第16話
それから数日、会社ではいつもと変わらぬ景色が流れていた。
変わったことといえば、通勤中に時折、片頭痛に見舞われることくらいだった。薬を飲めばすぐに収まるそれは、天気や時間帯に関係なく襲ってきた。
疲れてるのかな…
そう呟きながら、すっかり慣れてしまった1人での昼食を済ませる。
あれから香澄とは何度か会ったが、片頭痛のせいかあまり話が入ってこなかった。彼女もそれを心配し、会う回数も少なくなっていた。大事な話をしていたような気はするが、はっきりと思い出せない。考え込んでいるとまた、例の片頭痛が顔をのぞかせる。
仕事は順調そのものだった。営業成績も好調で、複数のエリアも任せてもらえた。仕事にハリを感じる一方で、頭の中に時折、霧のようなものを感じる。
何か大切なことを忘れているような…
そう思いながらも、いつものコンビニで夕食を買って帰宅する。
テレビの音だけが響く味気のない部屋で、いつものように冷めかけの弁当を口に運び込む。
『今日午後4時ごろ、身元不明の若い女性が車に撥ねられ死亡しました。犯人は現在も逃走中で…』
怖い世の中だ、俺も気をつけなくては。そう思いながら、缶ビールの蓋を開ける。プシュッという音を聞き届け、その余韻ごと喉で味わう。
「あれ、ビール2本買ってるな、なんでだろう」
不思議に思いながら、ソファにもたれかかり、携帯電話を確認する。
『至急確認してください!』
いかにもな文章と共に、メールにはURLが添えられていた。その手のフィッシングメールに引っかかる奴が、未だにいるのか?メールの受信時刻は15:30。見覚えのないアドレスからのメールを、俺は手際よく削除する。
翌朝、いつもの通勤路をいつものように歩く。その一角に、花や飲み物が備えられていた。見覚えのあるその場所は、昨夜テレビで流れていた事故現場だった。
そういえばよくここで待ち合わせしてたなぁ。
その相手は思い出せないまま、俺は自然に手を合わせた。ズキンといつもの片頭痛。会社に着いたら薬を飲もう。そう心に決めて再び会社へと歩き出すのだった。
踏み出す一歩は ごま太郎 @gomatrou
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます