第5話 対抗戦

「今日の五時限目は何だっけ?」

「確か学活だったと思う」

「学活?」

「学校の行事とかは大体この教科として扱われるかな」


 フリーダさんは手ぶらでそう言います。


「確か今日は交流戦だったと思う」

「交流戦って何するの?」

「下級生と上級生で学級の代表同士が戦うのさ。お互い授業の成果を出し合って普段の学勉のインスピレーションにしあうってのが学園の目的だけど、実際は上級生に下級生がぼこされることが多いね」

「うわー」


 絶対に代表になりたくないやつです。


「集合は練習場だっけ?」

「ああ、お互いのクラスの生徒が集まって、その目の前で戦うわけだから学園もなかなか性格が悪いよね」

「対戦相手はどのクラスなの?」

「6-C」

「ええ!?五年生じゃなくて六年生なの」

「ああ。基本は四年生と五年生が六年生に挑む形だからね。だから、高校から入学したばかりの新入生は基本代表には選ばれないよ」

「うちのクラスの代表は誰なの?」

「アリアくんさ」

「あー、アリアくんか。それでも、六年生相手だと大変そうだね」


 六年生になるとプラズマ操作やその他実用的な魔術をたくさん学びます。四年生と五年生より、五年生と六年生のほうが雲泥の差だといわれるぐらいです。なんでもティルティア学園の卒業生はそれだけで一人前になるほどの魔術の素質を秘めているのだとか。卒業手前の六年生といえば学園の最強格です。


「どうかな。六年生もまだ五年生から進級したばかりだから、そこまで授業深度が進んでるとは考えられない。それに……」

「それに?」

「……アリアくんだし」


 どこか皮肉げにフリーダさんは言いました。


 私たちがしゃべっている間に練習場へと到着します。枠線がひかれたコートの周りに4-Dと6-Cの生徒がすでに集まっていました。


「では、これより4-D対6-Cの交流戦を始める。4-D 代表、アリア・ドルミエス・アルトレア!」

「はい」


 ティム先生の呼びかけにアリア君が出てきます。


「続いて、6-D 代表。グレン・ダフィールド!」

「はい!」


 今度は6-D の代表生徒が出てきます。


「グレン・ダフィールドって誰だっけ」

「確か、校内成績で17位とかじゃなかったっけ」

「あれ、前に8位とかとってなかった?」

「は、8位!?」


 周囲のうわさ話に私は思わず声をあげます。三ケタ台にすら乗るか怪しい私に対して、50位以内に入ればエリートといわれるこの学園。その中でも一桁台は格が違います。


「アリアくん大丈夫かな……」

「……」


 ティム先生がコートの中間で声を張り上げます。


「ルールを確認する。お互いは直径1mのサークルを出てはいけないものとし、先に攻撃魔法を相手にあてたほうが勝ちだ。学園の担当教師が障壁魔術を展開しているからけがをすることはないが、障壁に相手の魔術が触れた時点で試合終了となる。使用魔術に制限はないが、障壁を破る可能性のある大出力の魔法や致死性の魔術は使用禁止だ。両者、分かったか」

「はい」

「わかりました」

「では、両者、対戦相手に挨拶!」

「よろしくおねがします」

「よろしく。うわさは聞いてるよ、アリアくん。悪いけど手は抜かないからね」

「……こちらこそ」

「では、両者用意!」


 ティム先生の合図に空気が張り詰めます。


「始め!!」

「イシュナルク!」


 試合開始の瞬間に声を張り上げるグレン先輩。同時にあたりから、どこからともなく雷の精霊が姿を現します。


「悪いな、一年生!」


 先輩はそういうといきなり塔のような魔術構造物を作り上げます。そして、魔力を流した瞬間、あたりにバチバチっと電流が流れ始めました。


「えっ、フリーダさん。あれって……」

「精霊だね」

「魔術の試合にそんなのありなの!?」

「この試合はあくまで交流戦だからね。基本何でも許されてるんだよ。それにあれは精霊の力を借りてるけどあくまで魔術の補助だからね。おそらく電子を集めてきてもらったんじゃないかな」


 放電現象によって本来絶縁体であるはずの空気中に流れた電流は、アリアくんにむかってその手を伸ばします。そして、その先は確実にアリアくんを捉え、先手を取ったかのように見えました。


「よっしゃっ!」


 グレン先輩は喜びと同時にティム先生のほうを見ますが、先生はうんともすんとも言いません。


「えっ」

「まだ試合は続いてるぞ」

「いや、でも当たったんじゃ……」

「どうだ?」

「いえ、障壁に魔術的干渉はありません」


 ティム先生がアリア君の担当教師に確認を取りますが、その先生も首を振ります。


「っ……」


 何度も何度もグレン先輩は雷を飛ばし、周囲からは確実に当たっているように見えるのですが、それでも先生たちは試合終了の合図を出しません。


「きっと、アリアくんが障壁の上から自分の障壁を張ってるんだね」


「そういうことか……ならっ!」


 これがだめならと、そう言わんばかりにグレン先輩は懐に手を伸ばすと何枚かの紙をばらまきました。


「発火!」


 すると、その紙が火種となって勢いよく炎が上がります。


「え!?紙!?あんなのもいいの!?」

「まあ、何でもありだからね。危険物でないなら所持品の持ち込み・使用も許されてるんだ」

「何それ〜……」


 アリアくんは正々堂々勝負してるのに、なんだかずるくさいです。


「勝負にずるいもなにもないからね」

「ぶ〜」


 フリーダさんは私の心中を見透かしたように笑います。


 グレン先輩は燃え上がる炎を一層強めると魔術をさらに構築し、まるで生きているかのようにその炎を動かします。


「驚いたな、あれ、プラズマ操作だよ」

「なんだっけ、一番難しい魔術だよね」

「ああ、この学園では6年生から習うんだけど、使えるように半年はかかるって言われてる。流石に校内8位は伊達じゃないね」


 フリーダさんは冷静に分析しますが、私はなんだか納得いきません。魔術師同士の交流戦なのに精霊とか紙の持ち込みとか、どうしてもずるみたいに感じられます。


「どうしたの?」

「いや、なんだか……」

「納得いかない?」

「だって、私たち魔術師なんだよ?」

「魔術師でも精霊の力を借りる人は多いし、グレン先輩みたいにハイブリット的なスタイルの人も多いよ。精霊と契約するのも才能の一つだしね」

「うーん……」


 私はそれでも納得いきません。魔術は才能も魔力も少ない人が、それでもすごいことをできるようにとがんばって作ったものです。紙はぎりぎり良しとして、精霊なんて、そんな、前提がそもそもハードルが高いものを魔術と認めていいのでしょうか?


「反則だなんて言うなよ!」


 しかし、試合は私の思いとは無関係に勝手に進んでいきます。まるで蛇のような炎のプラズマをグレン先輩はアリア君めがけて3匹も飛ばしていきます。


 しかし、着弾しようとした瞬間、その炎はまるで見えない球体の壁に阻まれたみたいにアリア君を避けていきました。


「なっ!?」

「だめですよ、先輩」


 ここで初めてアリアくんは声をかけます。


「流体操作はその性質上プラズマを早くは動かせません。やるならこうするか──」


 すると、おそらくプラズマの操作権がアリア君のほうに奪われたのでしょう。魔術を瞬時に構築すると、アリア君は炎を操り──


「キィーッ!」

「せ、精霊憑依!?」


 ざわざわとあたりがどよめきます。火の精霊イフリートのような形状に変化した炎がひとりでに動き始め、飛んでいるかのように空中を浮遊しています。見ると、いつの間にかアリア君の横に二つの大きな魔術構造物が立っていました。おそらく障壁魔術とプラズマ操作魔術でしょう。


「あれは?」

「精霊憑依だよ」

「精霊憑依?」

「ああ。精霊術ってのは本来精霊と契約しなきゃいけないだろう? けど、精霊憑依は精霊の依り代を作ることで契約していなくてもその場にいる精霊を顕現できるんだ」

「そんなことできるの?」

「ああ、契約してないから勝手に動くし、言うことは聞かせられないけどね」


「プラズマで依り代作るとか、あの四年生レベル高くない?」

「え、プラズマ操作もうやってんの?」


 そんな声があたりから聞こえてきます。


「ふふーん」

「なんでレティが自慢げにしてるの」

「だって、なんか鼻が高いじゃん」

「……そうだね」

「?」


 フリーダさんは少し微妙な顔をしました。

 

「精霊憑依をさせることで気体でもある程度早く動かせます。思い通りには動きませんが、すくなくとも炎をそのまま当てるよりかはいいかと」


 グレン先輩は目に見えて焦っています。下級生にアドバイスされて少し恥ずかしいのもあるでしょう。


「電磁場操作はいいと思いますよ。精霊の力を借りてあたる場所を調節するのも、相手に気づかれないようにすれば魔術発動後に防ぐことは不可能ですし」

「っ……」


「ねえ、どうしてグレン先輩は何もしないの?」


 先ほどからグレン先輩は立ち尽くしたまま次の魔術を発動しようとはしません。もしかして、そういうルールなんでしょうか。


「いや、あれはしてるよ」

「え?」

「たぶんアリアくんからプラズマの操作権を奪おうとしてるんじゃないかな。精霊が宿った今、奪い返せたら大きなアドバンテージになるし。ただ正直二人のやり取りは高度すぎて、何やってるかは私じゃよくわかんないよ」

「え、じゃあアリアくんはその相手をしながらずっと説明してるの?」

「……そういうことになるね」


「くそっ!」


 グレン先輩は一向にアリア君から操作権を奪えずにいらだちをあらわにします。


「そうですね……ですが、プラズマ操作で最も有効的なのは──」


 そういうと三つあったプラズマを一つに収束させるアリアくん。形が崩れたことにより炎の精霊の憑依は解除されました。


「──こういうのとか、どうでしょうか」


 すさまじい勢いで構築される魔術。私でも明らかに複雑な魔術が織りなされていることがわかります。


 次の瞬間、つい耳を覆いたくなるほどの高周波の音波が鳴り響くと同時に、アリア君の目の前にあったプラズマが一気に圧縮、温度が高まったことにより一層光を放ち、さらに次の瞬間にはビーム砲のようにプラズマが発射されます。衝撃で砂埃が沸き立ちました。


「うわっ!」

「きゃっ」

「げほっげほっ」


 何人かの生徒がせき込みます。


「試合終了!」


 突然、ティム先生が試合終了の合図を出します。


「勝者、アリア・ドルミエス!」


「えっ、えっ、どういうこと?」

「……」


 他のクラスメイトも何が起こったのか把握しかねているようで困惑の声をあげます。


「両者、対戦相手に挨拶!」

「ありがとうございました」

「あ、ありがとう」


 惚けているグレン先輩。一体、何があったんでしょうか。


「……ねえ、あれってフラム・ランツじゃない?」

「あ、え、あれが!?」

「四年生でふつう扱えないだろ」

「いやでも、電磁場を展開してたしプラズマを拘束発射するって言ったらあれしかなくね?」

「ばかいえ、四大魔術の筆頭だぞ。六年生ですら扱えるのは会長ぐらいだろ」

「どうせ電磁場空間を展開しておいて、使ったのはプロトの圧縮式だろ。見せかけに決まってる」

「えー、そうかなー」

「そのほうが射程調整楽だし」

「それって有効射程だろー? 限界射程はむしろ予測しづらいぜー」

「誰か電磁場解析してた人いないの?」

「あんな一瞬の電磁場解析できるわけないだろー!」


 六年生はみな口々に言います。


「交流戦は以上だ。各々即時解散! 教室に速やかに戻るように!」


 ティム先生はいまだ冷めやらぬ集団に向かって号令をかけると後片付けを始めます。その声にばらばらと皆自分の教室へ帰っていきました。


「フラム・ランツ……」


 つぶやくようにフリーダさんは言います。


「確か魔術四家の代表的な魔術の一つだよね、プラズマ操作の」

「……四大魔術の一つ、プラズマ操作界の革命児・二代目アーベライン当主ジークハルト・アーベラインが作り出した回転電磁場型レールガン機構採用の古典魔術至高の傑作のひとつ。稲びた雷光、鉄穿つ雷槍、速攻必殺の対人魔術……ははっ」

「あれっ、フリーダさんどこ行くの?」

「悪いね、ちょっとお花摘み」


 フリーダさんは散り散りに帰っていく人たちの中、教室とはまた違ったほうへと去っていきました。


「どうしたんだろう……? あっ、アリアくん!」


 仕方なく見回すと、まだ帰っていなかったアリア君の姿がありました。先生になにかお説教されています。


「アリアなぁ、上級生の魔術を全部完璧に防いでちゃ交流戦にならないだろ?」

「魔術は見れますから問題ないのでは?」

「そうは言うがなぁ、あれだと簡単に防げるように見えるだろ」

「逆にどんな魔術にも対抗策や弱点はあると知れてよいのでは?」

「確かにそうだが……」


 難しい顔をしているティム先生。私は、そのまま踵を返すアリア君に声をかけました。


「すごかったね、アリアくん!」

「ん?ああ、」

「炎のプラズマをこう、ぐわーって形を変えるし電流は防いじゃうし!」

「まあ、そうだな」

(──あれ?)


 なんだかフリーダさん同様、アリア君もあまり嬉しそうじゃありません。


「ねえ、あれ、フラム・ランツだったの?」

「まあ、そうだな。出力は落としてるから本来の超高温のプラズマを発射する、という意味では少し別物でもあるんだが、原理は同じだ」

「三時限目に見てたやつだよね。もしかして、あれで全部覚えちゃったの!?」

「いや、流石に少し前から読んでたやつだよ。一度見たという意味じゃそうかもしれないが……」

「えーっ、すごいねー!」


 私は思ったことを口にしますが、アリア君は終始微妙そうな顔をしていました。


「……」


 その二人を不満そうに見つめる影が一人。




 

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