第16話 蛇穴ダンジョンボス(2)


『待って、フォロシー。これって間違えじゃない?ボスならさっき倒し――――――――』


キィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ


 僕の言葉は突然の騒音に遮られる。僕が反射的に音の発生源を見ると、ゴブリンキングが座っていたあの豪華な椅子はなく、代わりに台座と…その上に浮く掌に乗るぐらいの赤い結晶が出現していた。

 どうやら、音の発生源は赤い結晶のようで結晶は細かく震えていた。その振動は現在進行でさらに細かく速くなっていき、それに比例し音も高く、大きなものになっていく。


「ちょぉっと待って貰えないかな?嫌な予感しかしないんだけど?ねぇ?」


 結晶が限界を迎えたのか「ピシッ」と音を立て小さなヒビが一つはいる。そのヒビはみるみるうちに大きくなり、枝分かれし、結晶を埋めていく。

 結晶はヒビだらけになり遂に、直視できないほどの光を放ち砕け散った。

 僕がその光に耐え切れず覆っていた目を開けると、そこには一人の騎士がいた。

 その騎士は黒い豪奢な甲冑で全身を覆い、その手には2mほどあるツヴァイヘンダーが握られている。

 驚くべきことにこの黒騎士は、ツヴァイヘンダーを片手で軽々と持ち、こちらに向かってくる。

 黒騎士は僕にある程度近づくと歩みを止め、獲物を両手に構えなおす。その様子を見て、僕は自然と武器を構えていた。

 僕と黒騎士が睨みあう。音が消え、空気が重くなる。どちらも相手の揺らぎを待っている。

 瞬間、僕の視界から黒騎士が消えた。否、正確には僕が無意識に瞬きをした時を狙って一気に距離を詰めてきたのだ。


(速いっ…けど)


 近づいてきた黒騎士は、踏み込んだ勢いで横に薙ぎ払う。


(目で追えないほどじゃない!)


 僕は半歩ほど後退し、ぎりぎりで避ける。そして、横払いの大きな隙を狙おうとするが、黒騎士は薙ぎ払ったまま体を回転させもう一度剣を払ってくる。そのため僕は前に出ようと傾けた重心を無理矢理後ろに戻す羽目になった。

 今度は黒騎士が僕の隙を狙って、ツヴァイヘンダーを上から振り下ろしてくる。しかし、その攻撃は決まれば確かに強力だが、重量ゆえ普通に薙ぎ払うより時間が掛かってしまう。

 僕は何とか間に合わせ、振り下ろされる剣を横に移動し避ける。が、黒騎士の剣はピタリと止まり、横に薙ぎ払われる。


(振り下ろしてる両手剣を途中で止めて、薙ぎ払うってどんな膂力だよっ!!)


 腹を盾で守り、致命傷を避けるが衝撃は体を駆け抜け体が軽々と飛んでいく。僕は為す術なく壁に叩きつけられる。

 立ち上がるとすぐさま凶刃が飛んで来るため休む間もなく避け始めなければいけない。

 

(結構な距離を結構な速さで飛んだと思うんだけど、追撃が速いなぁっ!)


 黒騎士は見事にツヴァイヘンダーを使いこなし、流れるように攻撃をつないでくるため攻め込む隙が無い。

 どうやら僕が攻め込むには、一度あの剣を止める必要があるようだ。

 流れるように攻撃すると言っても、さすがに速度が遅くなってしまう攻撃がある。そのタイミングを狙い、僕は相手の攻撃範囲に飛び込み相手の剣に自分の盾を合わせて弾く。

 黒騎士の剣の流れが止まり、首ががら空きになる。その首めがけて剣を払うが、黒騎士が剣を弾かれた勢いを使い後ろへと下がったことによって空を斬る。けれど、黒騎士と僕の立場は一変して今度は僕が黒騎士に烈火の如く攻め立てる。

 黒騎士の獲物であるツヴァイヘンダーは小回りの利く武器ではないため僕の片手剣を防ぐことはできず、黒騎士は何とか肩や腕で致命傷を避ける形となる。

 僕は剣での連撃の中に足払いを入れ、黒騎士の体制を崩すことに成功する。さらに一歩を踏みこみ、今度こそ黒騎士の首を飛ばすため剣を振るうが黒騎士がツヴァイヘンダーを捨て、より速く動いたことで狙いが少しずれ黒騎士からバシネットを弾き飛ばす結果となった。

 バシネットが外れたことによって見えた黒騎士の顔を見て、僕は思わず攻撃の手を止めてしまった。

 黒騎士の顔は焼け爛れ、顔のパーツがなくなりのっぺらぼうのようになっていた。


「ガアアアアアアアアアアアアッッッッッッッッッッ」


 自分の顔を見られたのがよっぽど嫌だったのか悲鳴のような咆哮を黒騎士が上げる。黒騎士は僕を蹴り飛ばし距離を取り、腰に帯びていた片手剣を抜く。

 すると、先ほどまでとは全く違う速度で切り込んできた。

 

「はっやぁっ」


 顔を見られた怒りからか、獲物をツヴァイヘンダーより軽い片手剣にしたからか先ほどとはくらべもののにならない攻撃速度で僕を殺すべく剣を振るってくる。

 元々、ツヴァイヘンダーの時点で攻撃に転じることが難しかった僕は防御に専念するしかなく、盾と剣の両方を使って漸く攻撃を凌いでいた。

 片手剣になっても黒騎士の流れる剣技は変わらず、破壊力はツヴァイヘンダーより落ちるものの隙はさらに少なっていた。

 攻めることができない僕はチャンスを待つしかなく、黒騎士の攻撃に直撃しないよう耐えて、耐えて、耐えて、耐えて、耐えて―――――――――――

 

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