釦
薄桃色の半袖ポロシャツが私の貧相な肉体を覆っているが、その胸元には二つの釦が縫い付けられている。服を着たり脱いだりするたびに小さな頭を出したり引っ込めたりしている、この小さな円盤は、他の装飾品にはない情緒を持ち合わせている。シャツの胸元や前面に付けば衣服の実用的な機能品として、スーツの袖口に付けば装飾として、その場合にも釦が三つ並ぶのか四つ並ぶのかで見た目の印象が大きく変わる。
釦にまつわる行為もまた、多様な情景や印象を思い起こさせる。「彼は釦を留めた」とあれば出勤や外出前の準備を想像するし、「彼は大急ぎで釦を留めた」とあれば寝坊して焦る姿を想像する。逆にそれを外すとあれば、仕事帰りの疲れた表情を想像するだろう。しかし「彼は片手で釦を外した」とか「彼はやおら釦を外した」とあれば、女性との情事の一番面のような、どこか官能的な響きがある。小さい割に、その場の空気への影響力はかなり巨大である。
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