流星英傑譚 ブレイヴビート
赤坂 蓮
一章 落ちた英雄
第二話 スター・レガシー〈2〉
川の流れのように丘を通り抜ける風を真っ向から切り裂き、カナリアはアインクロメアを使って軽快に飛ぶ。
少年が向かっている学校は、モノフ地区の中でも特に人口が集中する中枢都市『ハイト』という都市に位置している。
ハイトは人口百万を超える巨大都市で、外観を壊さない統一された色と造形を守った家屋やビルがあちらこちらに立ち並び、昔ながらの伝統的な街並みを揃えると同時に、高度な技術革新により星遺物機器を多用する人々で溢れかえっている。
モノフ地区は別名『最も星が降る街』として知られており、星遺物の発見数・確認数が大陸間で群を抜いて多い地区である。
そのため星遺物関連の研究や開発は目覚ましい発展を遂げており、星遺物基軸機器の普及率も高く、他の地区では見られない機器が普段の生活から多く関わっている。
アインクロメアは星遺物基軸機器ではあるものの祖父が作り出した独自製品であり、一般市場で売ることがないためそこまで普及していない高価な代物だ。だからこそ、そんな物を学生身分であるただのガキが何食わぬ顔で乗りこなしているものだから、側から見れば富裕層のセガレだと思われても仕方ない。
でも、普段から星遺物についてとやかく言わない祖父から譲り受けられたものだから使わない手はないだろう。これは星遺物好きの俺に与えられたささやかなご褒美だ。
少年はつま先を前進方向に向けて重心を前方に倒し、速度を上げて空を泳ぐように飛んでいく。
通常のキックボードとは違い、空中に空いているため乗りこなすのが難しいのではないかと考える人もいるが、案外そんなことはない。マナが僅かな体重移動を検知して落ちないように重心移動をサポートするので、突風や衝突など余程のことがない限り落ちることはない。
ただ、乗りこなすにはまた違ったコツが必要で、アインクロメアは宇宙由来の微量粒子エネルギーであるマナを消費して走行する。
よって、一定数以上のマナ交換を行わないと十分に速度が出せなくなってしまう。簡単に言えばガソリンみたいなものだ。
マナは空気中にある無数の微粒子なので無くなって飛行が不可能になることはほとんどないが、アインクロメアを乗りこなすにはこれを効率よく交換する『流れ』を意識しなければならない。
重心を傾け、速度が落ちないように姿勢を低くするが、今日はやけにスピードが出ない。
これがいわゆる『流れに乗れていない』状態だ。
原因は明白で、風による大気の循環が乏しい点にある。
「予報にも言われてたけど、今日はいまいち風が吹かないな……このままだと学校に間に合う気がしないし、久しぶりにマナが濃い場所を探してみるか。」
風が吹かない、流れがない…………こういった現象は、逆を取ればマナが移動することなく溜まっている場所があるということだ。
マナの溜まり場を経由する事で本来のスペックを超えるオーバーパワーを得ることができる。
カナリアはフィディカから流れるプレイリストを止めて、アインクロメアと連携させる。
マナで動く星遺物及び、星遺物基軸機器は、マナを通じてお互いの情報を間接的に連携することができる。
アインクロメアと連携する事によって前方から流れる風に含まれるマナの総量を計測し、溜まり場がありそうな方向を探し出す。
「——ザッ、、ザーッ、、ポゥン」
フィディカがマナの信号を受け取り、音の違いで方角を示し出す。
もっといいフィディカだと言葉で知らせてくれたりするが、祖父から譲り受けたフィディカはほぼ初期同然の旧型なので高性能な音声機能などは持ち合わせていない。
「…………これは……もう少し左、か?案外近くにありそうだな。」
フィディカから聞こえるマナの音を頼りに、少年は溜まり場を経由して速度を上げながら学校へと向かった。
マナの溜まり場をうまく利用して飛び続けていると、次第に道幅は大きくなり、家屋が立ち並ぶようになる。交通量も多くなり、カナリアは体重を後方にかけてスピードを落とし、危害が及ばないよう注意して飛行する。
この地区は星遺物基軸機器の使用が多いことから交通規制にも独自の規制が課されている。
個人利用において、アインクロメア含む全ての星遺物基軸機器による飛行行動は原則地上から4メートル以内、速度は40キロメートル以下とされており、それ以上の上空を飛行したり、速度を出す場合は役所に飛行手続きを行い届出を出さないといけない。というものだ。
飛行行動なんてそうそう起こりうるものではないとも思われがちだが、実際のところ星遺物基軸機器で飛行を可能にした乗り物はたくさんある。
ボード型飛行機器のアインクロメアは稀な例だが、現代では飛行型乗用車や二輪型飛行機器の星遺物基軸機器が主に普及しつつある。
あとは規制の対象外というか、そもそもお目にかかることすらできない代物だが、バスタービルも星遺物によって生み出された飛行機器だ。
…………まぁあれを一概に飛行機器と呼んでいいものなのかは謎だけど。
都心に近づくにつれて人波が目で分かるように増え始め、それに伴って車道、歩道の幅が広くなる。暖色でまとめられた綺麗な街並みが見え始め、環境音が耳を刺激する。
あちらこちらで市場が立ち並び、セールを呼びかける店員の周辺を人々が囲い込む。
俺は陸上自動車の真上を飛びながら変わり映えしないいつもの光景を眺め、その平凡さにげんなりしながら学校へと向かった。
カナリアの通う私立学校『オムニバス』は、名前の通り独立した学問分野が総合的にまとめられた総合学校である。知名度もモノフ地区の中ではそれなりのものであり、大手企業との繋がりもよく安定した就職率と幅広い就職先を誇る学校である。
俺はたいして頭も良くはないし、どこに行って何をしたいなんて人生像も持ち合わせていない。
…………いや、欲を言えばバスタービルに乗ってみたいだとか、星遺物が空から降ってくる瞬間を見てみたいだとか、やりたいことを挙げるとキリがなくなってしまうが、そういった仕事は政府直属の星遺物研究対策課に配属されない限り無理に等しいものである。
ただ、星遺物に対する想いだけは人一倍あると自負しているし、今こうして学校に通う原動力にもなっている。
ただ、俺がこの学校に進学できたのは、そういった俺の熱意云々ではない。じゃあどうしてこの学校に通えるのか?そんな疑問は門をくぐるだけで嫌になるほど目につく。
校門を軽々乗り越え、邪魔にならないよう校庭の隅でアインクロメアから降りる。
そんな姿を物珍しそうに次々と向けられる視線、視線、視線。
アインクロメアに乗っているから?いや、そんなちっぽけな差異ではこの学校の注目の的にはならない。
じゃあ何がここまで俺を惹き立たせる?
答えは言うまでもなく簡単なことで———
「よぉ!英雄くん!今日もかっこいい乗り物でご登場だねぇ!」
アインクロメアを折りたたんでいる最中、カナリアの背中を叩きながら背の高いチャラ男数人が囲むようにワラワラ集まってくる。
そう。俺が注目される理由……それは、俺が『英雄=ドラハルト・フロード』の息子だからだ。
「どうだ?前に俺が提案したあの件、ドラハルトさんに伝えてくれたか?」
背の高い金髪男がカナリアの肩に手を伸ばし、距離を詰めてニコニコしながら絡んでくる。
今こうして絡んでくるやつは大抵俺の親父目当てだ。世界で唯一の建造物型星遺物『エルシルフ』の制圧、調査を行ったという実績を持つ親父の息子が、まさかこんな都内の私立学校に忽然と通っているんだから、どうにか息子のツテで紹介してもらえないか、、、なぁんて安直な考えで動く外道がほとんどだ。
「あぁ〜、ごめん、すっかり忘れてた。また話しておくから待ってて。」
俺は片手でアインクロメアを脇下に抱え、もう片方の手で平謝りをする。
もちろん親父と話すつもりなんて微塵もないし、話すツテも何もないが、今ここで唾を吐くように断りでもしたら、俺のキャンパスライフが円滑に送れなくなってしまう。
「何だよ覚えといてくれよ!楽しみにしてるんだからよっ!」
背中をバチンッと叩かれ、親しげそうに手を振りながらそいつは去っていく。
力加減の知らない
(全部聞こえてんだよ……どいつもこいつも小根が腐ってやがる。)
こんなくだりが毎日のように人を変えて行われている。少なくとも穏やかなキャンパスライフではないだろう。
俺の噂はこの学校全体に広がっている。もちろん他の有名人もわんさかいるが、星遺物に関して最も知名度の高い人物となれば、それは俺の親父しか当てはまらない。
(俺に親父のこと聞かれたって、俺が親父を知らないんだから何も出来るわけないのにな。)
いつになっても変わることのない血の繋がりと親父の功績に嫌気がさし、大きなため息をついて俺は学校の中へと足を踏み入れた。
カナリアの通う学校は授業こそあるものの参加は自由で、あらかじめ一週間の授業日程が決まっており、それに合わせて生徒が主体的に参加する形式をとっている。
そんなのサボる人はとことんサボるんじゃないか、なんて思う人もいると思う。
確かにサボる人はとことんサボって学校に籍を置いている人もいないことはないが、ここに授業しに来る人は教師ではない。この学校の卒業生だったり有名人が自ら講義を開いて授業を開催する場合もよくあるのだ。
俺は今日の朝九時から始まる、祖父の知り合いが行う授業を受けるためにきた。
その人は星遺物の発見から業者に送り届けるまでの仕事を行なっており、毎週この時間に講義を設けている。別に教授じゃないから毎週同じ時間に講義を開催しなくてもいいのだが、この人はありがたいことに毎週同じお買い物時間に講義を開いてくれる。
大きな正面玄関を抜けて階段を上がり、3階にある小さなゼミ室へと足を踏み入れた。
「今日は実際に星遺物の着地点を見に行きましょう。星遺物とは何なのか、自分の目で確かめることは大事なことです。」
授業の鐘が鳴るなり教授がとんでもないことを口にする。
思わぬサプライズ授業に生徒たちは感嘆の声をあげて盛り上がり、クラス全体が徐々に活気で満ち溢れる。
もちろん俺もその生徒の一人だ。
(うそだろ……!?関係者以外はほとんど立ち入ることができない星遺物の着地点に、、、ほんとに行けるのか!?)
星遺物が降り注ぐ場所は不規則でどこにでも落ちる可能性がある。ただ、不規則とはいえど頻繁に落ちる地点も存在する。
そのような土地を政府が買収し、採掘場として建設されたのが、通称『星遺物の着地点』と呼ばれる星遺物採掘工場だ。
みんなの活気に若干押されながらも、声を張って先生が話す。
「そんなに期待しないでくださいね!星遺物の着地点は政府の権力が強いところです。基本的に関係者以外は星遺物の着地点を拝むことすら厳しい状態ですので、少し見れただけでも幸運だと思ってください。それくらいの淡い期待でお願いしますね!」
現代において星遺物という存在は、未知のエネルギーや機械構造、さらには素材、兵器といったこの世界では得ることができないものである。そんな高価なものを政府が放っておくわけがなく、星遺物が良く降る着地点及びその周辺は政府が直々に管理している場所がほとんどである。
そんな場所を見学できるという話だ。興奮しないわけがない。
興奮冷めやらぬ生徒共々を宥めるように先生は「静かにしてください!詳細は一度しか言いませんよ!」と、一蹴し、静かになった空間に再び声を入れる。
「それでは皆さん、改めてご説明しますね。もし参加する場合は一日拘束してしまう可能性がありますが、今日は星遺物の着地点を実際に見学しに行こうと考えています。希望者は十時までに西門付近集合でお願いします。それでは解散!」
授業はいったん終わり、冷めない熱がクラス全体を保っている。それほどまでに今回の授業は革命的な出来事だ。
(星遺物の着地点……国家権力が集中している場所……もしかしたらバスタービルだって拝めるかもしれないんじゃないか?)
思わぬ繋がりに俺は溢れ出す高揚感を噛み締めながら、身支度を終えて足早に教室を出た。
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