第三話 スター・レガシー〈3〉
星遺物の終点を見学できるという数少ない貴重な体験に胸を踊らされながら、カナリアは集合場所である正門付近に余裕を持って到着する。
現在時刻は九時五十分、日差しがだんだん強くなり、気温も汗ばむほどにまで上昇する。
アインクロメアは折りたたむことが可能で、A4ファイルほどの大きさにまで縮小できるから持ち運びに便利だ。いつどんな時でも使えるようにリュックの中にしまってある。
(やっぱりさっきの先生の話を聞いてた人はほとんど来るよね……)
集合の十分前ということもありまだ人数は少ないが、一人、また一人と着実に集まってきている。そんなことは当たり前のことで、星遺物に少しでも興味がある人なら行かないなんて選択肢が浮かぶはずがないほどの貴重な体験だ。
カナリアはすでに集まっている人を一瞥し、その中でも明らかに身に着けているものが豪華な人に目が留まる。
隠しきれていない金持ちオーラと、きちんとした身なり、それに加えて着目するのは『フィディカ』だ。どこで使うのか疑問に思うほど華美な装飾が施されている。
(すげぇ、ネットでニュースになっていた最新型限定モデルのフィディカだ。他にも見たことないフィディカを持ってる人もいるし……次元が違うんだよな。)
『フィディカ』
星遺物が使用している技術や星遺物そのものを内蔵して作られた機械『星遺物基軸機器』の中で最も一般的に流通し、現代におけるほぼ大半の人が身に着けている機械。 左右どちらかの耳に取り付けて使用し、主に情報通信やヘルスケア管理、コンピューターによるサポートなどの操作が可能となる。俗に言うスマートフォンの上位互換である。
星遺物を基に作られたとはいえ星遺物であることに変わりはなく、限定モデルや最新型のフィディカはプレミア価格にまで高騰するものも少なくはない。
しかし、やはり星遺物のことを詳しく知りたい人たちだ。お高いフィディカを身につけている人が数人いる。
(あれ、スペースモデルだよな……白ベースに青の蛍光ラインが入ったコンパクトでシンプルなフィディカ……羨ましいなぁ。)
金持ちのボンボンが持つフィディカとは打って変わって、カナリアのそれは祖父の古い遺物だ。使える機能も多くないし、定期的にどこかのマナを捕まえては勝手に連携して通信内容を筒抜けさせる始末だ。
本来であればフィディカの連絡は暗号化されたマナで発信され、連絡をとる対象にのみ暗号が溶ける仕組みなのだが、祖父の作ったフィディカはそのアンテナが正常に機能していないのか、勝手に暗号を解いてしまうことがある。
そんな古臭いフィディカを使い続けるのも気が乗らないので買い換えたいという気持ちも山々だが、祖父の努力が詰まった結晶だと考えるとどうにも捨てられない。
「…………みんな早いですねぇ!」
一足出遅れた先生は、無駄に多い荷物を肩掛けカバンいっぱいに詰め込みながらドタドタと校舎から飛び出してくる。
後ろに土埃を立たせ、乾いた砂が宙に舞う。
先生は到着するなり上がった息をゆっくりと落ち着かせること約1分———「………えーと、ただ今見学先の管理者と連絡が取れましたので、ぼちぼち出発いたしましょうか。」という合図とともに、学校を後にした。
発展した都市区域を抜け、煌々と照りつける太陽を背にして歩くこと約二十分。カナリアを含めた生徒たちは、ミクロルフロウが辺り一面を埋め尽くす見晴らしの良い草原へと足を運ぶ。
舗装された一本道は都市部を抜けると次第に細くなり、政府の運営する関門を抜けると砂利道へと変わって行った。
ミクロルフロウの緩やかな丘から発生する
(ここの土地は全て国が保有してるのか……規模が桁違いだな。)
ミクロルフロウは星遺物がこの地に落ちた際の衝撃で生まれたクレーターによる自然生成物である。よってミクロルフロウが広大に広がる大地は星遺物の着地点である可能性が高い。
それにしても開発を進めてしまえば都市が丸々一つ作れるんじゃないかと思うほどに広大な土地だ。星遺物自体まだ謎が多い物質だからこそ軍が大袈裟に規制するのはよくわかるが、それを加味してもこの土地全域を保有するのは些か合理的ではないとも感じられる。
「目的地に着くまでもう少し距離がありますので、ここらで基礎知識でも話しておきましょうか。」
あくまで授業の一環であることを思い出した先生は、足を止めることなく星遺物についてを語り始める。
「モノフ地区ではよく見られるミクロルフロウですが、この丘がよく見られるのは星遺物と関係があるからなのです。星遺物は
星遺物のよく降る場所ではミクロルフロウがしばしば見られ、そういう場所では思わぬ星遺物の発見が後を絶たない。
(そう考えると俺の家の周りもミクロルフロウ多いな……おじいがあそこに拠点を置いたのもそれが理由なのかもしれないな。)
ただ、ミクロルフロウがあるから星遺物が見つかる——そんな単純な仕組みじゃないのは俺を含めたみんなが知っている事実だ。運が良ければ見つかるというわけで、必ずしもミクロルフロウのある場所に星遺物ありというわけではない。
「ミクロルフロウは星遺物ありきの相関性生成物です。ミクロルフロウが見つかるということは、この地方は遥か昔から星遺物と共存していたと推測ができるわけです。」
目的地までの道のりの中で知識の伝播を行う最中、カナリアの後ろを歩く一人の学生が足を止めることなく「先生。」と、謙虚に曲がった挙手と共に質問する。
「単純な疑問ですが……ミクロルフロウは星遺物のクレーターによる固有地形だとおっしゃっていましたが、ここら一体のミクロルフロウは角度も比較的緩やかで草本もある程度育っていることからだいぶ前に生成されたものだと思うんですけど、星遺物は今でも降り注いでいるじゃないですか。自然要因として作られるものであるならばもっと形成時間のズレが見られてもおかしくないと思うんですけど……どう思いますか?」
先生は質問を受けて「素晴らしい着眼点ですね。」と賞賛し、少し間を開けてから話し始める。
「仮説にはなるんですが、現在よりも昔の方が星遺物の落下量は多いと考えられています。現在のミクロルフロウの数や状態から年代を逆算すれば、いつ頃に星遺物が落ちてきたのかをある程度予想することができます。ただ、これはいつまで経っても仮説から真実へと変わることがないのです。年代や着地点は炙り出せても、肝心な星遺物の残骸が見当たらないのです。」
星遺物は地球外から来た未知の物体であることに変わりは無いが、たとえ落下した星遺物を誰かがこっそり手に入れたとしても破片や物質成分の少しは見つかるはずだ。
「たとえ星遺物であってもこの
「…………つまり、どういうことですか?」
「星遺物が落下した衝撃で作られたクレーターという説は、現代の科学を持ってしても証明できないってことだね。ただ逆に、この説以外の仮説は全て現代の科学で立証できてしまい『生成不可能である』ことが知られているんだ。つまり、ミクロルフロウが星遺物のクレーターであるという仮説は消去法で残った『答えを導くことのできない答え』なんだよ。」
先生の説明に納得しながら、俺を含む生徒たちは改めてミクロルフロウを眺める。
緩やかな凹凸をした広大な大地は一帯が緑で覆われており、その幻想的な世界観に思わず息を吞む。
「さて、そろそろ見えてくるはずですよ。」
延々と続くゆったりとしたミクロルフロウの丘を超えたその先には、厳重な警備と格子鉄線によって囲まれた立入禁止区域が広がっていた。
貨物トラックが数十台並び、併設された倉庫から行ったり来たりを繰り返している。
「ここが今回お邪魔する『第11区画星遺物採取場』です。ここでは主に『カクタス』と呼ばれる星遺物が採取されます。」
初めて見る広大な星遺物採取場に、生徒たちからは「すげぇ!」「めっちゃ広い!」と歓喜の声が飛び交う。
採掘場から流れる風には、ほのかに香る土のにおいと機械特有の油や排気ガスのにおいが混在しており、鼻の奥を通じてこびりつく。
(すげぇ……今まで生産加工後の星遺物しか見た事なかったけど、ここは降ってきた星遺物そのままを扱ってるんだよな……)
星遺物を調べる上で採掘場のことはある程度知識として持ってはいるが、基本的に関係者しか立ち入りを許さない施設だ。知らないことのほうが多い。
生徒たちの興奮は冷める事なく、そわそわしだす人や勝手に行動する人があちらこちらで現れる中、先生は大きな咳払いをしてみんなの注意を一斉に引く。
「今回このような課外活動を引き受けてもらえたことには前例がありません。ですから君たちは『第一号』なのですよ。つまり君たちの行動や言動が全て今後の活動に響いてくるとお考えください。採掘場の方々から「今後ともぜひ」と言われるのか、「これ以降はお引き取り願いたい」と言われるのか、それを決めるのはあなた方の行いですから、くれぐれも注意してくださいね。」
重みある言葉がプレッシャーへと変わり、カナリアたちの浮かれていた気持ちに釘を刺す。
「あなたたちがもし勝手な行動をした場合、国から学校ごと目を付けられることはもちろんのこと、私の首は当たり前のように飛びますからね。自分だけで背負える責任ではないことを十分理解するように。」
冷やかしとは思えないドスの効いた声で警告をする。先生の声がマジだ。多分相当な苦労と努力をして交渉したのが言葉からひしひしと伝わってくる。
そりゃそこまでしないと見学することなんてできない施設だ。念には念を入れるのもよくわかる。
しかし、一体どんな交渉をしたらこんな施設に来られるのか…………それは触れないでおこう。
「さて、注意事項は以上ですので、そろそろ行きましょうか。」
一通り説明を終えた先生が区切りをつけて方向転換し、採掘場の方へ足を向けて歩き始めた。
来客用に作られた道などなく、気持ち程度に舗装された細い砂利道を通り、カナリア達は採掘場の本部まで歩き進む。
時折鳴り響くけたたましい採掘音と足から伝わる微かな振動が体を伝って刻み込まれ、その度に胸の内から込み上がってくる高揚感が募る。
足元に気を取られながらも歩いている最中、突如としてカナリアがつけていたヘッドフォン型通信機器『フィディカ』が連動し、謎の音をキャッチした。
連携する時に鳴る特有の「ポゥン」と言う音と共に、やや野太めの声が途切れながらも聞こえてくる。
「——第11区画が———たぞ。———から俺が——ビルを使って——向かう。」
ノイズがひどく、何を喋っているのか正確には聞き取れなかったが、人の声であることに間違いない。
カナリアは周囲を見渡すが、誰かが通信している姿は見えない。それどころか、今ここにいるのはオムニバスの生徒と教師、採掘場の職員だけだ。
(……なんだ?どこから聞こえてるんだ?)
もともと俺のファディカは型が古いこともあってよそのマナから通信音を勝手に持ってくる不具合が発生するのだが、今回のはいつもの通信音とは少し違う…………軍事作戦のような音を拾ってくる。
「お前ら——レーダーから———索敵援護を頼む!———よっぽどのことがない限り——ないけどな。頼んだ!」
話の内容的にも軍事行動のような会話だ。採掘場の会話というよりも、索敵だとか、レーダーだとか、そんな話が聞こえてくる。
普段はすぐ接続が途絶えるフィディカも、今回拾った通信音には過剰に音を拾い続け、通信をかいつまんで耳に送る。
通信にも強弱があるわけで、それこそ発信源と直線距離にある方が受信しやすいのは音波と似ている。カナリアが採掘場から東に顔を向けた時に強く反応している。
(向こうから……か?いや、そもそもここら一面はミクロルフロウの丘でいっぱいなはずだよな。何か人工物でもあればこの音声の正体がわかるかもしれないけど———)
採掘場へと足を運ぶ生徒の列を若干乱しながらも正体不明の音声を探っていると、青く澄んだ空の片隅にポツリと一点、黒い物体が浮かんでいるのが見えた。
ずいぶんと空の上を飛んでいるようで、肉眼では全容がどんなものか特定ができない。
カナリアは目を凝らしながらその物体を見続ける。
一般的な旅客機には見えない…………ジェット機?のような見た目をした大型飛行物体だ。ところどころ透明に見えるのは、大気の揺らぎか、はたまた飛行物体の特殊技術か……。
とはいえ、どうにもあれが旅客機とは思えない。
(もしかして、あの飛行物体がこの通信を?となると話の内容は————)
他の生徒に揉まれながらも、カナリアはフィディカが受信した信号の内容を思い出す。
第11区画、これが指す目的地はおそらくここ『第11区画星遺物採取場』。通信内容はここに向かうと言っている。
次に聞こえたシグナルはレーダーを使用した索敵援護の要請。つまり、おそらく本体はあの青天を泳ぐ飛行物体であり、そこから小型飛行物体を用いた接触を試みている……?本体そのものがここに着陸することは無線内容の「頼んだ」や、「〜を使って向かう」という文脈からは想定し難い。
(となると、この通信は本体である大型飛行物体から小型飛行物体へとやり取りをする無線内容で、その小型飛行物体が目指す目的地はここ「第11区画星遺物採取場」ということ……か?)
もしかしたら星遺物を海外へと輸出するための航空便——なのかもしれないが、空中で荷物の受け取りなどしないだろう。
考えられる事象は平和的なものばかりでは決して無く、むしろ他国からの奇襲や戦争の類の方がよっぽど通信内容的に当てはまる。
情報の整理を行うにつれて、今起こっている一大イベントに首を突っ込まずにはいられなくなる。
突如として入ってきた軍事的通信、そして謎の大型飛行物体。こんな場面でのうのうと工場見学をして見過ごすような真似はしない。
カナリアは「うぅ……ごめん、ちょっと吐き気が、、、熱中症かも。」と、体調が悪そうなフリをして生徒たちに少し休む旨を伝え、列を離れた。
手で覆う口元は笑みが溢れるが、それをバレないよう貫き通して列から抜け出す。
背を丸めて口元を手で隠し、通り過ぎる生徒に平謝りをしながらゆっくりと列から遠のいていく。
ある程度離れたところで偽演技をやめ、大きな荷物を背中から下ろし、中にしまっていたアインクロメアを取り出して起動させる。
青々した芝生に放り出されたアインクロメアは空気中のわずかなマナを検知して瞬間的にエネルギーを作り出し、草本のほんの少し上をホバリングする。
いくら他の生徒の目に届かない場所まで逃げたといってもここら一面はミクロルフロウの丘だ。なにもない空間を全速力で駆け抜けるものならあの飛行物体みたく悪目立ちしてしまう。
カナリアはバランスを崩さないためにジャンプでアインクロメアに乗り、前屈みに姿勢を低くしながら丘の上を走行した。
第11区画星遺物採掘場からミクロルフロウの丘を一山、二山ほど超えたあたりでアインクロメアから降り、辺りの様子を見渡す。
先ほどまで聞こえていた無線連絡はすっかり途絶えているが、通信に使われたマナが大気中に残っており、それをいまだにフィディカが受信しては「ザッ——ザーッ」とノイズを発する。
「フィディカが通信用に使ったマナを検知してるからここら辺で間違いないんだけど……」
普段なら通信に使われたマナを検知してノイズが走るなんてことはそうそうないのだが、その点を加味したうえでやはり今回受信した通信は何かがおかしい。
先ほどまで見えていた大型飛行物体もいつの間にか姿を消し、晴天の空だけが一面に広がっている。
「くそっ……もうどっか行っちゃったのかな。今から向こうに合流するのも先生に叱られるだろうし…………本当に何もないのか?」
1人でボソボソと呟きながら草本の丘を目的もなく彷徨っていると、ちょうど丘を超えた数十メートル先に景観を削ぐかのように何かが聳えているのを見つけた。
建物……ではなく、機械?ロボットのようだ。
カナリアは姿勢を低くし周囲の警戒を行いながら、丘の上から目だけを覗かせてそのロボットに視線を向ける。
光沢のある外装に、隙間から淡く光る蒼い線。重量感のある二足型の巨大なロボットに、カナリアはそれが何なのかを瞬時に理解した。
「バスタービル……あれは——バスタービルじゃないか!?」
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