第30話



私はそのまま見てないフリをして、他の列へ移動しようと、くるりんと向きを変えた。



すると突然、大きな声が鳴り響く。



「 お~い!! ちびちゃ~ん!! おはよー!! 」



見つかってしまった。



めちゃ大きな声で挨拶するから、周りの人が振り向いちゃってるじゃない


恥ずかしい


ちょっとは私の身にもなってよ、と言いたい。


みんなが見てるし、ここは無視できる状況じゃない


しかたなく、早歩きでひょこっと近づくと、チラッと山代くんを見ながら私も



お……おはよ…



と小さな声で返す。


隣のセイカくんは相変わらず無関心だ。

 

私の存在にさえ気づいていないようだ。


でも、一応セイカくんにも



おはよ…



と、うつむきながら囁く



けれど、あまりにも身長差がありすぎて聞こえてないのだろうか


それとも視界にすら入ってないのだろうか


もともと声も小さいほうだから、たぶん、まったく聞こえてないんだろうな


まあその方が私としても好都合だった。

 

ひとりでも、男子に絡まれるのは少ない方がいいから…



…はは…



そんなことを考えながら、ひとり、心の中でウケていた私



すると



「 おはよう 」



セイカ君が?


あの女嫌いのセイカくんが私に?


朝の挨拶をしてくれたの?




信じられない…




山代くんもその声に気づいたのか、真顔でセイカくんを見上げる。


「 今なんか言った? 」


「 べつに… 」


「 だよな…女子に挨拶するわけないもんな 」


私には、確かに、おはようって聞こえたけれど


ゆっくり見上げてゆくと、セイカくんの口もとが見える。


少しだけほほえみの形に変わる瞬間…


綺麗なピンク色の笑みを私は見てしまった。



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