第38話 反逆者《パープライズ》

 直後、オレの瞳は紫の紋様と共に光を帯び、奴の……ブルーノの瞳を捉えた。


「なッ⁉ お前、その目――ッ」


 そこでブルーノは途切れた。言葉も、そしてその


「あれ……? 目が……目が見えないッ⁉ なんで……! 何なんだコレッ⁉」


 文字通り、オレは奪ってやった。視力そのものをゼロに変換することによって。


 ブルーノは目元を押さえ、狼狽え、挙句の果てには眼鏡を探すかのような仕草をする始末。しかし、これはあくまでも一時的なものであり、過程に過ぎない。本来の目的は、『視力を奪われた能力者のその後』を調べることだ。オレと同じように触れれば発動するのか、それとも……


「おい……あれって……⁉」

「『反逆者パープライズ』だ……!」

「嘘……なんで……⁉」

「『夜の王ナイトロード』の悪夢は終わったんじゃ……⁉」

「というか、あのガキ……よく見たら似て……?」


 ざわつく、ざわつく、ざわつき極める。観客どももこの目には大層驚いていた。……のだが、どうも予想していた反応とはちょいと違う。驚きというよりも恐怖が勝っている、か……?


「おやおや、これは……また……」


 司会者グランド・コーラーは遂に声を張り上げることを忘れ、完全に顔を引きつらせるも……


「とんだ収穫だぜ。フッフッフ……」


 奥にいたシュヴァイクは相も変わらず不敵な笑み。


「『反逆者パープライズ』……?」


 意外だったのが、あのレイラとかいう囚われの女だった。さっきまで自分のことで精一杯だったのに、今じゃその顔を上げ、死んでいた目を見開かせている。シュヴァイクではないが、どうやらこちらにも思ってもみない収穫があったらしい。


 ブルーノの『力』を見た時から、どことなく同じような匂いは感じていた。が、ここにいる奴らのリアクションで今ハッキリしたよ。どうしてそんな繋がりがあるのかは皆目見当がつかないが、どうもこの目は――らしい。『何か』があるんだ。この世界と、元居た世界には。


「クッソォォ……ッ! 聞いてねえぞ⁉ テメエが『反逆者パープライズ』だったなんてっ! 俺らは同志だろうが⁉ なんで逆らう⁉」


 話者は再び、メガネメガネなブルーノの方に。もう勝負は決まった為、ほっとくつもりだったのだが、まだ叩けば何かしら出るらしい。なので返す。「同志だと?」と。


「そうだ……! 『異端者レッドアイ』と『反逆者パープライズ』は、ずっと昔っから手を取り合ってきたじゃねえか? 俺らが争う理由はねえ! そうだろう? な?」

「ここは闘技場だ。それだけで争う理由になると思うが?」

「それはさっきまでの話だろうが⁉ 『反逆者パープライズ』だと分かった今、この闘いは……なしだっ! だから『力』を解け! な?」


 身振り手振り、機嫌でも窺うように遜るブルーノ。なんとも憐れ極まりない姿だが、同情もまた、する余地なし。


「断る。お前もそれなりのことをしてきたんだ。そのケジメは……ちゃんとつけないとな?」


 瞬間、プチっと何かが切れる音がした。奴の纏っていた空気かな? 噴火までざっと三、二、一――


「下手に出てりゃいい気になりやがって、このガキがァッ‼ ならお望み通りブチ殺してやるよォ⁉ 目なんか見えなくたって、俺は――最強だァアァァアッッッ‼」


 ほら、本性現した。


 なんとも分かり易くて結構だが、奴の目は光はなくとも、未だ濁った『赤』が大部分を占めている。どうやら……



 ビィィィイイッッ――‼ ビビビィィッッ――‼ ビィィィイイッッ――ビィィィイイッッ――ビィィィイイッッ――‼



 まだ『力』は使えるらしい。


「きゃああぁあぁあっっ⁉」

「こりゃマズい……!」

「逃げろ逃げろ逃げろぉ‼」


 それどころか直進しか能がなかったレーザーは、まるで枝分かれするかの如く、あたりへと飛び散り、観客席を……闘技場内を混沌に染め上げ始めた。


 前までのがスナイパーライフルなら、今のレーザーはショットガンだな。それくらい性能が変わっている。おまけに所構わず顔を動かす所為で、闘技場ももう円形を留めることができないでいた。


「あぁ~、もうメチャクチャだぁ……! ブルーノ隊ちょ……元隊長! 落ち着いてっ! 観客の皆様も今宵の闘技場は中止です! 姿勢を低くしながら外へ! 外へ!」


 悲鳴と破壊が入り混じる中、司会者グランド・コーラーが慌てながらも避難誘導に努める。そっちの心配はしなくてよさそうだな。あとは……


「死ねェェエエぇえぇッッ‼ 全員、死んじまえェエエェええッッッ‼」


 このブルーノバカをなんとかするだけだ。


 と、さりげなく責任転嫁したオレは、飛び交うレーザーを避けつつ、奴の下へ駆けていく。


 視力を奪うと、ものによっては『覚醒』する。これはその例に当てはまっていると言っていいだろう。性能がまるで違うんだからな。いいことを知った。


『役不足だと言ったが、あれは訂正するよ。お前は充分、役に立った』

「――ッ! そこかぁっ‼」


 ちなみにもうオレはいなかった。あったのは三秒間遅らせた『音』だけ。引き付けるために変換したのだ。セリフを三秒後に発生させるように。


 奴が音の方向へ照準を合わせた瞬間、滑り込むようにサイドへと回ったオレは、足払いの要領でブルーノをこかす。


「――なにっ⁉」


 上空に向けられたその瞳は、数多の光線を放出、分裂させ、天井へと叩き込まれていく。

 亀裂が、焦げ跡が、破壊音が刻まれたことを確認し、オレは即座に退散。奴の末路はもはや言うまでもなく……


「……くっ! 何がどうなって――ぐわぁああぁあッッッ⁉」


 落ちてきた瓦礫の下敷きと相成った。

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