第28話新領主

リコは領主としての最初の会議、大臣たちの前で挨拶をすると盛大に歓迎されて、少し驚いた。

大臣たちが領地の案内をしてくれると言うので、案内を頼んだ。

北の方には牧草地があり牛や羊が放牧されていた。西側は農業が盛んで田畑が広がっていた。又、東側は商業が盛みたいで商店などいろんな店が立ち並んでいた。領地の至る所はきちんと整備されて両民たちも身綺麗な服をきて生活にゆとりがあるのがわかる。

『いいところですね』

リコは案内してくれている大臣たちに感想を伝える。その後、屋敷に帰ってから幾つか質問して今後の対策を考えた。

『何か困っている事はありますか?』

『牧草地の家畜が盗まれる被害があります』

一人の大臣が、言うと次々と他の大臣も言う。

『商店街で商品が盗まれ店が壊される被害が出ています』

『誰が犯人かの検討は付いていますか?』

『一か月前から集まったあれくれ者の集まりです』

『わかりました。騎士団を出して警護に当たらせましょう』

リコは騎士団を使って一日も早い解決を急いだ。

『領主さま、商店街の被害が相次いでいます』

翌日以降、大臣からの報告に商店街の被害が上がってくる。

『騎士団は何をしているのですか?』

『それが、警備に当たっていない時に被害が出ているようで』

どうやらこちらの動きを読まれているようで、騎士団は後手になっているのがわかる。

『おかしくないですか?』

リコは疑問を呈した。

『どう言うことでしょうか?』

大臣の一人が聞いて来た。

『騎士団の動きが先読みされていませんか?』

『確かに!』

『内通者がいるようですね』

リコの言葉に警護担当の大臣は思い当たる節があったのかすぐに動いた。

『領主様、申し訳ございません。私のミスです』

数日後、警護担当の大臣から謝があった。

騎士団の親族にヘレル士爵の親族がいた事がわかった。

あれくれ者の集まりはアランが指揮をしていた。その親族はヘレル士爵に恩義があり、アランの要求を断れなかったらしい。

その親族の処罰を保留にして裏をかく提案した。

ヘレル士爵とダニエルは斬首刑になったがアランは平民に降格の処分だったので、一時期身分を隠して隣国に潜伏していたらしい。そのアランが仲間を集めてエリアス領に来ていた。

被害総額は領地の年収の半分になっている。大臣たちは今まで何をしていたのかと問いた出した。

大臣たちの一部にヘレル士爵に恩義を感じている者が多く、その為対応に遅れが生じていたようだ。

リコはその者たちを全て解雇して新たに大臣を任命した。

『領主様、どうかお赦しください』

解雇した大臣たちが連日のようにやって来ては謝罪を繰り返す。が。リコは許すことはしなかった。大臣たちは被害にあった領民たちの納税額はそのままで被害を食い止める事を怠っていたのだ。

リコは更に被害のあった領民の納税額を再計算して領民に知らせた。

国に納める税金を差引くと殆ど残らなかったが仕方がない。

リコは新たな収入源を模索する。

部屋でオリビアが入れてくれたお茶を飲みながら考える。農作物は既にこれ以上作られることはない。鉱山もあるが、採掘量は今で精一杯になっている。椅子の背もたれにもたれかかって

考える。

コトッ。オリビアがクッキーを持ってきた。一つ手に取って口にする。

ふと、思い当たる。

クッキーにハーブが使われている。

『オリビア!このクッキー美味しいわね』

『この地方で昔からある物です』

『そう。昔からあるのね』

昔からあると言う言葉に少し不安を感じたがやってみるしかないと考え直した。

翌日、リコは厨房にいた。

クッキー生地に薬草を混ぜてクッキーを焼く。

出来たクッキーを持って騎士団のところに行った。

『騎士団にクッキーを食べてもらい、感想を聞く。

『もう少し甘味が欲しいです』

『もう少し量があった方がいいです』

『体力は回復しています』

翌日、騎士団たちの感想をもとに再度クッキーを作って騎士団に食べてもらった。

『いいと思います』

『これなら、周辺国まで行けそうです』

騎士団からの言葉に安心してリコはクッキーの販売を決めた。

農作物と一緒に薬草の栽培にも力を入れてクッキーを作り、街道沿いの商店にクッキーを置いたところ、思わぬ反響を呼び新たな収入源に成功した。

レイモンがやってきた。

『レイモン?』

リコが出迎えるとレイモンは馬から降りて来る。

『どうしたの?』

『アランが領地に出たと聞いて見に来た』

レイモンは誰かが話したのかかなり詳しく知っていた。

執務室に招き入れ、オリビアがお茶を淹れてくれる。

『このクッキーは?』 

オリビアが出したクッキーを食べてレイモンが聞いてきた。

『新たな収入源に出来ないかと考えたけど、どうかな』

『よく出来ている。これなら討伐隊に食べさせても良いな』

『ほんと!』

『あぁ、今度話そう。今日は別の話をしに来た。

『なに?』

『アランはどうなっている?』

『アランを誘き出す方法を考えているのですが上手くいかなくて』

リコが説明をすることレイモンが任せてと言ってきた。

レイモンはすぐ大臣に話をして、アランを誘き出す方法をとった。

騎士団が、見守る中で商店ではリコが考えた薬草入クッキーを売り出す。

暫くすると商店に人が集まってくる。

その内商店で諍いが起き始める。

クッキーは盗まれ、店は壊され、酷いことになっている。

その商店と暴れている人物を囲む様に騎士団が集まり、暴れていた人たちを一斉に捕まえた。

実は大臣の中にはまだ、アランと繋がっている人物がいてレイモンがリコが作ったクッキーが王都で販売されると噂を流したのだ。それを狙ってアランたちが襲撃して来たところを捕まえることができた。

レイモンはヘレル士爵の捜査をしている時に関係の深い大臣たちがわかっていた。そして現在の様子を調べていくと、アランと繋がっているのがわかっていたらしい。その為、レイモンがリコの元にきて助けてくれたのだと言う。

リコはその大臣たちを呼びだした。

『領主様、御用があるとお聞きしまして』

大臣たちはまさか自分たちが処罰されるとは思って居ない様子で集まった。

『アランがやっと捕まったわ』

リコが言うと大臣たちは少し動揺を見せたがすぐそれを隠した。

『やっと平穏な日々がやってきますな』

口々にわざとらしい平穏な日々と言う大臣たちに気分が悪くなる。

リコは責任を取らせるための言葉を発した。

『領地で起きていた襲撃で収入源が大幅に減ってしまったわ。この責任をとってもらう事にします』

呼び出した大臣たちの財産と領地の没収に加えて大臣たちに強制労働を科した。

『領主様!どうして我々の財産が取り上げられないといけないのですか?』

大臣たちが一斉に抗議してくる。

『貴方達はアランと繋がっていた事を隠してアランの襲撃に手を貸していましたよね』

リコがここまで言ってもまだ不服だと言わんばかりの大臣たちに最後通告をした。

『貴方達の爵位を剥奪します』

さすがこれは驚いたようで急に静かになった。

リコはすぐさま、財産の回収と大臣たちを強制労働場所へと送り出した。

他の大臣たちはリコがそこまでの厳罰をするとは思っていなかったようで驚きの声をあげていたが中には処罰された大臣たちに冷遇されていた者は歓喜の声をあげた。

爵位を剥奪された大臣たちは平民になると思っていたがそれより下の奴隷まで身分を落とされ更に驚いていた。

新たに任命した大臣たちに没収した財産の集計をさせると驚く事がわかった。

収入を操作して納税額を偽っていたのだ。没収した領地の収入額を再調整して領地を新たな大臣たちに再配布した。

『リコ、この間のクッキーなんだけど、王都の騎士団の討伐の時の非常食に採用したいんだけど』

『レシピ教えるわ』

『いや、それだと領地の収入源にならないだろ』

『でも』

『王都の騎士団には潤沢な予算があるから心配しなくていい』

『ありがとう。助かる』

リコは早速、調理担当と会計担当大臣を呼び出して、クッキーの販売価格を決めた。

クッキーの販売に関して周囲の反対も無くすんなり決まり王都の騎士団にこちらの希望価格で売ることが決まった。

それに気を良くした大臣たちは薬草の栽培に力を入れてクッキーの種類を増やした。リコは調理担当と会計担当大臣と一緒になって騎士団に販売するクッキーを少しランクを落として旅行者に売るクッキーを開発した。

旅行者、特に隣国に行くには険しい道や魔物が出る場所も通る為薬草入りクッキーは好評だった。アランが起こした被害額もなんとか補填出来るくらいまで売ってその後は国境近くに店を構えた。

『リコ!』

呼び止められ、振り返るとネヴィルがいた。

『ネヴィル王』

久しぶりに会うネヴィルは威厳に満ちていた。

『元気だったか?』

『元気よ。やる事はいっぱいだけど』

リコは笑いながら言った。

『レイモンから聞いたよ。大変だったみたいだね』

ネヴィルに言われて張り詰めていた気持ちが溢れてきて涙が出てきた。

ネヴィルが優しく背中を摩ってくれる。

どんどん溢れてくる涙が止まらなくネヴィルの胸で泣きじゃくった。

ネヴィルはリコが泣き止むまでずっと背中を摩ってくれた。

『リコ。今日来たのはレイモンの事なんだ』

ネヴィルに言われて初めて気がつく。

『レイモンがどうしたの?』

『レイモンに隣国との婚姻の話が出ている』

リコは心臓が速く鳴ってくるのがわかった。

『レイモンはどうするつもりなのかな?』

『レイモンは国の為に婚姻の話を受けるつもりだ』

レイモンらしいと思う。リコは気持ちが落ち込んでいくのが自分でもはっきりと認識する。

この国に来てから何時もリコの事を助けてくれたレイモンにこれ以上負担をかけたくない。それよりも何か手助けが出来ないかとさえ思っていた。

『リコはどうしたい?』

ネヴィルに聞かれて答えに詰まる。自分の気持ちを言っていいのか?ネヴィルやレイモンに迷惑にならないかと。

『リコの本当の気持ちが聞きたい』

ネヴィルに言われて迷っている自分がわかった。

『迷っている。それを言って迷惑をかけないかと』

リコが言うとネヴィルは笑顔を見せた。

『それだけ聞ければ充分だよ』

ネヴィルはそう言うと帰って行った。

一ヶ月後、今度はレイモンがやって来た。

『リコ、聞いてほしい事があるんだ』

レイモンに言われてリコはお茶を淹れた。

二人でお茶を飲みながらたわいのない会話をする。リコはレイモンがどうしたのか気になっていたが、聞くのを躊躇われ、別の会話をした。

『リコ、ネヴィル王から聞いていると思うけど、僕と結婚して欲しい』

リコは突然の告白に嬉しい半面、驚いた。

『レイモン?』

『嫌か?』

レイモンに再度聞かれて我に返った。

『嫌ではない。が、急過ぎて答えに詰まる。

『少し考えさせて』

リコはそれを言うのが精一杯だった。

『余り永くは待てないがしっかり考えて返事が欲しい』

レイモンに言われてリコは自分の気持ちを改めて考えた。



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ファントムの召喚 小手毬 @aoide

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