メッセージ
私は気がつくとテンちゃんのそばにいる。ずっとこうして意識がはっきりしているわけじゃなく、そう、たとえるなら少しだけ落ちるうたたねのような、そんな感覚。
私、テンちゃんに憑いているのかも。そう考えた日もあった。だって『島の外』のはずのテンちゃんの高校生活を覗けたのだもの。でもそれは本当に、「覗ける」くらいの頻度で、こんなふうに一緒にいられるものじゃ、なかった。
私はまた家へ帰る。どうして家で目覚めないのだろう。不思議だけど、わからない。だけど家にいたところで、私は何も触れられないし誰にも声を届けられないのだ。
相変わらず線香の煙が充満する仏間に、丸い背中が見える。私にはこの散らばった線香の箱を片付けることも出来ない。空気が悪いから、と窓を開け放つことも。心霊番組で見る幽霊みたいに、何かメッセージでも残せればよかったのに。
荒れた台所にはテンちゃんのお父さんが持ってきてくれただろうお弁当箱があった。ちゃんと食べてはいるみたいで私はほっと胸を撫で下ろす。
「……建屋の倅が悪いんだ、あれが悪いんだ」
呪詛のような唸り声が聞こえる。
「お母さん、線香はそんなに要らないよ」
「あれが殺したんだ」
「お母さん、テンちゃんは悪くないよ」
「ぜんぶぜんぶあいつが悪い」
「悪いのは私だよ」
水平線の向こうに沈む夕日が綺麗で、足元をよく見てなかったの。私がひとりで勝手に足を滑らせたの。
だから、テンちゃんはなんにも悪くないんだよ。
すっかり黄ばんだ障子すら破れない私。もしもメッセージを残すことができたら、私はいったい何を伝えようとしただろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます