真っ黒な影

その、


<首の辺りから胸の辺りに掛けて食い荒らされたヴェロキラプトルみてえな獣>


の死体には、もうすでに小さな動物や鳥がたかり始めていた。こうしてみると思った以上に生き物が多いところなんだなってのが分かるな。


あのカマキリ怪人も、見た目よりは食うみてえだが、さすがに丸ごとは食いきれなかったか。で、ああいう奴の食べ残しをこいつらはいただくわけだ。


なら、俺もそれでいくさ。全部食いきれなくても、食いたい奴はいくらでもいるってことで。


と、元の場所に戻ると、


「ん……?」


なんかおかしい。って、


「あ、一匹いねえじゃねえか」


そうだ。血抜きのために四匹吊るしておいたのが三匹になってやがる。くそっ! ちょろまかされたか。油断も隙もねえな。って、当たり前か。自然なんだからな。


人間の社会じゃ盗みになるそれも、人間じゃねえ動物からすれば何のことかわけ分らんだろうさ。


『食えるものがそこにある。だから奪う』


それが当たり前だろうしな。


と、俺の視界の隅を黒いのがよぎる。


「お?」


視線を向けると、そこには、真っ黒な影が、俺が蔓で脚を縛ってあった<ヴェロキラプトルみてえな獣>を抱えて木の上を逃げていきやがる。


アホみてえに長い腕。<テナガザル>ってのに似てるようにも見えたが、その手にはご丁寧に長い爪。しかも、<サル>ってえか、<忍者>みてえな奴だと感じたな。


さしずめ、<忍者ザル>ってか?


追いかけようにもぱっと見でもう間に合わねえのも分かったし、油断した俺のヘマだ。仕方ねえ、くれてやる。


だから俺は、取り敢えず残った三匹を抱えて、いったん、テントに戻ることにした。そこでバラして干し肉にでもするさ。


縛った蔓を口に咥えて木を登り、テント部分へと戻る。そして手近な木の枝にそいつらを吊るして一匹を手に取り、腰ミノに差しておいたさっきの<尖らせた木の枝>をナイフ代わりにバラす。


でもまあ、ほとんど引きちぎるってえ調子だからな。綺麗に揃った大きさにゃならねえが、これまた仕方ねえさ。それをやっぱり枝に引っ掛けて干していく。本当なら塩とかで揉んだり燻製にしたりしてからってのが普通なんだろうけどよ、用意できねえんだからとにかく日陰で干すだけだ。


そしたら、さっき俺が捕まえて食ったトカゲみてえな生き物と同じのが、木の枝の陰からヒョッと出てきて干してた肉をかっさらっていきやがった。ははは! やられたな!


いいさいいさ。おすそわけだ。いずれまた俺がお前を食うかもしれねえんだし、ひとつよろしくたのむぜ。


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