第12話 テキサスの嵐
オークランドとの三連戦の後、アナハイムはテキサスへ移動する。
ここでもまた、アウェイでの三連戦となる。
当然ながらここでは、登板間隔の都合で直史の出番はない。
アレクの古巣であるが、わずかな間にもうスタメンの顔はそれなりに変わっている。
再建中のチームとしては、珍しいことではないのだ。
このカードではリッチモンド、ボーエン、そしてリリーフとして去年の九月にわずかに投げていたメイスンというピッチャーを、先発の三人に使う。
メイスンは普段はリリーフ使い、谷間に先発という扱いになるはずだ。
もっともガーネットやリッチモンドがあまり調子がよくなければ、入れ替えて先発で試されるかもしれない。
直史とボーエンで勝ち星を稼ぎ、レナードもそこそこの勝ち越しを考える。
他のピッチャーは五割でいいという考えであるらしかったが、今のアナハイムの得点力は、偏りがあまり都合よくない。
直史が投げる試合など、二点も取ってくれれば充分であろうに。
そういう試合こそ気楽に打てて、それなりの点が入ったりする。
ポジション別ではまだリーグトップであるが、樋口は今季打率が落ちている。
しかし出塁率はほぼ同じで、長打率は上がっている。
単打で塁に出るぐらいなら、開き直ってボールを選ぶという感じなのだろう。
そしてその中で、狙い球を絞って長打を狙っていく。
ただ去年はそれで、後ろに高打率のターナーがいたから良かった。
しかし現在の三番ウィルキンスは、長打は打てても打率がやや微妙だ。
あるいはシュタイナーを、三番に持ってきた方がいいのだろうか。
だがそうすると集中打はあっても、それ以外のところで点が取れなくなるかもしれない。
つくづくターナーのような長打力を持つ高打率バッターは、かけがえがないのだな、と思う。
メトロズにしても大介がいなくなれば、あっという間に得点力は落ちるのだろうか。
アナハイムは得点力が不足していて、メトロズは投手力が不足している。
なんだか上手くトレードが出来るのでは、と思わないでもない。
そしてトレードした相手がいるチーム同士で、ワールドシリーズ決戦。
燃えるだろうな、と出番のない直史は、ベンチでのんきに考えていた。
テキサスはチーム再建中である。
今年もまたポストシーズン進出までは目指さず、数年後の戦力の充実を考えている。
昨年のアナハイムが、ワールドシリーズで負けたとは言え、西地区では圧倒的に強かったというのがある。
そしてヒューストンが戦力を維持し、シアトルが地道にチームを強化している。
そんな状況の中では、即座に強いチームを作るには、テキサスは資金力が豊富ではなかった。
だが再建中というのは、意外な力を持つ選手が台頭するということでもある。
アレクを放出してからも、マイナー選手や海外の選手を獲得し、育成に力を入れている。
ドミニカ共和国などから、野球に秀でた選手を指名。
オークランドほどではないが勝率が低かったため、それなりの選手を指名している。
MLBは選手を上手く育成する能力を、特にメイクアップなどと言っている。
実際のところどんな選手がMLBで通用するかということは、入ってみなければ分からない。
それぞれの球団は厳格な基準で選手を選ぶというが、それはある程度実績のあるNPBの選手などが、全く活躍できないことがあることを見ても、確実と言えないことは分かるだろう。
同じMLBの中のチームでさえも、球団を移籍すると、途端に勝てなくなるピッチャーがいたり、打てなくなるバッターがいたりする。
もっともそれはそれなりに、それぞれの理由があったりするのだが。
例えば直史が理解不能のピッチングを出来ているのは、アナハイムに優秀なキャッチャーがいるからだ。
それに打線にしても、打撃力だけに期待されて、守備の穴を許されるような選手がいない。
もしもそういう守備力の低い選手を使う場合は、ちゃんとDHで使うように出来ている。
そもそもキャッチャーという、バッティングがそれなりに低くても許されるポジションのバッターが、二番でやたらと得点に絡んでくる。
これはメトロズでも、一番内野の守備力が要求されるショートが、チームナンバーワンのバッターであったりと、要するに打てるキャッチャーやショートがいると強いのだ。
打てるセンターやセカンドは、まだそこそこいる。
さて、現在のアナハイムである。
基本的に今のアナハイムは、大変に守備力が高い。
ショートとサードが抜けてしまって、三遊間は弱くなっているのは間違いない。
だがそれでも外野に飛べば、センターの守備範囲がとても広い。
今のフライを打つのが主体のMLBでは、アレクの貢献度が大変に高い。
ただ直史はほとんど外野守備に頼らず、そのピッチングを達成している。
まさに今、その技術と洞察力は、極まったと言っていいだろう。
直史以外のピッチャーも、守備の恩恵は受けている。
だが今年は、圧倒的に得点力が低くなっている。
試合での平均失点は、むしろ去年より減っているのだ。
それでも平均得点が、去年の全体よりほぼ一点減っている。
しかも直史の、つまり一点で勝てる試合でこそ、むしろ打線が爆発している。
直史の三試合目は三点だけしか援護はなかったが、他は11点と七点。
ピッチャーの力投が、バッティングにも好影響を与えているのか。
まだ試行数が少なすぎる、と直史は思っている。
元々は直史は、援護の少ないピッチャーなのだ。
実際に援護してもらえている点数は、試合が進むにつれ減っていっている。
おそらく次の試合は、せいぜい二点ぐらいであろうか。
もっとも対戦相手も、直史のピッチング間隔を考え、自軍のエースに当てないようにしているムキがある。
ただ直史が中四日で投げているため、それも当てはまらなくなった。
それが前回の、三得点という少ない援護につながっているのか。
色々と考えているが、エースの条件はただ一つ、チームを勝たせること。
しかしMLBもNPBも、レギュラーシーズンは安定したピッチングが求められる。
全て無失点なら完全安定だ、などという頭のおかしなピッチャーは、直史と上杉ぐらいしかいない。
ローテを崩さず試合も崩さないことが、大事なことであるのだ。
この二人の圧倒的な両極端のピッチングを見ていると、何か野球というスポーツとは、違うことをやっているようにも思えるが。
第一戦のリッチモンドは、今季二度目の先発である。
クリーブランドとの試合では、六回四失点とまあまあのピッチングをしていた。
ただ去年も何度か先発で投げているリッチモンドは、自分の力を過大評価していない。
勝ち負けではなく、六回まで投げてリリーフを消耗させないことが大事。
そう割り切っている彼は、アウェイゲームでも上手く力が抜けていた。
アウェイということで、アナハイムが先攻を取れるということも大きいだろう。
ただここでランナーは出たが、先制点を取ることには失敗。
シュタイナーのダブルプレイという珍しい事態であった。
フライを打つことの、重要なメリットの一つ。
それはダブルプレイが起こりにくいということ。
実際には浅いフライでは、ダブルプレイはそれなりに起こる。
それでもシュタイナーは、フライを打ってくれるバッターだったのだ。
その裏のテキサスの攻撃は、まず一点を先取。
普通にヒットで出塁し、ゴロが転がる間に進塁し、またヒットで点が入るという展開。
リッチモンドの失投が痛かった。
ただ一点だけで済ませたのは、それほど悪くはない。
今年のアナハイムはあまりいい結果を残していないが、最低でも二点は取っている。
直史が投げたときの快勝を、他の試合に回したいものである。
二回の表、アナハイムはまたも無得点。
だがテキサスも二回の裏は無得点である。
ランナーは出ているので、投手戦とは言いがたい。
三回の表まで、またアナハイムは無得点。
ここでもしっかりランナーは出している。
「純粋にピッチャーの調子がいいのか?」
「軟投派に近いピッチングの気はするな」
直史の問いに対して、樋口はそう答える。
サイドスローなだけに、それなりに打ちにくいということはあるらしい。
ベンチで試合を見ている直史としては、歯がゆいところもある。
そして俗に言われる二番打者最強論などを、現在のアナハイムに当てはめて考えたりもする。
アナハイムの二番は、ずっと樋口で固定されている。
リードオフマンとして優秀なアレクが一番で、そして外野までかなり確実に飛ばしていくシュタイナーが四番。
二番は後ろのバッターを打撃力優先とすると、俊足の選手であることが望ましい。
すると今のアナハイムでは、やはり樋口が最適なのか。
しかしどうにも、樋口の負担が大きすぎる気がする。
今のアナハイムを見るに、樋口が怪我でもしたら、確実にチームは崩壊する。
キャッチャーとしてはチーム防御率は2.3と、直史が投げていることを除いても素晴らしい数字になっている。
だが直史が見ている限りでも、去年までは自分でしとめていた打席に、どうにか後ろにつなぐバッティングをしているように見える。
そしてつないだ三番のウィリアムズは、ターナーほどの安定感はない。
OPSがだいたい0.2以上も下がってしまうので、四番のシュタイナーとの間で打線が途切れてしまうのだ。
シュタイナーはまさに、犠牲フライの職人と言ってもいい。
アレクと樋口の俊足一二番コンビが、ホームを踏む回数は多かった。
直史が中四日で投げる、完全にスクランブル状態。
それでも大きな貯金が出来ないあたり、アナハイムは難しい状況になっている。
中盤までアナハイムは、無得点であった。
テキサスは一点を追加していて、2-0と状況は悪化。
だが打順三巡目からのアナハイムは、上位打線から打線がつながっていった。
一気に逆転して、リッチモンドの勝ち投手の権利が発生する。
もっとも六回の裏、またも追いつかれてリッチモンドは降板。
そしてアナハイムはここから、勝ちパターンの継投をしていく。
アナハイムが勝ち越し点を得る。
そしてまた追いつかれる。
ベンチの首脳陣が考えるのは、明日以降の試合のことである。
ボーエンはともかく、メイスンはあまり勝てる計算には入れていない。
アナハイムのフロントが待っているのは、ターナーの回復にどれだけの時間がかかるかという情報だ。
しかし目の状況は、ある程度時間が経過してからでないと、どうにも説明出来ないだろう。
ターナーを戦力として考えていいのか。
もしも今季絶望なら、それはそれでまたチーム編成は考えられるのだ。
今季のいつまでに回復するかも分からない。
だからこそGMも動けず、トレードでの補強は出来ない。
しかし間もなく、マイナーでいい成績を残している選手を、メジャーに上げるタイミングがやってくる。
数字を残しているバッターを、メジャーで使ってみるか。
まだ確信できる状態ではないが、あまり確認に時間をかけていると、今年のレギュラーシーズンに間に合わなくなる。
直史がアナハイムと次の契約をしないであろうことは、オフシーズンのやりとりでおおよそ分かっている。
ワールドチャンピオンを狙える機会は、今年を逃せばまたしばらくはやってこない。
それはフロントも現場も分かっているのだ。
直史としては、自力だけではどうにもならない。
いっそのこと中三日ででも投げれば別だろうが、それはさすがに時代が違う。
ただアマチュア時代のことを考えれば、組み立てるだけなら中三日でも出来なくはないだろう。
しかし確実性は間違いなく落ちる。
他のピッチャーの勝率が、七割あれば間違いなく優秀なのだから、イニングイーターぶりを発揮してもいいのだ。
しかしそんな自己犠牲的な、無茶なピッチングをするのは、今の段階では早すぎる。
それも逆に、今のうちにやっておかなければ、シーズン中盤ともなれば、間に合わなくなる可能性もあるのだが。
勝率はほぼ五割。
ヒューストンが貯金を増やしていっているが、それでも追いつけないほどではない。
ポストシーズンにさえ出られれば、精鋭の投手力で、どうにか勝ち進んでいける。
もっとも今年のア・リーグは、完全にミネソタが制する勢いであるが。
昨年の打撃二冠であったブリアンは、今年は三冠の勢いである。
もっともミネソタの場合、打点は他のバッターとも分け合ってしまうので、ここだけは厳しいかもしれない。
来年こそがおそらく、ミネソタの挑戦のシーズンになるだろう。
いや、現時点でもミネソタは、両リーグ通じても勝率でトップを走っているのだが。
なかなかアナハイムが大量点を取れない間に、テキサスはちまちまと点を取っていく。
アナハイムの攻撃も、今年はちまちまと点を取ることが多いが。
ようやく点が入ったと思ったところで、スコアは4-2。
テキサスのリードである。
六回までを投げて四点と、試合を崩さない程度に投げて、リッチモンドはここで交代。
リリーフ同士の対決となるが、ここはリードしているテキサスの方が有利だ。
第二戦にはボーエンが先発する。
おそらく六回を二点か、七回を二点ぐらいに抑えてくれるだろう。
そこからしっかりと抑えるためにも、リリーフは万全の状態にしたい。
昨日は直史が投げたので、リリーフ陣は一日休みが取れた。
ここでもう一日休めば、万全の状態で明日の試合に臨める。
もっともボーエンも、全ての試合に安定して投げられるというわけでもないだろう。
しかし彼が投げる試合なら、かなりの確率で少ない失点に抑えられる。
直史と同じく、今季は先発した試合で勝ち星がついている。
勝てるピッチャーのはずなのだ。
アナハイムはとにかく、今は我慢の野球をするしかない。
一発勝負のトーナメントと違い、シーズンを戦うというのはこういうことだ。
直史はあまり、主力が離脱してチームが勝てないというのは経験していない。
樋口や武史が離脱した、プロ一年目は厳しいポストシーズンを迎えたものであったが。
確率で作戦を決める。
今のアナハイムは、とりあえず連敗などがなければいい。
連敗をすると言っても、全てを凍りつかせる直史がいる。
勢いづけるのはともかく、チームの負けを食い止める。
そういった力はおそらく、リーグでも最強のものなのだ。
結局はこの試合、アナハイムは6-4で落とすことになる。
六回を投げて四失点というのは、運がよければ負け星は消える。
しかし追いつけなかったという結果が残り、リッチモンドには負け星。
今季は0勝2敗という、やや不運な展開となっている。
六回二失点までであれば、勝利投手になれただろう。
あるいはアナハイムがリリーフの強いところをつぎ込めば。
ただそうした場合でも、どうにか同点で延長になっただけ。
四点も取られた時点で、負けは決まっていたと言える。
これで明日の第二戦まで負ければ、アナハイムはかなりまずいことになる。
険しい顔をした選手たちは、スタジアムを後にしたのであった。
アナハイムは自前で育て上げたスターンバックと、それなりの大型契約を結んだヴィエラ、この二人が去年までは確実に勝ってくれていた。
直史が一人で32個も貯金を作ったのはすごいが、この二人も合わせて37個も貯金を作ったのだ。
ヴィエラが怪我がちにならなければ、再契約をしていただろうか。
もっともスターンバックは、故障をしなくてもFA権を行使して、他のチームに移っていた可能性が高い。
結局のところピッチャーではなく、打線に問題があるのだ。
今季から加入して、あっさりと既に二勝をしているボーエン。
七回一失点に、六回一失点と、FAで大型契約をしただけの実績を残している。
ただ本人もそろそろ、負けはしないまでも勝ち星がつかない試合が来るだろうと思っている。
野球にはある程度の、偏りが存在するのだから。
そんなボーエンは直史のピッチングを見て、訳が分からないとしか思えなかった。
まるで魔法を使っているように、バッターの手の出ないコースやコンビネーションで投げていく。
どうやってるんだ、とボーエンは普通に直史に尋ねて、そして普通に教えてもらった。
そして理解したのは、こいつはエイリアンであるということだ。
エイリアン。異星人と訳されることもある。
しかし正確には異邦人という使われ方をするのが正しいのだろうか。
直史の思考、そこから生まれる投球哲学、そしてそれを可能にするための練習。
全てがおかしすぎる。
樋口に話してみたところ、日本にはあれほどではないが、ある程度近いピッチャーはいるのだと言われた。
引退したが星などは、軟投派の代表例であった。
そして今でも現役で活躍しているのは、直史の義弟である淳であったりする。
同じ大学の先輩と後輩。
淳もなんだかんだ言いながら、毎年二桁前後は勝ち星を上げている。
彼の素晴らしいところは、負け星が明らかに多い年がないことだ。
大学時代も直史や武史のような目立った試合はあまりないが、完封する力はかなり高かった。
柔らかに投げる左のアンダースロー。
安定して投げて、クオリティスタートの山を築いている。
今のMLBには、昔に比べるとほとんどと言っていいほど、アンダースローのピッチャーはいない。
ピッチャーのメカニックを詳細まで調べ上げて、その肉体で投げられる、最高のボールを計算してしまっているからだ。
だが最高のボールは、だからと言って打たれないボールなわけではない。
結局言えることは、ある程度打たれてしまっても、点が取られにくいボールがいいのだ。
直史にとっていいボールを投げるというのは、コンビネーションの中でそれが必要になるからだ。
もっと手を抜いて投げてもいいなら、さらに手を抜いていくだろう。
極まったピッチングとは、打たれないピッチングではない。
どこまで力を入れて、どこまで手を抜いたかが分かるピッチング。
打たれるぎりぎりまで、手を抜いたピッチングなのだろう。
ボーエンはカルチャーショックというか、本当に日本の野球はおかしいのだな、と思った。
いや一緒にするな、とほとんどの日本人投手は思っただろうが。
変な影響を受けることもなく、ボーエンは今日も投げる。
アナハイム首脳陣としても、そろそろボーエンも勝てない試合が出てもおかしくないな、とは思っている。
一回の表に先制出来なかったことで、そう考えだすのもおかしくないのだ。
ただツーシームと遅いシンカーを使い分けるボーエンは、テキサス打線相手にも、効果的に働いた。
樋口としても、上手くリードの歯車が合う。
球種があるのなら、そして緩急がとれるのなら、なんとか点はやらずに済むのだ。
特に右バッターに対して、今日のボーエンはコントロールが良かった。
サウスポーなので本来は、左バッターに強いことが多い。
デッドボールは二つあったが、報復死球をするような点差にならなかった。
確実に相手を抑えていかなければいけない、僅差のゲームとなったのだ。
八回までをわずか一失点。
そしてアナハイムは、そこまでに三点を取っていた。
最終回、アナハイムはピアースをマウンドに送る。
一点までなら取られても、問題にはならないという点差である。
ピアースの契約も、実は今年で切れるアナハイムである。
この二年、40セーブを記録しているピアース。
後継者になれそうなクローザーが育っていないので、さすがにピアースは再契約したいアナハイムだ。
ただオフに契約をさらに加える、という動きはなかった。
来年のポストシーズンを、あまり見据えていないアナハイムの補強だったと言えるだろう。
今年で35歳のピアースは、確かにリリーフピッチャーとしては、そろそろ選手寿命がきてもおかしくない。
だがそれこそ今年の活躍しだいで、メトロズなどが取りに来てもおかしくない。
メトロズは完全に今はリリーフ不足。
故障者が復帰して、そして打線自体は今年のまま残る可能性が高いので、来年もまたポストシーズンを狙える戦力が揃うはずなのだ。
昨日の友が今日の敵。
なおMLBのトレードの激しさは凄まじいもので、その日の試合の開始と終了で、着ているユニフォームが変わってしまった、などというものもあったりする。
この二年、アナハイムと熾烈なワールドシリーズを戦ってきたメトロズ。
今年の結果次第では、ピアースがメトロズに行く可能性は、それほど低くはないだろう。
ピアースは今年は、終盤に負けている展開が多いため、まだあまり登板数自体が増えていない。
だがセーブ機会は二回あり、その二回共に成功させている。
もう一回、間隔が空いているため四点差の試合に投げて、そこでも一点も取られていない。
実は何気に、今年のピアースはまだ無失点なのである。
この試合のピアースも、見事なクローザーぶりであった。
三振一つを含む、ノーヒットで最終回をしめる。
3-1とスコアはそのまま、アナハイムの勝利。
ボーエンは直史と同じく、開幕からこれで三連勝である。
問題と言えそうなのは、左バッターに内角を投げて二つもデッドボールを出したことぐらいか。
ただこれは樋口が要求したものなので、ボーエンの責任ではない。
何も頭のあたりに投げられたわけでもなし。
ただ樋口は個人的には、デッドボールに対するペナルティは、もっと重いものでもいいと思っている。
「なかなか大変だったな」
「まあ勝てばいいさ」
直史のねぎらいに、樋口はやや皮肉そうな笑みを浮かべる。
左バッターの内角に、もっと厳しく投げられるピッチャー。
直史ならば膝元あたりに、打てないボールを投げることが出来るだろう。
しかし左バッターがサウスポーを苦手とするのとは別に、左バッターに投げるのが苦手なサウスポーもいる、
とくに内角に変化球を投げるには、かなりの度胸が必要だ。
ボーエンの場合はぶつけてしまったが、それでも内角に投げ続けた。
樋口としては、自分ならそれぐらいはよけられるな、と思う限りである。
テキサス相手に、一勝一敗。
そして明日投げるのは、シーズン前には先発の一角としては考えていなかったメイスン。
もっともメイスンは、あくまでも谷間の先発。
去年は同じように、ウォルソンがこの役割をやっていた。
リリーフデーで第三戦は乗り切る。
負けたとしても、まだ勝率は五割をキープ。
ターナーが戻ってくるか代わりの戦力に目途がつくまでは、どうにかこのあたりの位置をキープしなければいけない。
重要になるのは、おそらくシアトルとの試合だ。
そしてア・リーグの他地区のチームとの試合である。
地区優勝は、最悪無理でも仕方がない。
重要なのはポストシーズンへ進出し、そこで勝てるかどうかなのだ。
直史にとってみれば、メトロズが勝てないのであれば、それはそれで無駄な努力になる。
あちらはあちらで打撃力は充分なようで、少しこちらのピッチャーとトレードしてもらいたいものだが。
もっともアナハイムが失点が少ないのは、リリーフを上手く回しているからとも言える。
どちらかのチームがポストシーズン進出が絶望的になれば、確かに両チーム間のトレードはありうる。
ただし直史と大介は、トレード拒否権を持っているので関係ないが。
明日の第三戦は、おそらく勝つのは難しい。
アナハイム陣営はそう思っている。
ただ勝敗とは別に、重要なことは起こるものだ。
……別にフラグではない。
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