第8話 えっ、どっかで見てるの?
翌朝。
散歩に行かなくていいのに、いつもの時間に目が覚めた。
習慣とは恐ろしい。
寝覚めは最悪だ。
あの二人は何時までいたのだろう。
唯一の救いは、沢田さんがマメな人で、テーブルの上がキレイに掃除してあったことだ。
床のマット。
オジサンが肉じゃがをこぼしたシミも取ってある。
マメで、何事にも真面目な人だ。
変態で下着ドロボーじゃなかったら、友達になっていたかもしれない。
いや、友達にはなりたくないな。
いつもの時間に「七色」。
「おはようございまーす」
「おう、ジョニー。おはよー!」
オーナーのヨウイチさんは朝から元気だ。
「今日は余った肉でビーフシチューを作ってみた。食ってけ!」
「ありがとうございます。いただきます」
「おう!」
ガッツポーズした腕の太さがハンパない。
年齢不詳のケイコ姉さん。
今日もキレイだ。
忖度なく褒めちぎる。
笑顔もステキだ。
さて、いつもの時間だ。
良い天気でも傘を持ち、謎のビニール袋に六枚切りの食パン。
「神様」が近づいてくる。
「おはようございます」
「うむ」
目が合うと立ち止まった。
「そうか。ようやくだな」
うん?
どういうことだろう。
「人生は有限じゃ。悔いのないよう生きるのじゃ」
パンをかじる。
「お主はまだ若い。失敗を恐れるな」
良い事語ってるけど、口をモゴモゴして言うことじゃないよ、「神様」。
タクシーが目の前に止まった。
顔見知りのドライバー。
便利店近くの会社だ。
「おはよー、ジョニー。その人を乗せればいいのかなぁ?」
え?
ポケットの携帯電話が鳴る。
知らない番号だ。
『お疲れさん』
この声は・・・・
『行き先は伝えてあるから、そのジジイを乗せな』
REDだ。
あれ?
何で番号を知ってるのかな?
「達者でな、若者よ」
乗り込む「神様」。
『それと、地図にマークしたカレー店に、デブがいるから、今から向かいな。アンタんとこの社長には話つけてあるから』
プツ。
一方的に話して切れた。
走り去るタクシー。
ええっと。
何がどうなっているのだろう。
ヨウイチさんにバイク(スクーターです)を借りてアパートを出る。
目印のカレー店までは、バイクで約十分。
全てが青信号。絶妙なタイミング。
朝六時から営業。カレー好きには堪らないチェーン店。開店して間もないというのに、店員さんの動きが活発だ。
しばらく外から様子を見ていたが、凄い早さでカレーを運んでいる。しかも、同じテーブルにだ。
あれをひとりで食べているなら、相当な大食いだ。
デブがいた。
大盛りカレーが数秒で消える。水を飲むより早い。
「カレーが間に合わない!」
客席まで聞こえる厨房の叫び。
デブに話しかけたいが、名前を知らない。
いきなりデブにデブさんですか?、はダメだよな。
携帯電話が振動する。
REDからだ。
『デブと勝負しな。勝てば大人しくなるから』
プツ。
切れた。
ええっと・・・・
辺りを見回すが、REDは見当たらない。
勝負って、大食い対決じゃないよな。
ムリだから。
「お、おはようございます」
声をかけてみた。
カレー皿が、回転寿司の皿以上に積み上がっている。
こっちは向かないが、反応はある。
「オレと勝負しませんか?」
デブの手が止まった。
体重、何キロあるんだろ。
上から下まで、三往復。じっくり見られる。
立ち上がった。
オレより頭二つ分背が高い。
「俺、勝ったら、カレー、お前払う。お前、勝ったら、従う」
何で片言?
アジア系の外国人なのか?
「オッケー。あ〜んど、レッツゴー!」
デブは食べかけのカレーを秒で流し込み、店を出た。
オレは店員に事情を説明して、さらにオレの財布やら免許証やらを人質にして、デブを追った。
新手の食い逃げ犯罪だと思われないため。
通りすがりの誰かが通報する可能性がある。
早めに終わらせよう。
カレー店の裏手の駐車場。
人目にはつきにくいが、どこで誰が見ているから分からない。
合図は誰が出すのだろう。
なんて考えていたら、いきなり突進してきた。
「うわっ!!」
デブなのに、めっちゃ素早い。
コイツは動けるデブだ。
残念なのは、その動きが直線的過ぎる事だな。
デブが転んだ。
オレが転がした。
デブが靴を脱いでいる。
本気モードか?
脂肪が多すぎて絞め技はムリだな。
張り手、タックル。
一発でも食らったら終わりだ。
でも・・・・
どんなに巨体でも、どんなに強力でも、力の向きを変えて利用すればいい。
デブは気持ち良いくらい飛んで、アスファルトの地面に叩きつけられた。
護身用に、少しだけど武術習っていて良かった。
過去の三カ月が報われた瞬間。
「お前、やっぱり強い。俺、負けた。従う」
負けを認めたくれた。
ようやくまともな話が出来るな。
「まずはカレー代を精算しましょう」
立ち上がるオレとデブ。
笑顔はわりと可愛い。
支払いを済ませて店を出る。
このタイミングでタクシー。
顔見知りのドライバーで、便利店近くの会社。
「おはよージョニー。乗せるのは、この人かい?」
デジャブな言葉。
デブを乗せて走り去るタクシー。
携帯電話が鳴る。
『お疲れさん。今日はもう通常業務に戻っていいよ。またよろしく』
プツ。
えっ、どっかで見てるの?
便利屋ジョニー 九里須 大 @madara
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。便利屋ジョニーの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます