第26話 あたしの幸せ[完]



「それでね、ミゲル様ったら、私が好きだと言ったら白い薔薇をたくさん送ってくださったの」

「へぇ、よかったねぇ」

「それに、外国の美味しいお茶も取り寄せてくださったの。今度ピクニックにいくお約束もしたのよ。ねぇどんなドレスがいいかしら。聞いてる? レナ?」

「聞いてる聞いてる」

「嘘、聞いてないわ」

「うん。聞いてなかった」

「もう、いいわ。それじゃあ、レナのお話を聞かせて? 殿下とはどう?」


 あたしはにこりと笑顔をフレデリカにむけた。

 ここは伯爵邸に用意された新しいレナの部屋。そのバルコニーである。そこに椅子と机を置いて、フレデリカとお茶をするのが、午前の日課だった。

 そうしてほとんどミゲルさんとの惚気を聞かされ、最後にはあたしの話になる。

 そのころになると、あたしは逃げるようにここを去るのだ。

 惚気をしたくない。だって恥ずかしいしい。ってのもあるし。あともう一つ理由がある。

 あたしはすっくと立ち上がった。


「どうかしたの?」

「その手の話は無しでいこう」

「ええー! そういっていつも何も教えてくれないじゃない。私レナと恋のお話してみたいわ」


 うふふ。という嬉しそうな顔でそんなことを言われても。本当に恋する乙女は厄介だ。じゃなくて。


「それじゃあ、フレデリカ、あたしそろそろいかないと」

「あら、お稽古の時間? 残念だわ」

「いや、うん、そうじゃなくてね」


 苦笑いしかでてこない。いや、とにかく今は伯爵邸にいる場合ではないのだ。急いで帰らないといけない。なぜなら。


「レナー! 迎えにきたよー!」


 きちゃった。

 庭からの大きな声にあたしは脱力した。

 そうなのです。あれから、こんこんと、いかにあたしのことが好きなのかについて語り尽くした。と思われたアルクスはそれからも会うたび、いや、毎日会ってるのだけど、会うたびに「かわいい」「すき」「愛してる」と連呼するのだ。

 それがもう、もう! 赤面ものの何者でもない!!!

 あたしが慣れてないからやめてっていっても聞きやしない。

 城での稽古があれば呼びにくるし。

 そしていつも楽しそうだし。


「私、絶対こうなると思ってたわ。殿下って恋をしらないって感じだったもの」

「へぇ」「おーいレナー?」

「わかったから、待ってなさい!!」


 見下ろせば、嬉しそうに笑うアルクスの姿があった。

 くそう。可愛く見えてきた。


「待たせてはかわいそうね。殿下が。いってらっしゃい」

「はぁい」


 脱力しながらあたしはフレデリカに手を振った。フレデリカも手をふりかえしてくれる。ああ。癒しだ。

 そうこうしてると、またあたしを呼ぶ声がした。


「ああ、もう。今行きますよーっと」


 今、あたしは結構幸せだ。








 伯爵家の屋敷の2階。そのバルコニーから、美しい少女が自らの屋敷の庭を見下ろしていた。

 そこには、学園で誰とも親しくなれずに困っていた少女に、最初に声をかけてくれた人がいる。

 やさしくて、あたたかくて、太陽みたいなその人は、少女の親友だった。

 彼女はとても優しい人だった。言動は粗雑な面が目立ったが、内面はとてもやわらかく、そしてとてもかわいらしい。そして彼女は、少女が悲しい時、苦しい時、一番に駆けつけて、少女の代わりになんでも吹き飛ばしてしまう。

 だからいつか、いつか彼女のためにできることを全力でして、恩をかえしたいと思ってきた。


「それが叶って、すこし寂しい気もするけど……」


 ただ、少女の視線の先で、1人の男性が親友に声をかけた。

 はにかむ青年に、彼女は顔を赤くして何かを叫んでいる。青年はうれしそうに、そんな彼女に日傘を差し出して、腰に手を回した。

 彼女は照れて、腰に回った手を離そうと必死になりながら、それでも幸せそうに笑っていた。


「ああ、本当によかったわ」


 少女、フレデリカは満面の笑みを浮かべて、仲良く歩いていく親友と幼馴染を見送った。

 


 







♤♤♤♤♤♤♤♤♤♤♤♤♤♤♤♤♤


これにて完結です。

感想などあればぜひ。

ありがとうございました。

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[完結]元不良の転生令嬢、友達が婚約破棄されたので相手殴ったら王子に溺愛されました h.h @havi_wa

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