地獄の入り口

そんな調子でせっせせっせと干し肉作りをしてるうちに、日が暮れてきやがった。その間にも、鳥やら、なんかリスだかネズミだかってえ感じのちっせえ獣がちょろちょろ現れては干した肉をかっさらっていく。


しかも、肉を剝いだ骨はそのまま地上に捨ててるからな。そっちにもいろいろたかってんのが見える。


これじゃまるで俺が餌をやってるみてえだが、完全に壁を作ったりってのもさすがに面倒だし、別に構わねえ。俺も、肉をちぎりながらそれをちょくちょく口に入れてたしよ。


で、空はまだ星までは見えねえが密林の中はほぼ真っ暗ってえ状態になった頃、ようやく三匹ともバラし終えて、俺は木の幹に背中を預けて寛ぎながらまだ生のままの肉をまた口に放り込む。


ただし、こういう場所だと、夜は<安らぎの時間>なんかじゃまったくねえからなあ。てか、地球人みてえな弱っちい生き物にとっちゃそれこそ朝日を拝める保証なんざ何もねえ、さしずめ、


<地獄の入り口>


ってえもんだな。早速、蚊みてえな虫が近付いて……と思ったんだがよ。なんか思ったほど寄ってこねえんだよな。地上にいた時の方が多かったんじゃねえかって印象もある。


ここの<蚊>はマジで地上近くしか飛べねえのか、それか、


「なんかの花の匂いか……?」


とても『いい匂い』ってえ感じじゃねえ、何とも薬臭え感じのする妙な匂いがしててよ。もしかすっとそれが虫除けになってんじゃねえかなってえ気がすんな。


なにしろマジで虫除けにこんな匂いのがあったような……?


ま、それがどうかはしんねえけどよ。蚊に悩まされねえで済むんならそれはありがてえってもんだ。


並の奴らよりゃ夜目も効く方のつもりでも、ガチの夜行性の獣に比べりゃさすがに役立たずな目なんざ開いててもしょうがねえから閉じて、耳と鼻と皮膚の感覚に集中。ヤベえ気配がすれば容赦なくぶちのめす準備だけしておいて、体の方は休める。


耳には、密林の中でそれこそ動き回ってる獣やら虫やらが出す小さな音が数え切れねえくらい届いてくるし、鼻にゃ、あの虫除けみてえな花かなんかの匂いに混じって獣の体臭と糞や小便や血の臭いがたっぷり流れ込んできやがるし、皮膚にもチリチリした感覚がありやがる。


ああ、離れたところから俺の様子を窺ってる獣がいやがるな、これは。今んところは襲ってくるってえ気配じゃねえが、値踏みしてんのかもしんねえなあ。


けど、いいぜ? 襲ってくんならそん時はてめえの命を賭けな。俺の全力でぶち殺してやるからよ。食うものも食ったし、手も足も絶好調だ。一対一ならそれこそ首でもへし折ってやるさ。


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