15:変わり始める夫

 それからしばらく経ったある日の朝。

 いつも通り捲らない新聞を読んでいたフリードリヒは、わたしが朝食の席にやってくると挨拶もそこそこに新聞から顔を上げて本日の予定を語り始めた。

「今朝はいつも通り出るが、仕事の回り具合に問題が無ければ昼過ぎに帰ってくるつもりだ。

 どうだろう、戻ったら一緒に出掛けないか?」

「それはお休みということですか?」

「ああ前に約束しただろう?」

 さらに彼は「一日休みにするのはもう少し待ってくれよ」と言って笑った。

「わたしの我が儘を聞いて頂いてありがとうございます。

 ですが折角のお休みです。今日は外出などせずに、のんびりと屋敷で過ごされては如何でしょうか?」

「ああ、まったくその通りだと俺も思うよ。

 だがな屋敷にいるとどうも気になって執務室に入り浸る気がしてならんのだ。だったらいっそ外に出てしまう方が後腐れがない気がしているんだが、駄目だろうか?」

 彼なりに精一杯休みを取ろうと考えた結果が外出それらしい。

 だったらわたしの答えは決まっている。

「そう言う話でしたら喜んでお付き合いいたします」

「ありがとうリューディア」



 昼食は外で食べるからと言われていたので昼食はいつも通り一人でとった。

 仕事の回り具合に問題があった場合、昼食時に撤回の伝令を貰うことになっていた。しかし伝令は来ず、どうやら仕事は上手く回っているようだと胸を撫で下ろした。

 そして昼食から小一時間。

 そろそろ戻って来るかしらと門を眺めていたところに、丁度馬車が戻ってきて、わたしは慌てて玄関口に走っていった。


「フリードリヒ様、お帰りなさい」

「ただいまリューディア。

 ハハハ驚いたよ、君でも走ることがあるんだな」

「えっと、これはその……

 はしたなかったですね、申し訳ございません」

「いいや、俺に逢いたくて急いで来てくれたんだろう。ならば大歓迎だよ」

 そう言ってフリードリヒは笑みを浮かべながらわたしを軽く抱きしめて、耳元で「ありがとう」と囁いた。

 ひゃぁ!?

 出会った時の無愛想な態度とは大違い。

 この人こんな人だっけ……!?

「どうした? 顔が赤いぞ」

「だ、大丈夫です!」

 誰の所為だと思ってるのよ!

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