14:直談判②
フリードリヒに連れられて商店の建物に入った。
お茶はセルフのようでフリードリヒが自らお湯を沸かして淹れてくれた。執事のものには敵わないけど普通に美味しく飲めることに驚き、仕事以外何も出来ない人だと思っていたことを心の中で謝罪したわ。
フリードリヒは向かいに座りつつ「どうした?」と問い掛けてきた。
「もちろん今朝のお話の続きですわ」
「うん? 休みなら許可したはずだが」
「そのお話は根本からして違います。
いいですか? わたしが休みたいのではありません。わたしはフリードリヒ様に休んで頂きたいのです!」
「それは無理な相談だな」
淡々とした口調のすげない答えが返ってきた。
「どうしてですか?」
「屋敷に持ち帰ってまで仕事をしていることから解るだろうが、俺が休めば従業員の仕事が滞る。従業員を俺の都合で遊ばせるわけにはいかんだろう?」
「ではフリードリヒ様が病気になったらどうなさいます?」
「何を突拍子も無いことを言いだした。俺はいたって健康だぞ」
「いまはそうですが、このまま休みの無い生活を続ければいずれはそう言う話も出ましょう。何事もなってからでは遅いんです」
「リューディアの気持ちは分かった。だが仕事の事に口を出すのは止めて貰おうか」
「いいえ止めませんわ。
そもそもフリードリヒ様は勘違いされておられます。これはお仕事の話ではなく、フリードリヒ様のお体のお話です。
だから妻が夫の体を心配するのは当たり前です!」
「貴女はときどきとても強情になるな」
穏やかな声色と共にフッと笑われて気恥ずかしくなり、何とかやり過ごそうとしたが赤面して失敗した。
「そうだなぁ従業員の中にそろそろ現場を任せてもいいと思っている奴がいる。だがまだ丸一日預けるには勇気がいる。しかし半日なら何とかなるだろう。
どうかな、いまはこれで勘弁してくれないか?」
「将来的に丸一日となるのなら、今だけ勘弁して差し上げますわ」
わたしは右手の人差し指を立てて冗談めかした口調で、ことさら偉そうに聞こえるようにそう言った。
「ははは手厳しいな。
解った約束しよう」
「はい!
ありがとうございますフリードリヒ様」
「こちらこそだよリューディア」
感極まって見つめ合っていると、フリードリヒがわたしの頬に触れた。視線だけを彷徨わせて部屋の中を見渡し誰もいないことを確認。
よしっ!
わたしはそっと目を閉じてその時を待った。
ガチャっとノックも無くドアが開き、
「済みません社長、言われた作業が終わり……
あーいやまだ残ってたなぁ、失礼しやした~ぁ」
ドアが静かに閉まる音。
すっかりそんな雰囲気は無くなり二人で苦笑した。
帰りがけ、「すんません」と、気を使われたのが逆にツラかったわ……
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