13:直談判①
わたしがここに来て一ヶ月が過ぎたが、夫のフリードリヒはその間、夜会などを除けば一度の休みもなく働いていた。
そしてそれは初日から書類仕事を手伝っているわたしも同じだ。
ある日の朝食の時、
「フリードリヒ様、おひとつ意見を言ってよろしいでしょうか?」
「うん? 改まってなんだ」
いつも通り捲りもしない新聞から顔を上げたフリードリヒ。
「わたしがこちらに来てから約一ヶ月経ちました。ですがその間、フリードリヒ様は一度もお休みを取っていらっしゃいません。
お仕事が忙しいのは十分解りますが、どうかご自分の体をご自愛ください」
「ご自愛か……
ふ~む、そう言われてもなぁ。リューディアと結婚してからというもの、睡眠時間も増えたし、むしろ以前より体調がいいくらいだぞ?」
駄目だこの人!
「では少々卑怯な言い方をさせて頂きます。
わたしが疲れました、お休みをください」
「ああ構わんぞ」
あらあっさりと解ってくれたわと思っていたのが甘かった。
「話がそれだけなら俺は仕事に行ってくる。
ではなリューディア。今日は存分に休んでくれよ」
ちっがーう! そうじゃない!
会話の流れは完全に『一緒に休みませんか?』だったはずなのに、どうしてそうなるのよ!?
ハッキリ言わなかったわたしが悪いのか、それとも流れを無視したフリードリヒが悪いのか。
ああもう! こうなったら商店に押しかけてやるんだから!
わたしは商店の場所を知らない。しかし商店の場所ならば執事だって御者だって知っているから、わたしが行きたいと言えば容易に辿り着いた。
街の南側にある港、その近くにフリードリヒの商店があった。
金貸しと宝石商をやっているのは承知の所。そして書類の整理を手伝ったことで、貿易にも携わっているのはすでに知っていたが、商店を見るのは初めてでちょっと感動。
そう言えば出会った翌日、商店の場所を聞いたら
まぁここも街中には違いないけどさ。
当初の会話の雑さを思い出して思わず笑った。
「あのぉ?」
「ひゃっ!?」
突然男性が声を掛けてきて驚いた。
振り返ると帽子をかぶった髭もじゃの中年男性が立っていた。
「な、何か用かしら?」
「いやぁそれはこっちの台詞ですぜ。うちの商店に何かご用ですかね?」
商店の側で物思いに耽っていたから、どうやら怪しんで声を掛けてきたらしい。
「あらごめんなさい。
わたしはリューディアと申します。今日は夫に話があって会いにきました」
「はぁ、失礼ですがお嬢さんに釣りあう様な身なりの良い奴は、ここにはいないですよ。場所をお間違えでないですかねぇ」
「わたしの夫の名はフリードリヒです」
間違いないでしょうとばかりに言えば、
「ええっお嬢さんが社長の奥さんだって!?」
その声は大きく、周りにも聞こえたらしい。
どれどれ~とばかりに人が集まってきて、あっという間に囲まれて見世物にされた。
そこに「何をやっている!」と怒声が聞こえてきて、
「んっリューディア? 何してるんだこんな所で」
言いたいことは色々あるけれども、とりあえず!
「助けて下さってありがとうございます」
「?」
何言ってんだと、眉を顰めて首を傾げられたわ……
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