36-連絡事項を口実として話しかけたいという気持ちなのかもしれない


「師匠から連絡をもらった。」

俺は古今泉に送った。


「ホント?!」

「また直接話したい」

「いつ?私は今からでも大丈夫」

ピースの絵文字が最後についていた。

今からか……。

早い方がいいに越したことはないが……。


「今からにするか?」

「どこに行けばいい?」

古今泉は家から割りと近くに学校があり、歩いて10分ほどで着く距離だが、俺はそこまで近くではない。それでも学校までは自転車で行けば10分から15分程度の距離ではあるのだけど。


そういう面を見て、古今泉はどこに行けばいいのかを確認してくれたんだろう。


「俺が古今泉の家に行ってもいいか」

「え、悪くない?」

「自転車で行く。大丈夫だ」


これからだと夜も遅くなる。夜遅くに女の子が一人で出歩くのは本当はよくない。

ならあの尾行の日はどうなんだ?とふと頭を過ぎったが、あの尾行の日は合流する予定があったからセーフ……か?


「じゃあ、待ってるね。ありがとう」

古今泉からそう来たので、すぐに出ることにする。



殿子さんに出かける旨を言って出かけた。

殿子さんは「行ってらっしゃい。気を付けてね」と言って俺を送り出した。


本当に自転車で出たので、15分くらいかかった。


「着いた」

とメッセージを送った。

しばらくすると、古今泉が外に出てきた。

制服から着替え、普通の服を着ている。


「ありがとうね、わざわざ」

「いや、いい。どこで話すか」

「近くの公園行く?」

「そういえば、なんかあったな」

「知ってるんだ」

「この前にこの辺り、少し見回ったから」

「そんなことしてたんだ」


古今泉はちょっと引き気味だった。

何をするにしてもある程度は地理的な情報がほしい。引かれるのは心外なんだけどな。


「歩きながら話すか」

「うん。木々村くんの師匠さんから連絡があったって。何かわかったの?」


「ああ。3日後…金曜日に……えっと、池崎の所に集まりがあるらしい。そこの集まりにお姉さんも参加するという情報をもらった。その時、俺の上司?がそこに突入をする。それに巻き込まれる前に、俺がお姉さんを助けることになった」


「え、どういうこと?よくわからないんだけど。何でお姉ちゃんを?危ないの?でも、助けてくれてありがとう??」



はっきり言って、俺の方も十全に勝手をわかっているわけではないが。

はっきりわかっているわけではない状況に加え、なんとなくぼやかして伝えているので、わからなさは輪をかけてわからなくなっているはすだ。

古今泉にはもう少し誠意を見せたいところだった。

もはや、古今泉に対して隠すことに意味があるのかわからない。



「池崎の息子の集まりを潰すんだけど、そこで何故か古今泉のお姉さんが参加することになってる。今から言って参加させない、って手もありそうな気がするけど、師匠や担当の人たちが俺に任せるということは、お姉さんは参加してもらうことが必要なんだと思う」

「そうなんだ」

「潰すって言ってたけど、戦闘部隊が突入するから、その場にいると危ないから、突入する時に、あるいはその前に俺が助け出せ、ってことだ」

「危ないの?」

「そうだな。多分、危ない。俺は何回か経験したことあったけど、戦場は一般人に危害が及ぶ可能性もある」

「一般人に危害……大丈夫なの?」

「可能性があるってだけ。前にも言ったけど、なるべく一般人には危害が及ばないようにするはず。だけど、戦闘が起きると何が起きるかわからない。俺の役目は、害が出る前にお姉さんを連れ去ること。お姉さんは俺が何とかすることになってる」

これは、俺の決心でもある。俺の心は決まってはいたが、その反面まだ情報が足りなかった。

例えば、どのタイミングで助け出すのかは、あの電話ではわからなかった。

後で、確認させてもらうしかないが。

だが、あの様子だと、まともに確認できそうにないんだよなぁ……。

「うん。ありがとう。他の人達は大丈夫なの?あと、木々村くんも当たり前のように、その危ないところに行くみたいだけど、大丈夫?」

「俺は大丈夫だけど、他の人たちはその部隊次第なところがある。

なるべく一般人に被害が出ないようにするのが普通だけれど」

同じ言葉を繰り返してしまう。自信のなさが表れてしまったかもしれない。

「木々村くん、ヤバい世界に生きてるんだね……」

「うん。そうかもしれない」

以前までは感覚が麻痺していたが、高校生になってわかったこともある。

凪元や轟剛力は別として、普通に暮らしていれば、戦いに身を投じるなどということはあり得ない。格闘技をやっていれば別だが。


「自覚してるんだ」

「最近はね」

「最近?」

「高校に入ってから、そうなのかなって。入る前は必死で、ヤバいかどうかなんて全然考えられてなかった」

「そんなことある?」


小学校低学年の頃は俺も普通に暮らしていたわけで。そのことを考えると、俺も考えられて然るべきと思わなくもないが。

でも、師匠に拾われてからは、師匠に認められることが俺の全てだったから。俺にとっての普通があれだった。


「師匠が厳しかったから」

「どんだけ厳しいの……師匠何者?」


古今泉は引きながら笑っていた。師匠の詳しい話はやめておこう。多分もっと引く。

俺がやばい世界にいると思う暇がなかったと言った時でさえ、師匠から認められることが俺の全てだったとはいえ、俺は師匠のことをヤバいと思っていた。

下手をすると、師匠の話を聞いた古今泉は夜に眠れなくなるかもしれない。

いや、さすがにそれは言い過ぎか。


「師匠はすごい人だよ。具体的には言えないけど」

曖昧に答えておく。

「そっか。機密事項だろうしね」

何か変な風に納得された。

確かに師匠に関しては機密事項が多いだろうけれど、俺が知ってるようなことは機密事項というほど、機密感は本当はない。

師匠は俺に、基本的に敵に知られてもよい情報しか流さないからだ。


明後日の作戦の情報とか、あの酔っているときに水でもぶっかけられたかのように機嫌の悪かった女の人の電話番号も、最悪敵に回ってもいいと考えられているのかもしれない。


俺が知ってる師匠の一面も、別に知られてもいいんだろう。だが、師匠に対する心象を著しく下げかねない話をわざわざ古今泉に披露しなくてもよい。


公園に着くまで適当な話をして、公園についてから、周りに人がいないのを確認してから俺は古今泉に確認したかったことを確認する。

「金曜日、何かの集まりと言っていたが、古今泉のお姉さんは、何かその集まりに行くような素振りを見せてないか?」

「どうだろう?わからない。お姉ちゃんと最近話してないし」

そうだった。わかってはいた。古今泉とその姉は今、関係性があまりよろしくない。


「そうだよな。だから、お姉さんがどんな準備をしているのか調べて欲しい」

「え、大丈夫かな…」


「もし危険な匂いを感じたらやめてくれても構わない。けれど、俺の師匠や今回の作戦の部隊の人は「俺に任せる」と言ったきりで、ロクな情報をもらってない。

これは多分、「自分で情報を集めてみろ」という師匠が俺に課している課題なんじゃないかと思っている。

だから、姉が何のために集まりに出席するのか。しっかりと準備して臨みたい」

「わかった。私も協力する。お姉ちゃんのこと、調べてみるね。でも、三日後、だから明日か明後日には情報がほしいよね」

「そうだな」

「頑張って集めてみるね」

「助かる」


「集められなかったら、ごめんね」

「いや、それはいい。大丈夫だ」

そうなったらそうなったで、俺が大体のシチュエーションに合わせて対応できるようにするしかない。


「……木々村くんってホント、今までとイメージ変わったなぁ。こんな面倒見がよかったんだね」

「面倒見がいいかはわからないが……」

面倒見がいいかは自分ではわからないが。だが、今までどんなイメージを持たれていたのか。そこもあまり掘り下げないことにしようと思う。


「今までどんなイメージ持ってたか聞かないんだ」

「あぁ、聞かない。大体わかる」


古今泉は笑った。

古今泉の気持ちが前に向かったのなら、いいことだと俺は思う。

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