのものだったはずだ。だが、それでも、池崎本人が捕まえられてなければまずいのではないか?

部隊の責任問題が問われるのか?

いや、俺にも非があるということで、俺も罰せられるのだろうか?


「池崎龍弥の家も張っているが、帰ってきてない。多分、張られているのを察知して逃げているのだろう。お前の学校に行く可能性が高い。

お前は池崎龍弥と交戦するかもしれないが、能力は消すな。無力化……まぁ、ふん捕まえるくらいで留めておいて欲しい」

「わかりました」

俺の奪う能力は不可逆だ。だからもし組織で調べたかったり、後に活用したい、と言った場合に俺が消してしまってた後だと、そいつは能力を全く使えないということになってしまう。


しかし、なぜ学校に来る可能性が高い?

理由は何だ?あいつ高校生じゃないだろ?

と一瞬頭がよぎったが、理由はすぐに検討がついた。

古今泉百々華か……。


池崎龍弥と古今泉百々華との関係は基本的にわからなかったが、やはり何か特別な関係ではあったんだろう。

だから、池崎が逃げて家にも帰ってないとすると、俺が唯一逃した古今泉百々華の方に助けを求めるということはありうる話だ。


ということは、学校ではなく、古今泉の家の方に行く可能性もあるのか?


「捕まえたらあいつらに引き渡してくれ」

あいつらというのは、部隊の人たちのことだろう。あの人たちの電話番号に連絡すればいいか。

「わかりました」

「じゃあ、切るぞ」

「あ、はい。あ、あの、報告は?」

「後で聞く。今は忙しい」

なるほど。師匠は忙しかったのに、無理を通してこの連絡を俺にしてくれたのだと分かった。

「じゃあ、報告等はまた後でします」

「あぁ」

切れた。


報告を今すぐにしなくて済むようになったのはいいのだが、この後の展開次第では昨日のことを報告すること自体が無意味になるのでは?と思わなくもない。


これからやることを整理しよう。


まずは、古今泉に連絡か。

古今泉からのメッセージには

「お姉ちゃんが帰って来てた」

「朝、一緒にご飯食べた」

「お姉ちゃんが私に話しかけてくれたんだけど!!!!!」

「泣きそう」

と言った内容が絵文字とともに送ってきてあった。

余程嬉しかったんだろう、というのと、それほどまでに百々華は冷たくしていたのか?という疑問が両方とも浮かんできた。



古今泉百々華の態度が軟化したことについては、俺が特別何かをしたって訳でもないんだけどな。

昨日の作戦のお陰で、古今泉百々華の心境に変化が生まれたか?

これで古今泉百々華については解決か。


いや、池崎龍弥が逃げ出したことにより、まだ古今泉百々華にも被害が及ぶかもしれない。

まだ気を許してはいけない段階だ。


俺が参入したせいで池崎が捕らえられなかった、とかいう訳ではないだろうが。それはないと信じたいが、今回、1番大事な池崎の確保に失敗している。

それのせいで、今後古今泉未来に影響がないとも限らない。

古今泉未来が喜んでいるところに水をさす形になり申し訳ないとは思うが、それについて元々連絡を入れるつもりだった。

「古今泉に伝えなければいけないことがある。できれば、お姉さんには内緒で」


俺はまだ姉を信用していない。昨日のやり取りで信頼を得るという方が難しいと思うが。


「どうしたの?また直接会った方がいい感じ?」

「今日、お姉ちゃんと2人で買い物に行くんだ♪その後ならいいよ」


音符まで書かれていた。文面から嬉しそうな感情がとても伝わってくる。微笑ましい。が、そうではなく。微笑ましいのは微笑ましいのだが、古今泉百々華と一緒に出かけるのか?



古今泉百々華。

彼女の本音がどこにあるのか、昨晩の会話ではわからなかった。

古今泉未来は姉のことを人望が厚いということを言っていたが、俺に対して見せていた対応はそれではなかった。

もっと他人に興味がない、自分の興味のままに動くような存在。そんなように見えていた。

だが、別れ際に見せた妹のことに対する反応は、家族想いの一面をのぞかせた。

本当に家族想いなら心配かけさせるな、と思わなくもないが。



だから古今泉百々華が未来に対して危害を加えることはないとは思うのだが、問題はそこではなく。


池崎龍弥が接触してくるかもしれないということだ。

もし、外出中を見計らって池崎が二人に接触、もとい、百々華に対して接触してきた場合、どのようになるかは想像しにくい。……下手したら百々華は池崎の助けをするかもしれない。

直接会う必要性をそこまで感じないので、注意喚起だけしておく。

「池崎龍弥に注意してくれ」

「お姉さんには内緒にしておいてほしいが、池崎龍弥だけ捕まっていないらしい」

「そっちの方に近づく可能性がある。それだけ注意しておいてくれ」

と送った。

返事が来た。

「なんでお姉ちゃんに内緒にしておく必要があるの?」

うーん。古今泉未来からしたら、もっともな返事かもしれない。危機意識は共有しておいた方がいいに決まっている。だが、内緒にしておいてほしいというのは俺の判断だ。俺は百々華に対して、まだ信じ切れていないところがある。それは勘みたいな、曖昧なものが根拠であるので、伝えにくい。


「すまん。何となくだ。その方がいい気がする。理由はあまり上手く言えない」

百々華があまり信用できない、とか余計なことは言う必要ないだろう。


「わかった気をつけるね」

とピース付きで返信があった。

納得してくれたのかどうかはわからないが、とりあえずわかってはくれたようだ。



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