ルーツ

 自分のルーツを知っている人が、世の中にどれほどいるのだろうか。ここでいうルーツとは、出自がどこで、親は誰で……というより寧ろ、自分の先祖がどこで何をしており、いかなる経緯で親は出会い、自分が生まれたのか、というものだ。例えば『イリアス』の「……軍神アレスの二子、アスカラポスとイアルメノス、この二人は、アステュオケがまだ花恥かしい乙女の頃、アゼオスの子アクトルの邸の内で、階上の寝所に上り、猛きアレスと密かに契ってその胤を宿し、産み落としたもの」のような具合に。

 別にルーツを知ることが何かになるというわけではないが、アイデンティティの一つとして自己の由縁を持つのは重要なのではなかろうか、と思った次第である。この話を始めたのも私のルーツのためだ。先日祖父の法要で帰省した時、なんと我が家は武士の家系だと聞かされた。馬鹿な。何をどこで間違って田舎の貧乏百姓をやっているのだ。武士道精神など嘘八百である。

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