第39話 カバーストーリー

 乾いた破砕音が連鎖するように鳴り響き、そして静けさを齎す。

 辺りを見渡すと、あれだけいた観客は人っ子一人いなくなっていた。盛り上げるのも全力だが、逃げるのも全力だな。まあ、死人が出ていないのは何よりなことである(出場者以外)。あのブルーノバカも静かになったことだし、これで……


「あれ……シュヴァイクは……?」


 その流れで闘技場の主に視線を移すも、奴どころか司会者グランド・コーラーの姿さえそこにはもうなかった。ついでにあのレイラとかいう女も。


「せっかくの勝者に祝福もなしか……。礼儀のなってない闘技場だぜ」


 仕方なしにオレは奴の座っていた玉座、その奥にある通路から階段を上っていき、ご大層な扉の前へ。


 そいつを心の準備などせず、淡々と開けると、まず目に飛び込んできたのは、白、白、白。白を基調としたザ・城とでも言うべき廊下があった。


 血生臭い闘技場と相反する光景に、普通なら戸惑いを見せるところだろう。しかし、そんな気は一ミリたりとも起きなかった。何故ならそのを赤で染め上げる――


 もはや確認するまでもない。衛兵たちだ。司会者グランド・コーラーの姿も確認できる。観客の死体がないことがせめてもの救いか。


「ブルーノのあれにやられたってわけじゃなさそうだな……」


 廊下内を見回しても、レーザーの余波がここまで来たとは思えない。血に塗れちゃいるが綺麗なもんだ。それに死因は刺殺と見て間違いないだろう。ここに転がってる全員な。


「ったく、何がどうなって……」


 そう零しつつ、ふと近くにあった窓から外を見遣ると……


「シュヴァイク……?」


 夜の闇に紛れつつあった奴の姿を捉える。あのレイラも一緒だ。


 近くに出られそうな扉はない。ので、オレはその窓を蹴破り、「シュヴァイク!」と強引に外へ。


「おっと……やっぱ生きてたなァ? カズハラタクトォ?」


 歩を止めたシュヴァイクは振り返ると、こちらへニィッと笑ってみせた。片手にはあの女が。もう片方の手にはサンタが如き袋を握り締め、肩に背負っている。まるで夜逃げでもするみたいにな。


「どこへ行く? まさか約束を違えるつもりか?」


 この男はどうにも読みづらい。警戒しつつ、ある程度距離を保ったうえで、オレは対話へと移る。


「約束? あぁ、あの酒場のお嬢ちゃんのことか? 安心しろ。もうこの町に興味はない。おめえの好きにすればいいさ」

「この町に興味はない? まさか、あの衛兵たちは……?」

「『俺たちもついていきます!』とか言って泣きついてくるからよォ……。邪魔だから殺しちまった。俺ァ、リセットする性分だからよ?」

「話が読めないな……。もう少し具体的な説明を求める」

「具体的な説明かァ……。まあ、簡単に言うと俺が――だってことかな?」

「偽物?」

「この町の英雄って言ったろ? 自分のことをさ? でも、あれ……嘘なんだよォ~? 俺はただすり替わっただけ。この目でなァ?」


 奴は片っぽしかないその瞳を赤く染め上げてみせた。能力を使ってこの状況を作り上げたということか。


「詳細を聞いても?」

「この町には英雄になろうとした男が居た。ただ、そいつには力がなかった。元首長に反旗を翻した際に、おっ死んじまったんだよ。頭を取られた以上、反乱はそこで終わり。のはずだったんだが……」

「お前が横槍を入れた?」

「そう。俺の目は【自分の作り出したカバーストーリーを、現実のものとしちまう】最強の力だ。だから、死んだその男はただの男となり、俺がリーダーとなった。そしてここの元首長を……殺してやった」


 カバーストーリーを現実に? それが本当なら確かに最強かもな。そんな夢物語を現実にできるなら。


「なら、この町の惨状は嘘偽りないと?」

「それは弄くってない。偽物は俺だけだァ。こんな町、出身でもなければ知りもしない。興味も……ない」

「にもかかわらず助けたのか? そういうことするタイプには見えないが……。まさか本当に英雄になりたかったとでも?」

「俺の趣味なんだよォ~。他人の人生乗っ取るの。たまたま目の前に『英雄の物語』が転がってたから乗っただけ。へっへっへ! 結構、楽しかったぜェ? まあ、もう飽きちまったけどな」

「だから捨てて自分だけ夜逃げしようと? 随分と急な話だ」

「『反逆者パープライズ』が出た以上、どっちみちあの闘技場も終いだからなァ。こっから噂はどんどん広まる。そうなったが最後、観客の足は遠のき、末路は破綻さ」

「『反逆者パープライズ』とやらはそこまでの存在なのか?」

「おいおい、知らねえのかよ? こいつはたまげたぜェ……。だが、そこまで説明してやる義理はない。俺ぁおめえの先生じゃねえからなァ? 互いに目的は達成された。なら、これ以上は言いっこなしにしようや。どうせおめえもウチに入ろうなんて、これっぽっちも思ってなかっただろうし?」


 確かに……。種明かしされた今、こいつに関わる理由も止める理由もない。圧政を強いる衛兵たちも消してくれたわけだし、これでククラも怯えなくて済む。万々歳じゃないか。


「………………」


 ……あの項垂れてるレイラ以外は。


 オレは溜息を一つまみした後、星空瞬く天を仰ぐ。


 これはそう……正当な権利を主張するだけだ。勝った以上、貰うもんは貰う。面倒ごとはできるだけ避けたいが、後のことは最悪、動きながら考えればいい。そう。仕方ない。仕方が――


「文句なら……ある」


 気付けばオレの視線は、「あ?」と睨みつけるシュヴァイクへと下ろされていた。


 それでもオレは毅然とした態度で臨む。


「そっちの女を……まだ貰ってないが?」


 今一度、交渉の舞台へと。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る