第3話
慎太郎にお礼を告げて、学校を出る。前田の話が衝撃的すぎてしばらくは何も考えられそうになかった。
私が会うって言ってなければ、もし電話に出ていなければ、そんな考えが頭の中をぐるぐると回り続ける。思えば思うほど苦しかった。
家に着いて、リビングでしばらくぼーっとした。
そうしているうちにいつの間にか日も暮れて、気がついた時には家の中が真っ暗になっていた。お腹も空いてないし、もう寝ようと思い、徐に立ち上がる。
のそのそと自分の部屋に入った時、ふとあの袋が目に入る。
「そういえば、賞味期限」
そう呟いて、袋を開けるとどら焼きが二個綺麗に入っていた。そのうちの一つをそっと取り出して、恐る恐る後ろを見る。消費期限のところに九月五日と書いていた。安心して胸を撫で下ろす。今日は九月一日だ。
「食べるか、全部」
そう呟いて、手に取る。食べる気はしなかった。でも、これが残ってたらまた思い出してしまいそうで、だからといって捨てるのも勿体ないとも思う。仕方なく、封を切る。どら焼きのほのかな甘い匂いが鼻を掠める。
このどら焼きは私が夏休み中にお父さんの家に遊びに行った帰りに買ったものだった。老舗の和菓子屋さんで、小さいときはよく食べていたなぁと思い出す。
私はどら焼きをゆっくりと口に運ぶ。
「おいしい……」
何故だかわからないけれど、涙が出た。その後もゆっくりと食べていき、いつの間にか二つともお腹の中に入ってしまった。
そのまま何をするわけでもなくまたぼーっと昔のことを思い出していた。中学一年生の時、つまり前田と付き合っていた時。前田はすごくドジだったし、背も低かったし、ダメダメだった。だけどすごく優しかったし、思いやりのある人だった。
私なんかには勿体ないくらい。
「ジリリリリ、ジリリリリリリ」
寝てしまっていたのだろうか、まあいい。今日は学校には行きたくなかった。
そのまま二度寝コースに入るため、目覚まし時計を止めてもう一度目を瞑った。そして、気付く。あれ、おかしい。私は昨日ベットに行ってないのだ。
携帯を手探りで探し、開く。ホーム画面が明らかに自分のものではなかった。
「五月五日……?」
なにかがおかしい。
「にせん、じゅうなな」
おかしい、四年前の五月五日だ。
慌てて携帯を開こうとパスワードを入れるが、開かない。パスワードが昔と違うのか。誕生日を入れたり、生まれた年を入れたりしたが、全く開く気配がない。
「まさか」
記憶を頼りに思い出す。
「七月三日……あいた」
単純なことに、この子の彼氏の誕生日だった。我ながら恥ずかしい。
開くと、グループチャットにメッセージが二十件くらい来ていた。
「今日一時に青村公園ね」というメッセージに各々が返事をしている。三十人くらいの学校のグループで、大体十人くらいが来るような様子だった。
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