第6話 超能力って、言いました?

 吸い込むと、花火みたいに小さな火花がパチパチ飛んで、煙を吐くと、お香のような匂いがする。


 それ、本当に普通のタバコですか?


「ウラさんから聞いてます。人探しを手伝って欲しいとか?」

 サングラスをかけた社長が問う。

「ああ」

 さっきの真っ赤なジャージのオバサン。

「アンタらの仕事の合間でいいからさ、よろしく頼むよ」

 紫煙。


 異国にいる気分だ。


「情報は?」

 サングラスをかけたサイ先輩。

「ああ、そうだね・・・・」

 キャリーバックの中をゴソゴソ・・・・

 目を細めて赤いオバサンを見るジョニー。


 オレにもサングラスを・・・・


 何か出てきた。

「これ、人相書き。ジジイとヒョロヒョロとデブ」

 実に簡潔な表現。

 おおー、と二人。

 ジョニーも見てみる。

「こりゃスゴい」

 写真を見てるようだ。

 鉛筆でここまで描けるとは。

「大したことない。見たままを描いただけさ」


 それが出来れば、誰もが画伯だ。


「この街にいるところまでは絞れたんだけど、そこからが難しくてね」


 なるほど。

 この街の人口、八万人ですけど。


 今度は街の地図が出てきた。

 何か所か赤丸で囲ってある。  


「ヒョロヒョロは主に電化量販店にいることが多い。デブはカレー好きだから、このあたりの店。問題はジジイだ。こいつは神出鬼没で、場所が特定出来ない」


 瞬間移動するからね


 なるほど、と社長とサイ先輩。

 二人は何とか見つけられそうだ。

 老人はあちこち動き回っているってことか。

 瞬間移動しているみたいに。

 ・・・・あれ?


 人相書きを手に取って、じっくり見てみる。

 この老人・・・・


 あれれ?


「ジョニー、どうかした?」

 社長。


 あれれれ・・・・?


「この老人。たぶん、オレ知ってます」

 三人の視線が集まる。

 赤いオバサンが、二本目のタバコに火を付ける。

「オレが住んでるアパートの住人で、自分のこと『神様』だって言ってる人です」

「ああ。每日食パンかじりながら出かけるって言ってた人か」

 サイ先輩。

「はい」

 煙を吐くオバサン。

「ここに来て正解だったね。捕獲できたら連絡しておくれ。すぐに行くから」

 よっこらしょっと。

 立ち上がるオバサン。

「じゃ、頼んだよ」

 二人に手を上げてから、ジョニーを見る。


 あ。帰るんですね。

 オバサンのキャリーバックを持つ。

 階段を登るのは、下から押せたけど、降りる時はどうしようか。

 考える。


「抱っこしておくれよ」

 オバサンが言った。


 無理だよ。

 オレはチカチカするジャージに、目を細めながら思った。


 ジョニーが事務所に戻ってきた。

 両腕を震わせながら、この世の終わり、みたいな顔をしている。

 どうやら、抱っこしたらしい。

「お、お、おつ、かれさん・・・・」

 笑いをこらえるサイ先輩。

「さすがジョニーだね。お疲れさん」

 社長のコウイチ。


 どの「さすが」だろう。


「大学の先輩がね、近くの街で探偵社を開いてね・・・・」

 コウイチが話し始める。

「メンバーを集めているところなんだ。さっきの人が一人目で、REDって呼んでるんだけど、五人揃えたいんだって」


 その先輩は、ヒーロー戦隊のボスに憧れているらしい。

 それでRED。

 それで赤ジャージか。

 変わり者の先輩なんだ。


「ボクも負けてられないな。戦国武将と同じ名字だから、こっちは十人集めようかなぁ」


 十勇士、てことか。

 ウチの社長も変わり者だ。


 サイ先輩と二人で、遺品整理の仕事。不動産業者からの依頼。家主に子供はおらず、親戚は遠方のため、真田便利店に話が来た。

 平屋の小さな家だが、何十年も生活すると、それなりの荷物がある。

 一日では終わらなかった。

 業者に連絡して、あと二日、カギを預かることになった。


 十八時、便利店に帰宅。


「飼い主が退院したよ。ジョニーによろしくって」

 退院した足で、あいさつに来たらしい。

 よかった。

 もう散歩に行かなくていいのか。

 ちょっと寂しい。


 二十時過ぎ。

 アパートに帰宅。

 まゆみさんの家を通り過ぎ、オレの家の洗濯機のフタを開ける。

 スペアキーはそのまま。

 カギを開けて部屋に入る。

 茶々は来ていないのか。


 ちょっと寂しい。


 ため息。


 冷蔵庫を開けると、見慣れない鍋が入っていた。

 メモが上に乗っている。


 お母さんからです。

 この前のお礼とおわび、だって。

 くやしいけど、お母さんの肉じゃがは世界一美味しいから。

 お仕事おつかれさま。

 大好きだよ。

 おやすみ、助仁。

 茶々。


 フタを開ける。

 肉じゃがだ。

 ヤベ、泣きそう。


 ドアをノックする音。


 え?

 まさか、まゆみさん?

 それとも、茶々か?

 どちらが来ても、ハグしてしまいそうだ。

 一旦落ち着け、オレ。

 深呼吸して、ドアを開ける。


「やあ、ジョニー君。明かりが見えたので・・・・」


 バタン!

 ドアを閉めて、ロックする。

 何で沢田さんが?

 しばらく呼ばれたが無視した。


 数分後。

 またドアをノックする音。

 ドアスコープで確認すると、オジサンが立っていた。


 え?

 もう新曲できたの?


 ロックを解除して・・・

 ドアが勢いよく開く。


「ジョニーくん。新曲ができたので、聞いてもらえるかな?」

「はぁ。まあ、どうぞ」

 オジサンは、すぐにドアを閉めない。

「沢田さん、開いたよ」

「失礼する」


 ええええ〜!


「沢田さんに聞いたんだけどさ、ウチのとなりの『神様』、超能力使うんだってねぇ」


 ・・・・は?

 今、超能力って、言いました?

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