第7話 もう、寝かせて下さい

「今日はノドの調子がいいな。もう一曲いいかな?」


 オジサンの歌が、耳に入らない。


「今日は定時で仕事をすませて帰ってきた。君とまゆみのことで語ろうと思ってね」


 下着ドロボーが、気さくに話しかけてくる。


「何だ何だ、恋バナかぁ? 面白そうじゃないか。私も混ぜてくれよ」


 酒はないのか、とあちこち探るオジサン。


「オレ、酒は飲まないんで、ありませんよ」

 沢田さんがテーブルに何か置いた。

「ワインと焼酎なら持ってきましたけど」

「お、気が利くねぇ、沢田さん。ええっと、コップ、コップ・・・・」


 なに、この状況。


「つまみは・・・・お、肉じゃがあるじゃん」

「あ、それは・・・・」

 言いにくい。

「まゆみの手づくりだな」

 沢田さん。

「えぇ~。ジョニーくん、まゆみさんとそんな、仲なの?」

「いいえ。好きなのに告白出来ない、チェリーボーイです」

「そうなんだ。意外だな」

 小さなテーブルに、肉じゃがの鍋とワインと焼酎。ガラスコップが三つ。

 割り箸と取り皿まである。


 ここ、オレん家なんですけど。

 くつろぎ過ぎてませんか?


「ジョニー君はどっち派なんだね?」

 沢田さんに問われる。

 普通に肉じゃが食ってる。

「ジョニー君、オッパイ派かオシリ派か、ってことだよ」

 オジサン。

 普通に肉じゃが食ってる。


 美乳が好きか、美尻が好きか、ってことか。

 オッパイ派だけど、答える必要あるかなぁ。


「私はオシリ派だ」

 沢田さん。

「まゆみのオシリは、何度も触ったが、形といい、肉付きといい、最高だよ」


 沢田。

 オジサンがいなかったら、もう二、三発殴っているからな。 


「へぇ~、そえなんだ。私はオッパイ派かな。でもね、大きいのが好きなわけじゃないんだ」


 何の説明もしてないのに、沢田がまゆみさんのオシリを触ったことがスルーされている。


「まゆみはCカップだ」


 そりゃ、知ってるよな。

 下着ドロボーなんだから。


「いいね。丁度良いサイズだ」


 二人は楽しそうだ。

 オレは、とてもムカついている。 


「まゆみの乳房は、形も良いし張りもある。特に乳首の・・・・」


 オレは沢田の胸ぐらを掴んだ。

「沢田さん。そんなに詳しく説明しなくても・・・・」

 無言の圧力を送っておく。


「あれれ。沢田さんって、まゆみさんの元カレなの?」

「まぁ・・・・似たようなものです」


 違うだろ!!

 アンタはただの下着ドロボーだよ!!

 

「で、今はジョニーくんが狙っている。ジョニーくんは、彼からまゆみさんの情報を聞き出していると。そういう事だな」

 楽しそうなオジサン。


 全然違いますから。


「同じアパートで、こんな恋愛情事が繰り広げられていたのか。これは、創作意欲をくすぐられるなぁ」


 オジサン、肉じゃが食べ過ぎ。


 沢田さんに、さっきの事を聞きたいが、話しかけたくない。


「まゆみさんて、バツイチ?」

 オジサン。

「はい。十八歳で結婚しましたが、夫がダメダメで。仕事もろくにせず、フラフラしていたそうで。しまいには、まゆみに暴力をふるうようになって、三年前に離婚したんです」


 新情報だ。


「そうなんだ。苦労してるんだね」

 オジサン、何かメモしている。

「彼女がとなり街で、スナックで働いているとき、私は知り合いました。一目惚れです」


 おお。と、オジサン。


「何度も通って、まゆみを口説きましたが、なかなかどうして。男選びに失敗したのが原因なのか、結婚にまで話が進みませんでした」

「ほうほう」


 オジサン、食べ過ぎですって!

 もうワイン飲んじゃったの?


「お金ではなびかず、いっそ既成事実を作ってしまおうと、何度かまゆみを押し倒しましたが、結局未遂のままで・・・・」


 やることやってんなぁ!

 もう殴ってもいいかなぁ!


 話題変えよう。


「大路さん、さっきの『神様』の話なんですけど・・・・」

「うん? ああ、超能力のことかい。さっき外で沢田さんに聞いたんだけどね」

 オジサンが沢田さんを見る。

「数日前のことなんですが、早めに仕事が終わって大通りを歩いていると、偶然『神様』が前を歩いていまして。ご近所さんですし、あいさつしようかと思ったら、急に細い路地に曲がって。変だな、と思い、その路地をのぞいたら、『神様』が一瞬で消えたんです」

「見間違いじゃないの?」

 オジサン。

「私もそう思いましたが、路地には傘と食べかけの食パンが残っていましたし、本当に消えたんだと思います」

「テレポーテーションってやつか。スゴイな、本当に超能力使う人がいるんだね・・・・で、ジョニーくんはまゆみさんに、いつ告白するの?」


 何でその超常現象に食いつかない?


「昨夜、ジョニーくんと殴り合いのケンカをして聞き出したのですが、どうやら彼は娘の茶々を狙っているようでして・・・・」

「えぇ~。ジョニー君、そっち派なの。ますます面白いじゃん」


 もう、どう説明していいか分かりません。

 オレも肉じゃが食べよ。


「まあ、小学生にしては大人びてるし、可愛いけど。そうか、そうなんだ。よくここに来てるもんね」


 あ、この肉じゃが美味しい。


「私はジョニー君に、そんな性癖があっても軽蔑しないよ。人間らしくていいじゃないか」


 もう、帰ってくれないかなぁ


「ジョニーくん、少女の身体はまだ未熟なので、あまり激しい行為は・・・・」


 男は年齢を重ねると、変態になっていくのだろうか。オジサンと沢田さんのエロトークが止まらない。

 お願いです。

 もう、寝かせて下さい。

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