しゅわしゅわ

 物心ついたときからテンちゃんと一緒だった。遊ぶのも、学校へ行くのも、何もかも。約束なんていつもない。ないけど、私たちには、私には『当然』だったしテンちゃんもきっと、そうだった。

 このままずっと隣にいて、高校だって同じところへ行って、そして。そしていつか、私はテンちゃんのお嫁さんになるんだろうな。そんなふうに心のどこかで思ってた。

 テンちゃんが好きだった? うん、好きだった。でも恋してたかどうかはわからない。

 私の夢だとか、恋だとか、希望だとか。これはそんな話じゃなくて。

 ただ、私の人生は、そう、なるんだと。それが当たり前で、私はそれが、別にイヤではなかった。


 ――一生、誰かの何々って呼ばれるんだ、って思ったら憂鬱になっちゃって。

 ――こんな島出てェ。


 ……私はなんにも、イヤじゃなかった。

 しゅわしゅわと思い出が気泡みたいにふくれては溶けていく。

 ねえテンちゃん。私、私は、もし、あのままあなたの隣で過ごせていたら、きっと私は、

 私は。

 あなたに恋を、していた。

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