揃える

 夏祭りの日は朝から快晴だった。日の出前のグラデーションがかった空に、ぽつんと光る明星が見える。私は岬の先端にぼんやり佇みながら、どんどん遠ざかっていく夜をただ眺めていた。ざ、ざ、耳に入る潮騒にやがて足音が混ざりはじめるまで。

 振り返らなくても判る。テンちゃんだ。花を手向けにきた。私に、私の命日に。

 だけど今年は、足音がふたつだった。

「すごい、本当に良い眺め」

 テンちゃんは、守屋さんと一緒だった。

「ここは西向きだから、夕焼けのほうがもっと綺麗だ」

 背後に広がる朝焼けに感嘆する守屋さんへテンちゃんがぽつりと話し出す。その手にはいつか言っていた通り綺麗に切り揃えられたひまわりの花が一輪、携えられていて。テンちゃんは毎年、ここに来る。お墓でも仏壇でもなく、ここに。

「柵が壊れてんだ。昔っから」

「危険って解ってるなら、直さないの?」

「大人が立ち入るぶんには問題なかったんだ。眺めがいいだけの狭くて何もない場所だからな。来るのにも山道のぼらせるから、観光客向けじゃない」

 私の目の前に置かれる黄色い花は白いリボンが結ばれていてとても可愛い。

「……本当に、ガキん頃だけの、遊び場だったんだよ」

 それきり黙りこくるテンちゃんの隣に、そっと守屋さんが並ぶ。

「黙祷、しないの?」

「別にいい」くるりとテンちゃんは背を向けた。いつもそうだ。テンちゃんは毎年、花だけを置きに来る。

「墓参りでもねぇし」

 守屋さんがふわりと私を見た。たぶん、私の向こうの水平線を。

「じゃあなんで、」

 びゅう。一際強い潮風が私たちを貫いた。私のひまわりがころころ転がって、テンちゃんの足元まで戻る。

「なんで、ここに通ってるの?」

 ひまわりを拾って顔をあげたテンちゃんは、やっぱりあの暗い目をしていた。

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