第27話新たな一歩

ヘレル子爵の没落に伴い、ヘレル子爵から魔法石を手に入れていた貴族たちの財産も没収された。レイモン皇子がその任務にあたり、ネヴィル皇子はヘレル子爵がしでかした後始末の為、隣国キリファに行った。

リコは漆黒の森から救出されたローサンを見ていた。

「どうだ?」

「記憶は無くしているようですが、それ以外は無事です」

レイモン皇子の問いかけにリコは答えた。

「ありがとう。本当にありがとう」

両手を握って感謝を告げるレイモン皇子の心の内がわかるだけにリコは何も言えなかった。

リコは王とローサンの体調をみながら毎日ポーション作りに励んだ。

ネヴィル皇子の事が気になるが考えすぎると何も手が付かなくなるから、そうならないように何かをやり続けた。

レイモン皇子も同じだったようでヘレル子爵の対応に追われていた。

一カ月経ったある日、ネヴィル皇子の帰還の連絡が届いた。

ネヴィル皇子の手紙には無事話はついたと書かれていた。

安堵したのかリコはその日、寝込んでしまった。

「リコさま、起きられますか?」

侍女のオリビアに手伝ってもらいながら身体を起こす。辺りは薄暗く日は落ちているのが分かる。

「どれくらい寝てた?」

オリビアに訊ねる。

「二日ほどです」

「そんなに?」

「お腹空きましたよね」

オリビアはそういうと部屋から出ていった。

帰ってきたオリビアは食事を持ってきた。

お腹が空いていたので全部平らげるとまた、眠くなってきてそのまま眠ってしまった。

次に目が覚めたのは明るくなっていた。

『おはようございます』

オリビアに声をかけてられてベッドから起き上がる。

「おはよう」

「食事、どうされますか?」

「お腹空いた」

夜沢山食べたはずなのに空腹感がある。

「すぐ準備しますしますね」

オリビアは笑顔で部屋を出ていった。

代わりに部屋に入ってきた人物がいた。

レイモン皇子だった。

「大丈夫か?」

「大丈夫!」

「もうすぐネヴィル皇子が帰ってくるが報告の時、同席するか?」

「私が居てもいいのかな?」

「かまわない」

「やっぱりやめておく」

大臣たちへの報告の場の筈だ。そこに私が居て良いとは思えない。

「そうか。後で連絡する」

レイモン皇子の気遣いに感謝する。

「ありがとう」

その後、オリビアが持ってきた食事をしっかりたいらげて、再び眠りについた。

次に目が覚めた時は日が傾きかけていた。

ベッドから起き上がり、ネヴィル皇子のことを考えていた。

王様は皇太子にネヴィル皇子と考えている。それならレイモン皇子はどうするのか?

二人は特に仲が悪いわけではないが、このことが原因で二人の関係が悪くなる事がないと願いたい。

ローサンが意識を取り戻したと聞いて部屋にいくと既にレイモン王子が来ていた。

レイモン王子がローサンに尋問をする。

「では、あの森に行った事も記憶がないのだな」

それから二日後、ネヴィル皇子が帰って来た。

王様や大臣たちへの報告はかなり時間がかかっていた。

私はローサンの体調をみながらポーション作りに励んでいた。

夜にはレイモン皇子と会議の内容を聞きながら今後のことを話し合った。

「キリファは再度婚姻を結び直そうと言ってきているのですか?」

「そうみたいだ」

「ネヴィル皇子はどうするつもりでしょうか?」

「ネヴィルは婚姻もやむなしと思っているみたいだ」

今回ヘレル子爵が勝手に取り決めた事を取り消してもらうのにかなり大変だったようだ。それによって交換条件のように出された再度の婚姻の話は安易につっ返すには出来ないもののはずだ。

それもあってヘレル子爵とそれに追従した貴族を厳重に処罰にする方向でレイモン皇子が動いていると聞いていた。

王様もネヴィル皇子の考えを考慮して判断を保留にしているらしい。

そんな時、キリファから王女かやってきた。キリファの王が返事が遅い事に気にして王女を送り込んで来たようだ。


「ネヴィル皇子はどちらに?」

キリファの王女はエルメルと名乗った。

「エリメル嬢ネヴィルは今会議中ですのでお待ち下さい」

レイモンが言うと納得して近くの椅子に座った。

侍女がお茶とお茶菓子をだすと無言でお茶を飲み出す。

リコはここに居ても無意味に思えてきてレイモン王子に告げて部屋をでようとした。

「そこの女、待ちなさい」

突然声がして振り返る。

「そう、そこの貴方、ネヴィル王子を呼んできて」

エリメル王女が言ってくる。リコはどうしたものかとレイモン王子を見た。

「エリメル嬢、先程申し上げた通りネヴィルは会議中ですのでもう暫くお待ちください。それとこの者は侍女ではありません」

レイモン王子がはっきりと言ってくれたが納得していない様子のエリメル王女は無言でお茶を飲みお菓子を食べ始める。その様子をレイモン王子と侍女たちは無言で眺めた。

リコはレイモン王子に言われて部屋を出る。

目的の場所はネヴィル王子が大臣たちと会議をしている部屋だ。

部屋に着くと魔法使いたちが大勢集まっていた。

「どうしたの?」

知り合いの魔法使いを捕まえて聞く。

「隣国との境で戦争が勃発しました」

「どういうこと?」

「それがわからないのです。いきなり攻撃してきたので」

聞くとネヴィル王子が魔法使いたちを集めて攻防をしているらしい。

「リコ!」

ネヴィル王子に呼ばれて振り返る。

「ネヴィル王子!エリメル王女が貴方に会いたいと来ているわ」

「わかった。今行く」

ネヴィル王子は大臣たちに後の事を任せてエリメル王女の待つ部屋に向かう。

部屋に入ってすぐにエリメル王女はネヴィル王子に飛びついた。

「エリメル王女!離してください」

ネヴィル王子が冷たくあしらう。

「どうしてなのです?婚約者が会いに来たのに」

エリメル王女は更にネヴィル王子に抱き付こうとした時、ネヴィル王子はその手を振り払った。

「まだ、婚約者ではない!今、貴方の国がわが国に攻撃を仕掛けてきました」

ネヴィル王子の言葉に驚く様子がない事で最初から仕掛けられていた事が分かる。

「貴方との婚姻の話は無かったことにします」ネヴィル王子が告げるといきなり暴れだすエリメル王女。

リコは慌ててエリメル王女の周囲に結界を張った。

エリメル王女は身動きができなくなって訳がわからないといった様子でこちらを睨んでいた。

「キリファ王にお伝えください。わが国はキリファの俗国にはなりません」

ネヴィル王子がはっきりと告げる。

「どうしてですか?」

エリメル王女は納得していない様子で怒鳴る。

「ご存じの通り、わが国の軍事力はキリファには遠く及びません。しかし、魔力に関しては軍事力を補うだけの力はあります。キリファはその魔力が欲しいのではないですか?しかし、私どもはその力をキリファに使わせるつもりもありません。現に今キリファからの攻撃を防いでいますが、次は攻撃に切り替えます。どうぞ国に帰って王にお伝えください」

ネヴィル王子の言葉が終わるとレイモン王子から合図が出た。

リコを含めたその場にいた魔法使いたちは一斉にエリメル王女を移動させる。キリファ王の元へとエリメル王女を送り届けると国境の攻防を一転攻撃に切り替えて集中攻撃に転じる。キリファの兵士たちが退散するまでそれは続いた。

「ネヴィル。どうしてわかった?」

「あぁ、キリファに行った時、偶然聞いてしまったんです」

ネヴィル王子は淡々と答えた。

「それなら、今回の銃撃も想定内ということか?」

レイモン王子が聞くとネヴィル王子はそうだと言った。

「それなら、この後の事はどうするつもりだ?」

「なにも」

ネヴィル王子の言葉に周囲の皆んなが心配した。

「何か考えがあるようだな」

「王からも好きにしていいと許可をもらっています」

ネヴィル王子が言うとそばにいた大臣たちも同意した。それをみてレイモン王子は安心した。

「何が手伝える事があれば言ってくれ」

「ありがとうございます」

「キリファ王が何か言ってきたらすぐ知らせとくれ」

大臣たちはネヴィル王子がどうするのか心配している。「リコ、聞きたいことがある」

ネヴィル王子に呼ばれて別の部屋に入る。

「キリファの魔法使いたちの実力はどんな感じだ?」

「わが国に遠く及ばないですね。攻防一つとってもわが国の魔法使いたちの攻撃を防ぐ事は出来ないはずです」

リコの言葉にネヴィル王子は納得したのか大臣たちを呼び寄せた。

「キリファの兵士を徹底的に叩け、自ら退散するまでだ」

「ネヴィル王子 しかし、婚姻の約定はどうされますか?」

「解除の書状は先程エリメル王女を送り返す時、一緒に届けた。攻撃を仕掛けてきたのに約定を飲む訳がない。それでも聞かなければ王を拘束してわが国に膝まつかせればいい。魔法使いたちにそのようにつたえろ」

ネヴィル王子の覚悟が分かると大臣たちは一斉に部屋を出て行った。

リコも部屋を出た。

「どこに行く?」

レイモン王子が部屋を出てリコに聞く。

「ポーションを運びます」

リコが言うとレイモン王子がついてきた。

リコが作り置きしているポーションをレイモンと運ぼうとしているとオリビアと騎士たちも集まってきた。

「これを運べばいいですか?」

「はい。お願いします。魔法使いたちのいる部屋まで運んでください」

レイモン王子が先頭に立って魔法使いたちのいる部屋までポーションを運んだ。

隣国の兵士たちは散り散りになりながらもまだ、攻撃を仕掛けてきるが魔法使いたちは容赦なく攻撃を仕掛けていく。その内キリファ王が国王軍を率いてやって来た。

「王を捕えよ」

レイモン王子の号令に魔法使いたちは一斉に王を拘束した。

兵士たちの攻防に魔法使いたちは容赦なく徹底的に攻撃を続けた。

ポーションを使いながらなので魔法使いたちは存分に力を出し切って戦う事が出来た。

レイモン王子の指示通りに魔法使いたちはキリファ王を拘束してネヴィル王子の元へ連れてきた。

「キリファ王。貴方の国のやり方はよくわかりました。婚姻の話も受け入れる事は出来ません。わが国の魔法使いたちはキリファに使わせることも出来ません」

ネヴィル王子が言うとキリファ王はうな垂れた。

その後、キリファ国は地図上から消滅した。そしてわが国の一部になった。

王も王女も戦争を引き起こした責任を問い、断罪され王族も全て断罪してわが国に吸収され新しい領土となった。

ネヴィル王子は新しく出来た領土の編成してそれぞれの領地に領主を任命した。

「本当にいいのか?」

レイモン王子がネヴィル王子に聞く。

「ここを治めるのを任せられるのはレイモンしかいない」

ネヴィル王子は元キリファの領地をレイモン王子に領主に任命した。

大臣たちからも反対意見は出なくてあっさり決まった。

そしてリコはエリアス次期領主に決まった。

元々レイモン王子が継ぐ予定だったが別の領地を与えられたのでエリアス領主の養女のリコが継ぐ事になった。

次の日からエリアス領主から使わされた大臣たちが入れ替わりリコの元へやって来た。

「領地経営に必要な事を覚えていただきます」

そう言って大量の書物が部屋に運び込まれた。

とりあえず、一冊手にとってみたが、難しい内容で読みこんでしまった。

「リコ、真剣に何を読んでいる?」

いつのまにかネヴィルが部屋に入って来ていた。

机の上に積み上げられた書物を見てネヴィルは笑う。

「領地経営は大臣たちにやらせればいいだろ」

「でも、何知らないと両民たちに何かあった時助ける事が出来ないです」

「真面目だな」

ネヴィルはそれだけ言うと部屋を出て行った。

何か用があったのか?リコはちょっと気になった柄再び書物を読みだした。

今度はレイモンがやってきた。

「リコ、こんなに読みこんで大丈夫か?」

そう云いながらお茶とケーキを持ってきた。

オリビアに準備してもらう間、レイモンは椅子に座る。

「領主になるのか?」

レイモンの言葉に驚く。

「帰りたかったんじゃないのか?」

そう言えば昔、そんな話をしたと思い出す。

「帰れないと言われたから」

「そうか。すまない」

「もう、いいです。ここでの生活も慣れましたし」

「何か困ったことがあればいつでも言ってこい」

レイモンの言葉に有り難くなる。不安な気持ちが少しだけ軽くなる。

リコは更に書物を読み込んで領地についたらやらなければいけないことを纏めた。









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