第20話 最強の生徒会長

 夜空に浮かぶ月を眺める。

 眠れない。集中して演奏したせいか、神経が昂ってしまう。

 ここまでピアノに熱中したのはいつ以来か。練習のためにある程度集中することはあっても、今日みたいに興が乗ってのめり込んだのは中学校に入る前、まだ俺が実家にいた頃か。

 あの頃から随分と変わってしまった。魔力過剰症候群のおかげで体はいつもどこかが痛くて、集中することさえ許されない。ピアノも、体に触るから意図的に距離を置いていたのだった。本当に久しぶりに触るから忘れていた。

 結局、俺は嗜む程度しか許されない。俺の人生で、生涯に極められるのはたった一つだけ。それなら魔術をと選択したのは俺じゃないか。

 それでも、誰かのために弾くのはやはりいい。魔術は独りよがりなものだから、別にそういうのも嫌いじゃないけど、誰か人前に立って喜ばせることができるというのはこの上なく心地がいい。人の人生には誰かの役に立つという瞬間が少なからず必要なのだ。

 けれど、もうやめにしなければ。これ以上、魔力過剰症候群が強くなるならもう後には引けない。今より体は酷くなるし、もはや自分で命を絶つことも考えなくては……それまでに、俺が生きた証を残す。そのために学会で論文を発表して、少しでも名を残せるようにする。

 思えば、今までの人生で俺は何をしてきただろう。

 虫取り、ピアノ、魔術……他にはないかな。恋愛はしたような、してないような。それこそ小さい頃に隣に住むお姉さんに小さな恋心を抱いたことはあるが、あれを恋愛と呼んでいいのかは疑問が残る。狭義の恋愛にはまず入らないだろうな。

 俺は、生涯のうちに誰かを愛することができるのだろうか。そんな余裕が許されるのだろうか。

 分からない。ともかく、この体をどうにかしなくては……けど、もはや魔眼もない。降り積もる魔力は膨大になってきている。それこそ、海辺に移住でもするか。それもいいな。学園を卒業したら辺境の海辺を借りるのもいいかもしれない。人の迷惑にならない入江の海水を温度操作で蒸発させれば効率よく魔力を消費できるし、今よりずっと体が楽になる。ここの川や水辺では動植物への影響があるからできないにしろ、寝る前に考えたにしてはいい考えかもしれない。

 その時に、俺は誰かを連れて行くのだろうか。付いてきてくれる人はいるのだろうか。

 いかんな。夜でセンチメンタルな気分になってる。運良く眠くなってきたし、今のうちに眠るか。朝になって、目覚めないことがありませんように。


 ◇


 いつも通り起きて、いつも通り支度をして、いつも通り直前まで勉強をして家を出る。学園に向かって、ヴェルリアストリートに出るあたりでいつものようにレティシアと会った。

「おはよう、アリアくん」

「おはよう、レティシア」

「体調大丈夫?」

「ああ、おかげさまで。心配かけたな」

「本当に、心配だったんだからね〜」

「あはは、わるいわるい」

 軽口を叩きながら学園に向かう。

「……今も、体、キツかったりするんだよね」

「え?」

「昨日の頭を打ったのは大丈夫になったんだろうけど、魔力過剰症候群の症状はいつもあるんだろうから、それなら、今朝もきついんじゃないかって思って……」

「……まあ、そういうこともあるさ」

「頭痛い? 吐き気する?」

「……まあ」

 頭痛・吐き気・酩酊感。これら三つのうちどれもなかったなんてことはほとんどない。今も吐き気と頭痛はする。だから、頭を打った時もさほど気にしてなかったんだが……

「……ぎゅー!」

「れ、レティシア?」

 急に彼女が抱きついてきて、反応に困る。あったかい。

「私が辛い時は、お母さんにこうしてもらってたの!」

「そ、そうか」

「ごめんね、いつも辛いんだもんね。ずっとはしてあげられないけど、でも、何もしないのは嫌だから……」

「……ありがとう」

 彼女の頭をポンポンと叩く。

 誰かのために笑うことができる。誰かのために泣くことができる。

 人の立場に立って考えて、自分がしてもらって嬉しいことを相手にできる。それが彼女の強みであり、良さだ。こういう部分に俺は助けられてるのかもしれない。

 感謝の意を込めて、彼女の頭を撫でる。

「……」

 跳ね避けられるかと思ったが、案外素直に撫でさせてくれた。何も反応がないので、そのまま撫で続ける。この姿、他の人にはどう見られてるんだろうな。

「……そろそろ行こうか」

「うん!」

 道中、妙に上機嫌なレティシアと一緒に学園に登校した。

「……」

──登校後、教室に向かう途中なのだが妙に視線を感じる。いつもの敵意に満ちたものとは少し違う、探るような感じだ。

 大方、昨日の授与式で学位持ちだと知って、態度を翻そうか考えあぐねいているのだろう。俺としては願ったりというか、どこまでも自分勝手というか……

「今日の一限って何だっけ」

「数学だな。場合の数の計算」

「うげっ……私、あれ苦手なんだよね」

「奇遇だな。俺もだ」

「えー、アリアくんは全然じゃん」

「基本的なのはいいが、漸化式の解は閃き勝負なところがあるからな。n項目に関する漸化式にnの関数が係数にあったり、特に三項間だと解けないこともあって……」

「同じ分野のはずなのに別の言語話してる……」

 レティシアに今の説明について解説しながら歩いていると、説明の途中で誰かの叫び声が聞こえてきた。随分と遠くからで聞き取れなかったが、なにやら怒鳴っているようにも聞こえる。誰かが怒られてるのだろうか?

「何だろう……」

「ちょっと行ってみるか」

「あっ、待って!」

 我ながら放っておけない性分だと自覚している。こんなんだから面倒ごとに巻き込まれるんだろうが、それ自体には特に何も思わない。ただ、事後に面倒がついてくるのだけは勘弁してほしい。市警の奴らみたいなのとか。

「──他人の事情に口出ししてくんなつってんだよ!」

「他人の事情って、成績について話すのは学生として普通だろう?」

「だから、それがお節介だっつてんだよ!」

 何やら、男子生徒同士が喧嘩をしているようだった。怒鳴っていたのは手前の生徒か? 随分と怒り狂っている。

「おいおい、聞いてくれよ。あんだけ威張り散らしてたボニファース君は、前期21位だったんだぜ? 笑っちまうよなぁ!」

 21位って、普通にいいじゃないか。煽りになってるのか?

「四方八方にでかい顔して成績が落ちた感想はどうですかぁ?」

「っ……てめえには関係ねえだろ!」

「あるねぇ! 散々自慢を聞かされた身としては、大いにあるねぇ!」

「アリアくん、あれって……」

「喧嘩だろうな」

 このティルティア学園でもさほど珍しく無い光景だ。

 成績をめぐったトラブル、痴情のもつれ、果てはギャンブルで大負けしたなど、とても先進学校とは思えない些細な理由で喧嘩となる。

 所詮は学生か。どれだけいいとこの坊ちゃんを集めても、常に競争させていればこういう諍いは起きがちだ。特にこの学校は良い意味でも悪い意味でも放任する教師が多い。統率を自分たちで取らせようとするから、こういう事態に陥ってもストッパーが存在しない。

「止めた方がいいのかな……」

「下手に介入すると矛先が自分に向くぞ」

「……」

 登校の時間帯、通りがかる生徒も多い中、野次馬に集まる生徒も結構いてまるでコロシアムのように中庭の方を眺めている。諍いを頭上から眺めてるという点では変わりないんだろうけどな。あんまり趣味ではない。

「ねぇねぇ、どんな気持ち? あれだけ自慢してた成績が一気に落ちるのはどんな気持ち?」

「てめぇ……」

「お前、成績が悪い奴はカスって言ってたよなぁ! だったら、成績が落ちた奴もカスじゃね? おら、カース! カース! カース! カース!」

 周囲に合唱を求めるように、耳障りな掛け声が早朝のティルティア学園の中庭に響く。少し冷たい空気、透き通るような朝に相応しく無いような喧騒が、いつもこの学園には溢れているが、今朝は特にひどい。

「カース! カース! カース!」

「……警告する。やめろ」

「おら、カース! カース! カース!」

「……」

 あまりに醜くて踵を返そうとした時、魔術の反応がする。

 秘匿……まさか──

 突然、そばにあった池の水が一人でに蠢き、激流のように水面から這い出す。

 墜落するように地面にぶちまけられると、異様なスピードで地面に吸収され、次いで地面が粘性を帯びる。巨像のような影を映し出して、小さな山のようにボニファースと呼ばれていた男子生徒の前で盛り上がると、餌を与えるように水が与えられ、ようやくその姿が顕になった。

 竜……いや、蛇か? 泥の形状でよくわからないが、何かを模した形している。

「っ……」

「アリアくん!」

「は⁉︎ お前──」

 煽り散らしていた男子生徒が声を上げようとする前に、泥濘の拳が振り上げられる。人の何倍も大きい質量が、その生徒を真っ向から粉砕しようとしていた。

「ベクトル操作……」

 それを、魔術で妨害した。

「……誰だ」

「そこまでだ」

 やれやれ、どこまで行っても放って置けない性分だ。自分でも嫌になりそうになる。

 仕方なく、中庭に飛び出す。レティシアが心配そうな声をかけてきたが、彼女の方に手を振り返して大丈夫だということを伝える。

「魔術での加害行為はこの学園で禁止されている。速やかに魔術を解け」

「……誰だお前」

 これは嬉しい。俺のことを知らないのか。

「聞こえなかったのか? 速やかに魔術を解け」

 これだけの土砂の塊。一体どれだけ魔力があるんだ。立体構造を保ったままであることみれば、ボニファースが魔術を解いていないことは明白……面倒だな。

「……」

「事情は知らん。だが──」

「知らんなら、出てくんじゃねえよ!」

 俺の横を大質量が掠める。今の校舎にあたったら壁が崩れてたろ。弁償どうするつもりだ?

「……今のは加害行為とみなされるぞ」

「はっ、見たきゃ見ればいいだろ」

「……殺傷性の魔術は禁止されている」

「それこそ、てめえが言うかよ。アリア・ドルミエス・アストレア」

 ……知ってたんじゃないか。意地悪なやつめ。

「もう一度言う。魔術を解け。喧嘩なら素手でやれ、ばか」

「俺らは魔術師だ。素手だろうと魔術だろうとやることは変わりない」

「《それ》だとあいつが死ぬ」

「だからどうした?」

「学生の喧嘩ならまだしも、殺し合いを学園でやらないでくれ。周りの迷惑になる」

「その周りが! 俺にんなこと言うからだろ⁉︎」

「……」

 まあ、気持ちは分からなくもないが……ここで譲歩するわけにもいかない。もう一度出てしまった以上、魔術を解除してもらわなくては。

「魔術を解除しろ」

「断る」

「出なければ強行手段に出る」

「やってみろよ」

 やってみろよ、と言うことなので。重力操作。

「がっ……」

「……」

 ボニファースが膝をつく。突然の荷重に、泥の方も形状を一時的に保てなくなったようだ。ぐちゃりと元の泥のように形を成していない。

 秘匿はなし。保安は……しなくてもいいだろ。この程度の魔術なら量産できる。壊された先から作り直せばいい。

 重力五倍、50kgの人間が一気に250kgになる。加害行為とみなされるかもしれないが、危険行為に及んでいる人間の拘束のためなら許可される範疇だ。問題ない。

「大人しく魔術を解除しろ。さもなくば──」

「舐めんなよ……」

 飛んできた泥の塊を流体操作で軌道を逸らす。その状態で魔術が使えるのか。驚いたな。

 一瞬の隙をつかれて重力操作魔術が破壊される。やべ、ミスったかも。

 大質量の泥が俺に襲いかかる。対処しなくては。重力操作の再展開をしている暇ではない。というか、これ、俺が無抵抗だった場合どうする気なのか。

 ベクトル操作で全ての動きを相殺する。事実上、泥の塊を魔術で拘束した。

「っ……」

「大人しくしろ。でないと、またひれ伏すことになるぞ」

「舐めんじゃねぇ!」

 一瞬、泥の定形化が解除される。流体化した泥を魔術が捉えきれず、拘束が解除された。やるな、面白い。

「テメェみたいなスカした野郎より、俺はよっぽど努力してんだ! 勉強も、魔術も、テメェなんざには比べ物にならねぇ! 俺はボニファース・テル・ホルスト、由緒正しい魔術師の家系だ!」

 目を見張る魔術操作で俺の周囲に泥を展開する。不定形で俺にベクトル操作で介入をさせないつもりか。

 これはあれだな。モグラ叩きだ。どこから泥の塊が出てくるでしょうっていう。子供の頃に親父にモグラ叩き台を作ってもらったことがある。

「家柄も遺伝子も才能も、てめえみたいな情熱しかねえようなやつに負けたりしねぇんだよ!」

 後ろ……!

 塊になって襲いかかってきた泥の動きを相殺する。

(違う……これはダミーだ!)

 粋な真似をする。なら本命はどこに……

「っ……」

 なるほど、泥の主成分は水。地中で水分だけを移動させて、ダミーを囮に一点に泥を形成したってわけか。

 振り返る瞬間、最大量の泥が襲いかかる。回避は不可能、狙いは必中。避けたとしても後ろにいるレティシア達に被害がかかる。

「アリアくん!」

 けれど、俺に泥がつくことはない。

「……なっ」

「大人しくしてくれるか?」

 結局、俺に攻撃するにはある程度泥を集める必要がある。的が大きくなればベクトル操作でどうにでもできるし、あとはどこからくるか知覚するだけだ。

 俺は攻撃されるその瞬間までに気づけばいい。向こうからやってきた泥を、ベクトル魔術で一才の動きを相殺して静止させるだけだ。そうすれば、あらゆる攻撃は無効化できる。

「ふざけんなよ……!」

 まだ諦めきれないのか、それでも無理やり泥を動かそうとしている。ギリギリ俺の顔に触れようとするが、すぐに押し戻す。押し問答のようなやり取りが、しばらく二人の間で続いた。

「面倒だな……」

 魔術を行使した瞬間、泥から勢いよく蒸気が噴き出す。爆発するように広がる噴煙に、ボニファースは腕で顔を覆い、周囲からは驚きの声が聞こえてきた。

 白い霧が晴れる。そこには──

「なっ……⁉︎」

「……」

 干からびた泥の塊。もはや水分が抜けて白く乾いている。

 泥の流動性・粘性は水分のおかげだ。完全に乾かせば、それはもはやただの土砂でしかない。流体操作でのコントロールも効かなくなるはずだ。

「なにが……」

「水を蒸発させただけだ」

「蒸発って……泥の含水率が何%あると思ってんだ! 適当こくんじゃねえ!」

「82%だろ?」

「なっ……」

「水量に直せば24kLか。結構あったな」

「そっ、そんなの、蒸発させられるわけないだろ! 水の蒸発熱がいくらあると思ってんだ!」

 1リットル当たり3MJ、ざっと計算して72GJってところか。単純な熱操作の分、大規模かつ精密な解析を必要としないから魔術拘束を外さずに済んだ。

「何しやがった! 言え!」

 ボニファースがこちらに詰め寄ってくる。

 今の計算を説明してもいいんだが、多分納得しないんだよな。まあ、俺に説明を求めているうちは口で解決できるから暴力沙汰にならない分マシなんだが、これはこれで面倒ということには変わりない。

 その時、一角から澄んだ声が鳴り響く。

「そこまでだ!」

 ……ようやく来たか。

「生徒会長のガブリエラ・シュナイドロヴァーだ! 魔術を使った加害行為に至っている生徒がいると聞いてここに来た。全員、一才の魔術行使を中止せよ!」

 現れたのは学園の見張り番。唯一の良心。この学園の風紀と治安とその他諸々を守ってくれる生徒会の会長様だった。

 人一人簡単に殺せる学生がわんさかいる中で、それでも一般市民に危害を加えさせないために存在するエリート集団たち。今回はなんと、そのリーダー直々の登場だ。本音を言えば、もっと早くきて欲しかったところ。

「ガブリエラ様だ!」

「校内成績万年トップの逸材、孤高にして崇高なガブリエラ様だわ!」

「副生徒会長様はいらっしゃらないのかしら!」

 女子人気も相当に高し。カリスマ性もあって自他共に認める学園最強だから、信奉する人も多いという。

「……君が通報にあった男子生徒だね」

「生徒会長……!」

「事情を聞くために同行してもらおうか。すぐにその魔術を解除したまえ。アリア君もだ」

 げっ、名前を覚えられてる。俺なんかしたかな……してるわ。現在進行形でしてるわ。

 大人しく彼女の言う通り魔術を解体する。しかし、ボニファースは一向に動こうとしなかった。

「早く」

「……はい」

 けれど、生徒会長はたった一声で言うことを聞かせる。これが人徳の差だろうか。羨ましい。

「それで……君か」

 なんだか、めんどくさそうに俺の方を見る。

「事情は大体予想がつくが、だからといって全て推測で終わらせるわけにもいかない。申し訳ないが、君も同行してもらえないだろうか

「分かりました」

「すまないね。本来なら君のような規格外の生徒を規格に沿って処分すると言うことの方がおかしなことなんだが、許してくれ」

「大丈夫ですよ。気にしないでください」

「はは、そう言ってくれると助かるよ。生徒会も案外お役所仕事なんだ」

 大事な仕事はルール違反をしてはいけないから、必然とルールに固執してしまう部分がある。そこら辺を調整しなきゃいけないから生徒会長は大変なんだろうな。

 プラチナブロンドの髪をたなびかせ、ボニファースを直々に連行する生徒会長とその取り巻きたち。俺は彼女の後ろについて行った。

「アリア君!」

「レティシア」

「大丈夫だった?」

「ああ、なんとか」

「もう、すぐアリアくんは無茶して……」

「でも、そうして欲しそうな顔してただろ?」

「……してない」

「そうか?」

 まるで、助けを求めるような顔をしてたから咄嗟に出たんだが、勘違いだったか。

「体調は大丈夫?」

「魔力を使えたからむしろちょっといいぐらいだよ。いつもこのぐらい消費できればいいんだけどね」

「……」

「そんな顔しないでくれよ。教室で待っててくれ。すぐに戻る」

「……分かった」

 そのまま俺たちは生徒会室に向かう。道中、また視線を集めていたが、どちらかといえば生徒会長と連行されているボニファースの方にだった。

 ボニファースの方を先に聞き取っているようで、俺はしばらく待たされる。

「待たせたね」

「いえ」

 一時限目はもう始まったいるだろうが、生徒会がらみといえば先生も怒るまい。安心して遅刻することができる。

「大体の経緯はあの子から聞いたけど、君からも話を聞きたくてね」

「俺は誰かと言い合ってるボニファースを見つけて、魔術を行使しようとしたので止めただけです」

「あの土砂の山は?」

「あいつが魔術で動かしていました。今はもう無いはずです」

「どかしてくれたか」

「はい」

 器用にやるね、と生徒会長は微笑した。

「まったく、それにしても面倒なことをしてくれたもんだよ」

「ダメでしたか?」

「いやぁ? 校則違反で尚且つ多生徒に危害を加えようとしている生徒を拘束しようとしたんだ。何の問題もない」

「問題ないのに、面倒なんですか?」

「問題ないから面倒なんだよ」

 もう一度、今度は呆れたように微笑した。

「まったく、後始末は全部生徒会に押し付けるんだから、この学園の制度もどうかしてる。なんで私が始末書なんぞ書かなきゃいけないんだ。私が暴れたわけでもないのに……」

「……ご愁傷様です」

 なんか、本当にご愁傷様だった。

 それから、いくつか事情を聞かれ、受け答えをする。いくらかすると満足したように生徒会長は席をたった。

「それじゃあ、君は教室に戻りたまえ。一次元目はもう始まっているだろう?」

「そうですね」

「先生に私の名前を出したまえ。そうすれば何も言われないだろう」

「……」

 流石、生徒会長様と言ったところか。ネームバリューが半端じゃない。

「失礼します」

「あいよ」

 カジュアルな返事をいただいて、生徒会室を去る。

 何事もなくてよかったが、本当に後始末の時の面倒だけはごめん被りたい。

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