言葉を誘惑する

言葉を誘惑する



     言葉を綴る屈辱を噛みしめながら

     薄い布切れを窓にぶら下げる

     夜が寝台に忍びこむからじゃないのよ

     子を育てる人が言う

     夜に僕の魂が溶けいらないように

     そう僕は嘘をつく


     夜の花束の色はどんな色

     大鍋の湯気の向こうで

     かすかな幼い声が訊く


     山が落とす陰影と爺さまが時計と一緒に答える


     僕等はひとつの椅子で向かい合い

     二人の間を通り抜ける者へ挨拶する

     硝煙臭い風は吹かなかったけれど

     僕等は戦場を唄にした


        なあに 僕等はもっと自堕落に暮らしてみたかったのだ


     東の山脈が脱ぎ捨てた雲が

     散り散りになったら

     僕等は眸を閉じるだろう

     西の海で沸騰する潮流を

     僕等は夢の硝子壜に詰めこんで

     君は希望の栓をねじこむ


     僕等はこうやってひとつの食卓に向かい合い

     表を通りかかる言葉達を誘惑する



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