37-自分の家族がそんなことをするなんて思いもしなかった


古今泉と話して帰った。

あの後も話していたので、少し遅くなってしまった。

殿子さんには、作戦会議をしていたと伝えた。


「明々後日、気を付けてね。何か私に手伝えることある?」

「いえ、大丈夫です。俺がやらなきゃいけないことだと思うので」


師匠から任せると言われたし、俺の思い過ごしかもしれないが、こうやって自分から調べる課題も与えられている。

なんとかやり切ってみせたい。


「でも、どうしてもダメだったら頼ると思います。その時はよろしくお願いします」

「はいよー任せてー」

少しだけ甘えた。殿子さんは満面の笑みで答えてくれた。


翌日、学校では何もなく、そして学校から帰った後も、夜まで普通に過ごしていた。

普通にと言っても暇していたわけでなく、俺は俺で準備をしたりしていたのだが、古今泉から連絡があった。

もう10時を過ぎている。もう少しで11時だ。


「今すぐ来て」

「お願い」


いつもの緩い雰囲気を醸しているメッセージとは違い、かなり切迫した様子だ。絵文字などの装飾がない。

「わかったすぐ行く」

無二の思考で、俺は外に飛び出した。高校生にしてはかなり遅い時間のように思ったが。殿子さんからは心配されたが、どうせ任務の準備だろうと軽く流されたように思える。

こういう時、殿子さんの物分かりのよさは本当に助かる。


明らかに異様なメッセージだった。だから全速力で自転車を飛ばす。古今泉の身に何か起きそうなのか?

場所は昨日二人で話した公園。昨日の今日ではあるが、また古今泉と夜に公園で話すことになった。


古今泉は公園のベンチに座ってうずくまっていた。

「ありがとうね。すぐ来てくれて」

「何かあったのか」

「うん。何かっていうか、調べたんだよ。私。昨日言ってたこと」

「お姉さんのことか」

「うん、そう」

今にも消え入りそうな声だ。だが、それなのに俺に伝えようとして空元気が痛々しい。

「ごめんね。まだ動揺してて。予想以上に衝撃だったんだ。あ、あと、どうやって調べたかも言うね。私、木々村くんに黙ってたことがあったんだ」

何だ?まあ、俺も古今泉に対して言っていないことが山ほどあるから、そんなの構わないが。


「私、実は、触ったことのある誰かに変身することができるの」


「」


肝が冷えた。全く予想していなかったところからの刺客だ。なんというか、この学校に来てからそういうのばかりだ。

池崎ではなくて、古今泉が能力者だった?


「ごめん。黙ってて。でも、言うつもりだったんだよ。後で驚かそうと思って。木々村くんの力になれるかなって思って、結構テンション上がってたんだけど。こんなテンション下がってるときに言ってごめん」

そうだ。古今泉は自分が能力者だと告白したが、今の様子は告白が主な目的のテンションではない。そんなことは二の次で、本題が後ろに待ち構えている様子だ。

「木々村くんなら信じてくれるかなって。普通、信じないだろうけど、木々村くん、特殊部隊にいるみたいだし、そういうの知ってそうだったから」

「大丈夫だ。そこは疑ってない」

実際、俺は能力の存在を知っている。だから、古今泉から能力者だと聞いて、実際に能力を見せてもらったら何の疑いもなく信じただろう。

「私、実はゴールデンウイーク前に木々村くんに触ってて。木々村くんは覚えてなかったみたいだけど。でも、ゴールデンウイーク中に木々村くんに変身してみたんだ。なんか、鍛え方が違うって身体だった。だから、木々村くんが何かの特殊部隊にいるっていうのもすぐ予想がついたというか」

「なるほど。そういうことだったのか」

俺があまりにもわかりやすかったから、というわけではなさそうだ。いや、師匠は「お前に隙がありすぎるせいだろ」と言うかもしれない。いや、確かに俺は古今泉に触られたことを覚えてはいない。ゴールデンウイーク前?そんなことあったか?

……凪元が色んな奴と俺を話させようとしていたときか。そういえば、古今泉に触られたかも、と思ったら、少し、記憶が甦ってきたような……。やけに顔の整った女子がいたということを今思い出した。

以前、古今泉に声をかけられたときには全く思い出さなかったが、違う情報と紐付けられていた。

そうか。あの時のどこかで俺は古今泉とコンタクトをとっていたのか。

「うん。だから、今日もお姉ちゃんが出かけたから後をつけていったんだ。池崎鯉弥と会ってた。池崎鯉弥ってすごいイケメンだったよ」

そういえば、俺は写真を見てないから、池崎鯉弥がどんな顔なのかをまだ把握していない。

「あ、ごめん。それはどうでもいいんだけど。それでお姉ちゃんが帰った後、お姉ちゃんに変身して、明後日の準備、私何すればいい?って聞いたの」

「そんなことしてたのか」

かなり深く切り込んだ潜入捜査だな。俺よりも捜査の能力高いだろう。変身の能力が適任すぎる。

「うん。もう暗かったし。すぐ帰ればばれないと思ったし。あ、服装もね、私が思い描いた奴に変わるんだよ、この能力。便利でしょ」

誇らしげながらも力がない。まだショックを引きずっているようだ。

だが、服装を気にしないで済むなら、本当に便利だな。装備品とかはどうなるのだろうか。

「便利そうだな。機会があれば、その能力の検証をしてみたい」

古今泉のタイミングに任せた方がいいだろうと思い、古今泉の話題に乗る。

師匠はいつも能力の検証をする。何ができて、何ができないのか。限界は伸ばすことができないか。精神状態によって変わり得るところはどこか、など。自分に能力が発現したら実験してみるのは基本だ、と教わっている。

だから、検証をしてみたい、と言った。


「うん。ありがとう。じゃあ、今度ね。お願い」

軽く流された。

どうやら、話に乗るのは失敗だったようだ。


「で、話戻すけど、私がお姉ちゃんに変身して、池崎鯉弥に聞いたらさ……」

古今泉から先の言葉が出てこなかった。

数秒置いてまた口を開いた。

「ちょっとごめん。言いづらいんだけど、その……」

古今泉はかなり言い淀む。


「あ~~~~~~何なのお姉ちゃん。意味不明すぎるんだけど……」

低いうなり声の後、泣き入りそうな声。

ベンチに体操座りをして、膝に顔を埋めている。

そこまで言いにくいことなのか。

「あのね、金曜日、あの、乱交するって……」

「は?……ランコー?って……?」

一瞬何の話か分からなかった。思考が停止した。

「~~~~」

古今泉はまた唸って、顔を埋めている。

「意味わからなくない?」

「確かに……」

「何持っていけばいい?って聞いたら、別に何もいらないよって言われて。ゴムとか必要なものはこっちで用意するし、とか訳わからなかったし。すごいショックで、驚いちゃったし、涙が出そうになった。でも、ここで動揺を見せちゃったらダメだって思って。木々村くんだったら、もっと壮絶なことを経験したんだろうなって思って踏ん張った」

「そうか……」

俺も反応に困った。俺のことを思い出したことに対してではない。内容に関してだ。思いもよらない方向からきた攻撃は、来るとわかっていた時に比べて何倍ものダメージになる。古今泉はかなり精神的にやられただろう。

「それで、分かったって言って、すぐ離れて。木々村くん呼んでここまで来た」

「そうだったのか。申し訳ない。一人で辛い思いをさせて」

「ううん。私が勝手に落ち込んでるだけだから。木々村くんにばっかり負担かけてごめんって思ってたから私も力になれるって思ってワクワクしてたんだよね。でもさ、お姉ちゃん、これはないよ…って感じ。ホント、何やってんの?騙されてんのかな?どうしたらいいと思う?」

俺もそれに関しては言葉が出なかった。古今泉の姉が乱交。聞けばあり得る話だと思う。金持ちの息子。美人な女子高生。夜遊び。聞けば聞くほど考えれば考えるほど、そういう要素がそろっていた。だから、俺は予想できたはずだった。

古今泉に調べさせてショックを与える原因を作ったのは俺だ。

今まで信じてきた姉がそういうことをしている、と知った時の妹の心情は察して余りある。

「俺は金曜日に古今泉百々華を回収しろと言われている。そこでわかるはずだが……」

「うん」

声的に泣いているかもしれない。

「行為自体を行う前か行った後かはわからない」

「それはいいんだ、もう。池崎鯉弥とはもう何回もしてるみたいだったし。その辺はお姉ちゃんも女だし。やったやらないの問題じゃなくて、お姉ちゃん、騙されたり、弱み握られて無理矢理されてるんじゃないかなって 」

「金曜日の作戦が無事に遂行されれば、池崎も捕らえられ、そういった関係は一旦切れるはずだ。池崎からは能力者の匂いがしたから、組織で処理されるはずだ」

「え、池崎って能力者なの?」

古今泉は顔を上げて答えた。目が真っ赤だ。泣いている。

そして、俺もあまりにも動揺していたらしい。古今泉にショックを与えたことに。喋るつもりのないことまで話してしまった。さすがに言い過ぎたと思ったが、勢いは止まらなかった。もう誤魔化さずに答えてしまった。

「俺は池崎鯉弥が何の能力者かわからないが、あいつからは能力を使った後の匂いがした。それに師匠も鯉弥が能力者だと言っていた」

「そうなんだ。え、ていうか、能力を使った後の匂いって何?それも能力?」

俺の能力。

「そう。俺も能力者で、能力を使ったのがわかる能力を持ってる。あと、能力を使っているやつの身体に触れてその能力を消す能力も持ってる」

「二つもあるんだ。すごいね」

「戦闘用の能力じゃないから、能力者には全く歯が立たないけど」

「え、じゃあ、私が能力使ったのも、わかったの?」

「いや……あ、いや、言われれば、微かに匂いがある?」

こんなにも薄くなっているということはある程度時間が経っているか、匂いがそもそもとても目立たない能力かのどちらかだ。

「変身能力を使ったのはいつだ?」

「1時間くらい前かな」

「それで気付かなかったんだろう。時間が経ったら匂いが薄くなる」

「ああ、そうなんだ」

というより、1時間、古今泉はここにいたのか。

「待たせて悪かったな」

「ううん。呼んだらすぐ来てくれて助かった。私1人じゃ抱えきれなかった」

メッセージから不穏な雰囲気を感じて、すぐに来て正解だった。

「俺の方も、教えてくれてありがとう。そして負担かけて申し訳なかった」



「来てくれてありがとう。まだまだ混乱してるけど、話せてよかった。後、調べたこと伝えられてよかった」


そりゃまだまだ混乱しているだろう。

俺も後悔している。

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