第10話 喧嘩

 コカトリス二体とバジリスク一体の脱走騒ぎの後、緊急で教員会議が開かれたようだった。学長も集まり、30分の会議の末、対処について話し合われた。

 演習場付近は封鎖の上、バジリスクとコカトリスの側には魔導士と教師がそれぞれ三人体制でつくこととなった。生徒は興味津々の様子だったが、ただならぬ教師陣の気迫に流石においたをする気にはなれなかったのだろう。むしろ、借りてきた猫のように学園はどこか静かであった。

 学長の判断ですぐさまヴェルリア市警と連絡を取ることになり、しばらくして警察らしき魔術師の人が学園にやってきた。俺たちは事情を聞かれ、解放される頃にはすでに日は没していた。どっぷりと夕陽は地平線に浸かり、面倒なことをしたなとつくづく実感した。

「うへ〜」

「大丈夫か」

「う〜ん、優しい人たちだったけど、たくさん聞かれたよ〜」

「そうだな」

「アリアくん、そろそろ帰ろ〜」

「……俺はちょっと用事がある」

「え〜?」

 彼女を置いて、俺は魔獣の飼育小屋に入っていく。おそらくはあの魔術師二人が捜査した後、決定的証拠があったならすでに持ち帰っているはずだが……

「妙だな……」

 きたのはコカトリスとバジリスクがいた魔獣小屋、どちらも鉄製のフェンスで二重に囲われているし、これを破るのは相当苦労するだろう。そもそも、小屋自体も法術措置が施されていて、そうそうコカトリスたちが興奮するとは思えないし、何より……

「……」

 あのバジリスク、俺がたっぷり仕込んでおいたはずだ。

 ここにいる竜種は、幼体から育てたはいいものの学園を卒業するにあたって十分な設備を整えられなかった卒業生たちがそのまま学園の魔獣小屋に残していった連中だ。無責任な飼い主に捨てられ、世話をしたがる人もいないから担当の飼育員にも怖がられていて、そこでいつの間にかその役が回ってくるようになった。仕方がないから、たまにそいつらの面倒を見ていたのだが……

 特にあのバジリスク、毒を持った毒竜種だから、危険がないように何度も俺の魔力を覚えさせたはずだが……どういうわけかあいつは俺の方に真っ先にやってきた。反抗を覚えたか? いや、誰かがそそのかさない限り、そうそうそんな気は起こらないはず。竜種は……バジリスクは比較的知能が低いといえど、それでも人語を理解する程度には賢いはずだ。調教を忘れるほど鳥頭じゃないはず。それなのに……どうして?


 ◇


 翌日の朝、登校時間となって家を出ると、15分ほどしてレティシアとばったり会う。半ばルーティン化してきた彼女との登下校に、自分も「当たり前さ」というのを感じながら、少し肌寒い秋のヴェルリアを歩いていた時、

「あっ、フリーダさん!」

「……」

 面倒なやつとも鉢合わせた。

「……なんで君がいるのかな」

「え……」

 答えたのはレティシアの方だった。

「ああ、レティじゃないよ。じゃなくて、君。どうして君が、君なんかがレティの隣にいるんだい?」

「え、えっと……」

「……」

 言いたいことはなんとなく、すぐにわかった。

「……何が言いたいんだ?」

「レティを危険に晒した君が、よくのうのうと素知らぬ顔で一緒に登校なんてできるものだねと、そう言ってるんだよ」

「素直にその資格がないって言えばいいだろ」

「ちっ……」

「あ、あの、フリーダさ──」

「レティは黙ってて」

「っ……」

 こいつは何がしたいんだ。レティシアのために喧嘩売ったり、今度は黙れと言ったり。

「それで? どうしてほしいんだ?」

「近づかないでくれるかな、レティにも、私にも」

「分かった」

「アリア君!」

「じゃあな」

「返事をしていいとも言ってないんだけど?」

「許可制かよ……」

 半ば笑みが溢れるのを抑えながら、俺はその場を後にした。

 あの時、俺を止めようとレティシアが俺の手を掴んだあの時、こうなるんではないかと思っていた。

 確実に仕留めるにはある程度距離を縮める必要がある。魔獣に対する直接の魔術的干渉は、彼らの持つ本能的な対向干渉によってある程度軽減されるから、誤差なく確実に奴らの動きを止めるには近づくしかない。

 ティム先生には悪いが、あの人がコカトリスを止められるとは到底思えなかった。いくらあの人がベクトル操作の教師でも、魔術師であって魔導士ではない。咄嗟の判断など、出来ようはずもないのだ。

 俺はあの場で動かないことを選択した。それは、必然と一緒にいるレティシアも、その場に残るよう仕向けることでもある。正直、そこら辺が一番弁明しづらいし、怒られるならそこかなと思っていたのだが、ティム先生は予想に反してそこを追求はしなかった。頭が回らなかったのか、これが学園の管理監督責任だからか。どちらにせよ、俺は、この時を待っていたと言ってもいい。

「違っ! フリーダさん! アリア君は……!」

「ほら、いいから行こ? アンジェ達も待ってる」

「でもっ!」

「……」

 ぎりっ、とフリーダが握る手に力が込められる。彼女の余裕のなさを知って、一度フリーダの顔を見て、レティシアは暗く俯いた。

「……うん、分かった」


 ◇


 レティシアとわかれ、一人で学園に登校し、うるさいヴェルリアストリートを抜け校舎に入ると、その時点から周囲の注目を感じた。そういえば、昨日のゴタゴタは嫌に観衆が多かったからな。元々俺を知ってる奴はあの場に立ってたのが誰なのか、目ざとく見分けるだろう。

 まるでモーゼの海割りのように、人混みは俺を避けながら登校する。ジロジロと見回されたり、ヒソヒソと話し声が聞こえたり。仕方ないので、気づかないふりをした。

 教室に入るとほとんどの生徒が俺の方を注目する。あまりに一斉に見てくるもんだから、一歩後退りしそうになってしまった。鉄の心でそれらを跳ね返す(つもりになって)一歩踏み出すと、さっさと席に着いて一時限の準備をする。尚も見てくるやつが三割、興味なさげに会話に戻るのが七割、と言ったところか。俺が何かをしでかすのは、同じクラスにいるこいつらにとっては慣れた話だから、他の奴ほど興味は惹かれないのだろう。まったく、寂しい限りだ。薄情な奴らめ。

 しばらくするとフリーダとレティシアが登校してきた。側にはエイリーンやアンジェリーヌ達もいる。皆、教室に入って俺を見ると、何かを言いたそうな目で、それでも何も言わずに会話を再開した。

「……」

 唯一、レティシアからは人目を感じ続けた。もう少し誤魔化すことはできないんだろうか。絶対、フリーダにもバレているんだが。

「レティ」

「えっ、あ、何?」

「……」

 ほら、言わんこっちゃない。


 ◇


「……」

「……」

「……」

「……」

 デジャヴだな。

「……そんなふうに俺を見てると、またあのお姫様がカンカンになるぞ」

「フリーダさんのこと?」

「そうだ」

「……今は大丈夫」

「どうして?」

「昨日の聴取だって。人手が少ないから、順番にやってるみたい」

「君も、意外と図太い節あるよな」

「……」

 俺の問いかけに彼女は答えない。仕方ないので目の前の参考書に再び目を落とした。

「……ごめんね、今朝は」

「別に」

「あのね! 私、分かってるから! ちゃんと、分かってるつもりだから!」

「分かった分かった、だからちょっと声」

「……」

「あんまり大きい声出すと、フリーダにチクられるぞ」

「んふふ、まるで先生みたい」

「先生より今は厄介だ」

 何せ、今回の騒ぎは完全に学園の不祥事だ。通学している生徒もいるから、既に昨日の事件は親御さんの耳にも入っている。お坊ちゃんやお嬢様の多い子の学園の保護者陣は、正直言って強い。一教育機関でしかないティルティア学園は、いかにその名声を馳せていようとこう言った事態には弱いのだろう。今朝からティム先生の感じもどこかやりづらそうというか、あんまり生徒に怒れなさそうな雰囲気だった。今の状況で下手に保護者を刺激したくないのだろう。

「レティ」

「あ、フリーダさん!」

「……何してたの?」

「ううん、なんでも。あ、ただ、勉強でわからないことがあって」

 ちらりとフリーダは俺を見る。そんなふうにみないでくれ、何もしてないから。

「……私が教えてあげるよ」

「うん! ありがと!」

「……」

 こういう切り返しの早さを見ると、案外レティシアも世渡り上手なんだなと思う。


 ◇


「アリ……じゃなかった。フリーダさん、これ、よくわかんないんだけど……」

「えっとね……」

「……」

「……? なんでここがプラスなの? 部分積分の公式じゃマイナスだったよね」

「えっと、それは……」

「……」


 ◇


「アリ、じゃなかった。フリーダさん、一緒にご飯食べよ!」

「あ、う、うん。いいよ」

「えへへ〜、今日はね、ダラートの日なんだよ〜?」

「レティはダラート好きなのかい?」

「うん! もちもちで美味しいから!」

「どっちかっていうとソースが本体な気もするけど」

「そんなことないよ〜、アリア君みたいにソースなしでもっ、あ、え、あの、あ、そうそう! バジルソースってのもあってね〜」

「……」

「……」


 ◇


「アリ、じゃなかった。フリーダさん、一緒に帰ろ!」

「……」

「フリーダさん?」

「……ん? どうしたんだい?」

「いや……考え事?」

「ああ、まあね」

「そっか、それじゃ、帰ろ?」

「ああ、そうだね」

「……」

「……レティはさ」

「ん?」

「いつもアリアと一緒に帰っていたのかい?」

「え?」

「ああ、いや……」


 ◇


 それから数日はフリーダによる監視の日々が始まった。俺がレティシアに近づいていないか、レティシアも俺に近づいていないかをまるで警察か何かのようにフリーダはレティシアのそばにいて俺を監視し続けた。ここまでくるとあれだな、レティシアの彼氏みたい。いや、付き合ってないからストーカーか? やめておこう。本人が聞いたら絶対怒る。それはそれは怒髪天をつく勢いで怒るだろう。触らぬ神に祟りなし、南無。

「最近、フリーダさんの様子がおかしいの」

「君、なんかニンジャみたいだな」

「なにそれ」

「東洋のスパイ」

「えへへ、バキュンバキュン!」

「ニンジャは銃を使わない……というか、愛しのレディの元には行かなくていいのかい?」

「フリーダさんのこと?」

「他に誰がいるんだ」

「フリーダさんね、なんか、最近難しい顔してるの」

「君の工作活動がバレてるんじゃないか」

「そんなはずないよ! 現にこうして私は隠密活動を継続して……」

「レティ?」

「ヒャッ!」

「なんでこんなところにいるの?」

「え、えっと……隠れんぼ?」

「……」

「……俺を睨むなよ。何もしてない」

「……ほら、昼休みでしょ? お昼ご飯行こ?」

「うん、分かった……」

「……レティ?」

「最近、フリーダさん様子おかしくない?」

「え……」

「なんか、私と居ても心ここに在らずって感じだし……」

「そんなこと……」

「……」

「そんなこと、そんなことないよ⁉︎ レティと一緒にいるの、すごく楽しいし……」

「でも、フリーダさんの笑顔、最近ずっと見てないよ!」

「っ……そんなこと……」

「そんなことあるよ! ずっと取り繕った愛想笑いばっか浮かべて、流石に私も心配だよ!」

「……君が」

「え?」

「……いや」

「……アリア君、行こ」

「え、レティ……」

「何にも話してくれないなら、そんなフリーダさん、知らない!」

「いやちょっ、レティシア……」

「アリアくんは来るの!」

「えぇ……」

 なんでこんな痴話喧嘩に付き合わされてるんだ? ていうか付き合ってるのか、こいつら。会話内容がまるきり男女のそれなんだが。


 ◇


「フリーダさんのバカ。もう友達じゃないもん」

「そんなこと言ったらダメだろ。友達は大切だ」

「アリア君に言われたくない」

「……」

 全くもってその通りだが、俺に百のダメージだ。まさか、そんなふうに言われてるなんて。

「……俺にも友達ぐらいはいる」

「え⁉︎ いるの⁉︎ うそ、どこに⁉︎」

「流石に傷つくぞ?」

「え、あ、ごめん! アリア君、友達とかあんまり興味ないかなって思って……」

「じゃあレティシアは友達じゃないのか?」

「……」

 レティシアはキョトンとした顔を浮かべる。

「……」

「……泣くぞ?」

「え、いやっ……嘘」

「泣く」

「ああいやっ、違くて! いや、まさか、アリアくんに友達だと思われると思わなくて……私だけかなって」

「……」

 それは……否めない。そう思われても仕方ないような振る舞いをしている自覚はあった。でも、それとこれとは話が違う。泣いちゃうぞ。

「そっか、えへへ……アリアくんの友達か〜」

「というか、他にも友達はいるぞ」

「え、嘘」

 こっちはマジなイントネーションだった。

「失敬な。俺にもそれぐらいいる」

「え、私、アリアくんの唯一の友達じゃないの?」

「傲慢が過ぎる……」

「えぇ〜、それは、なんだかな〜」

「なんだ。他に友達いたら、友達辞めるとか言わないよな」

「言わないよ! ダメダメ、絶対ダメだから!」

「なら、フリーダに関しても、友達じゃないとか言ったらダメだろ」

「あっ……」

「大切なら、簡単に捨てたりしちゃいけない。壊したものは、簡単には取り繕えないんだから」

「……」

「……レティシア、君、フリーダの話だってこと忘れてただろ」

「いやいや、そんなわけ……」

 目が泳いでいた。

「……レティシアは思ったより薄情らしい」

「待ってぇ……!」

 一方その頃、フリーダの方は……

「レティに嫌われたレティに嫌われたレティに嫌われたレティに嫌われた」

「なんなんですの、これ」

 学園敷地内のベンチに座って何事かを唱え続けるフリーダを、帰る途中だったアンジェリーヌが発見していた。隣にいるジンジャーはフリーだの呪詛紛いの言葉を聞き取る。

「……レティに嫌われたって言ってる」

「はぁ? レティシアさんがそうそう人を嫌うわけないじゃないですの。どうせ勘違いでしょう?」

「『フリーダさんのことなんて、知らない!』って言われたんだぞぉ……!」

「うわ、ちょっと寄らないでくださいまし。ゾンビみたいで気持ち悪いですわ」

「……」

「アンジェ、死体蹴り……」

 隣にいるジンジャーはボソボソと呟く。

「大体最近のあなた、ちょっと物騒でしてよ。過剰に反応しすぎというか、ストーカー気質というか……正直、最近の貴方は気持ち悪かったです」

「気持ち悪い……」

「まるでレティシアさんの恋人かってぐらい束縛して……周囲の人も実は引いてましたわよ」

「引いてた……」

「あなたの言い分もわかります。しかし、あれはアリアにとっても仕方のないこと。他に選択肢がなかったのですから、それなのに、やっかみ投げて友人を奪い取るなんて、やっていること外道そのものじゃありませんか。バカなんじゃありませんこと? アホなじゃありませんこと?」

「アンジェ……それ以上やると、フリーダが死んじゃう」

「死ねばいいんですわ、こんな人……」

「ぐはっ!」

 友人にボロクソ言われて、ついに膝から崩れ落ちるフリーダ。その様子を見て、アンジェリーヌはすまし顔で鼻をならした。彼女にしても、唯一と言っていい親友の蛮行は、耐えかねるものがあったのだろう。

「……それにしても、あのレティシアさんから「知らない」なんて単語が出るとは……貴方、相当やらかしたんですのね。当然の報いですわ」

「アンジェ、そろそろフリーダが可哀想」

「可哀想なのは付き合わされた私たちですわ」

「……」

 それに関してはジンジャーも否定しなかった。

「ほら、貴方、さっさと謝ってきなさい」

「でも、どうやって謝ったらいいか……」

「ええい、面倒な。もう子供じゃないんですから、そのぐらい自分で考えなさいな」

「……」

「……ああ、もう。一体なんて言ったんですの⁉︎」

「最近私の様子がおかしいって言われて、なんでもないって答えたら、何も言ってくれないならフリーダさんなんて知らないって言われて……」

「……貴方達、恋人ですの?」

「同感」

「茶化さないでくれよ……」

「会話内容がまるきり恋人の痴話喧嘩ですわ」

「……ただならぬ、関係」

「だから、茶化さないでくれよ!」

「真面目に申し上げているんですわ」

「妥当な、感想だと、思う……」

「……」

「はぁ……とにかく、それで顰蹙を買ったなら、レティシアさんにさっさと白状なさいまし。正直に、誠実に。それしか不和を解く術はありませんわ」

「……分からないんだ」

「は?」

「だから、分からないんだ。最近おかしいとか言われても、心当たりないし……」

「……それ、本気で言ってますの?」

「ああ、そうだが……」

 アンジェリーヌとジンジャーは二人して顔を見合わせた。

「……重症」

「呆れた……自分の変化にさえ気づかないなんて」

「??」

「もうその盲目具合、恋とでも呼んで仕舞えばいいんですわ。そんな自覚がないのだから、いっそう恋よりも厄介極まりない……」

「なんのことだ?」

「貴方のおつむが、私の想像を超えたおバカさんで、頭痛がすると申してるんですの」

「いくらアンジェでも、その暴言は聞き捨てならないな」

 少しだけ、フリーダはいつもの調子を取り戻す。

「ええええ、いくらでもお好きになさい。その結果、今度は絶縁を言い渡されても知りませんけど?」

「うう……」

「……冗談ですの。とにかく、貴方はまずレティシアさんと距離を置きなさい。最近の貴方は、ちょっと冷静じゃありません」

「……分かった」

「不服そうな顔をしない」

「苦虫を、噛み潰したような、顔」

「反抗を顔に表さない」

「ああ、もう。うるさいな、さっきから二人してごちゃごちゃと」

「ふふ、その調子ですわ」

 ようやくいつもの調子に戻ったとアンジェは思った。


 ◇


 翌日、前のようにレティシアは俺の前に現れるようになった。

「あ、や、やあ。レティ、じゃなくてレティシア……」

「……」

「……」

「……」

「……行こ、アリアくん」

「……」

 フリーダと登校中にあっても、目を合わせるだけに会話もしようとしないし、これは相当怒っているようだった。

 そもそも、レティシアは元から変に喧嘩したりするのが嫌いらしい。矛盾するようなことを言うようだが、フリーダの俺へのあたりに何かしら思うところがあっての今の行動なのかも。そう考えると、フリーダが俺に謝るのが一番な気もするが……

「……」

「くっ……」

 全然俺は眼中にない。というか、どちらかといえば敵意を感じる気がする。なんとなく、彼女を寝取られた元彼みたいな……

 いや、やめとこう。変な沼にハマりそうだ。

 それからの生活は表面上いつもと同じようだったが、先生の話し方はどこかぎこちないし、レティシアはフリーダに顔を合わせないし、フリーダは、何かとあれば俺とレティシアの方を見てくる。特に俺への視線は嫉妬と憎悪そのもの。正直帰りたい。

「なあ、レティシア」

「なーに?」

「そろそろ、フリーダと仲直りしよう」

「……」

「こら、無視ししない」

「つーん」

「擬態語を口に出さない」

「だって、フリーダさんは私と友達っていうのに、隠し事してるんだよ? 許せなくない?」

「友達でも、隠し事の一つや二つあるだろ……」

「でも、困ってたら力になりたいじゃん。それなのに、ずっと私にダンマリで……それに、アリアくんの件だって許せないよ。弁明も聞いてくれないなんて……アリアくんは許せるの?」

「まあ……いつものことだし」

「じゃあ私が許さない」

「なんでだよ……」

「アリアくんが怒らないから、私が代わりに怒る」

「……」

 これは、本格的にフリーダが俺に謝罪しないとダメだな。

 だけどな〜、明らかに俺に敵意が向いてるし、どうやっても謝ってもらえそうにないんだよな〜。

 レティシアと仲直りするためとなれば演技ぐらいならしてくれそうだが、そういうの、レティシアは聡い印象があるし、万が一バレたら俺にまで火の粉がかかる。正直、フリーダのことでそこまで巻き込まれたくないし、一度やれば二度は通じない。これはフリーダ自身になんとかしてもらうしかないか……

「……でも、ずっと友達と喧嘩はよくないだろ」

「……」

 お? 行けるか?」

「喧嘩するのも友達の特権です!」

「……」

 駄目だこりゃ。

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