第3話 今がチャンス、なのかも

「ちーちゃん、おはよー」

 社長は笑顔で受け入れる。

「女同伴で出勤とは。やるな、ロリコンジョニー」

 サイ先輩。

 色々間違っている。

「そう。ジョニーのお手伝いをしてくれるのか。偉いね、ちーちゃん」

 話が勝手に進んでいる。

 ゆる過ぎるぞ、真田便利店。

「ジョニーからちゃんとお小遣いをもらいなよ、ちーちゃん」

「うん」

 そういうこと言うかな、サイ先輩。

「じゃ、今日も一日頑張りましょう」

「はーい」

 手を挙げて返事する茶々。

 嬉しそうな二人。

 茶々を連れてきたのは初めてじゃないが、オレより馴染んでいるじゃないか。


 いいのか、こんな大人。


 準備を終えて、軽トラックに乗り込む。

 伊達メガネ。

 ジョニーは車の運転が得意じゃない。メガネは、運転が上手くなったと錯覚させるまじないのようなもの。

 横に座る茶々は嬉しそうだ。

 とりあえず、このがケガしないよう、安全運転で行こう。


 大声で笑う茶々。

 発進するたびに車は大きく揺れ、変速する度にまた激しく揺れる。

「遊園地の乗り物みたーい」

 茶々はご機嫌。

 ジョニーは不機嫌。

 この街一番の川を渡って右折する。


 ここだな。


 かなり古いアパート。

 引っ越しするのは、このアパートが古くて取り壊すから。次はこの街一番の高級マンション、だそうだ。


 車を停めてメガネを外す。

 薄暗い照明で、厚めの化粧。男でもそれなりの顔立ちなら美しく見える。

 明るい時間はどうだろう。

 ヒゲ面のオッサンが出てきたら、どう反応するべきか。考えながら家に近づく。


 ピンポ〜ン


 茶々が呼び鈴を鳴らした。


 おいおい。

 まだ心の準備が・・・・


 は〜い、とクルミの声がする。


 ドアが開いた。


「いらっしゃ〜い、ジョニー♡」


 ・・・・ヤバい。

 スッピンでもキレイだぞ。

 本物の女の子みたいだ。


 クルミの目線が下に向く。

「あらあら。この可愛らしいお嬢さんは、どなたかしら?」

 茶々が一歩前に出る。

「いずれ妻になる茶々です。助仁の回りをうろつくゴミ虫を振り払いに来ました」


 え・・・・ええぇ〜

 いきなり戦闘体制なの〜


「まあ。可愛い顔して、なかなか言うわね。部屋の片付けついでに、お前も捨ててやろうか?」

 クルミさん。

 半分男の声になっている。


 朝っぱらからやめてくれないかなぁ。


「同じアパートに住んでる方のお子さんで、今日は社会見学のため、俺の仕事の手伝いをね。ね、ちーちゃん? 手伝ってくれるんたよね?」

 うなずく。

 二人とも、目線は外さない。

 先に外した方が負け。みたいな感じなんだろうか。

「さあさあ。早速始めましょう。荷物の整理はどんな感じですか?」

 クルミの表情が変わる。

「そうね。よろしくジョニー。どうぞ、中に入って」

 茶々を見て、

「お前とは、じっくり話したいわ」

 また男声。

「望むところよ」


 バチバチなんですけど。


 女物の衣装をある程度梱包する。据え置きの電化製品はそのまま。残ったものは廃棄。

 リサイクルショップに持っていくか。


「そうね。じゃぁ、お願いするわ」

 クルミさん。

 身体寄せ過ぎですから。

 そして、茶々にドヤ顔向けないで。

 二人きりにするのは、とても危険だと思ったが、茶々を連れて行ける雰囲気じゃなかった。

 ダッシュで帰ってこよう。



「ちょっと早いけど、お昼にしましょ?」

「クルミさん、お手伝いします」

「あら、ありがと。じゃぁ、お湯を沸かしてくれる?」

「はーい。このケトルでいいかな?」

「うん。お願〜い」



 ・・・・何だ、これ。

 オレのいない間に何があった?

 リサイクルショップから帰ってきたら、二人の様子がおかしい。


 今日のために、弁当を作っていたクルミさん。

 クルミさんと茶々。

 仲良くひとつの弁当を食べている。

 とても、仲が、良い。

 そして、弁当が、とても、美味しい。

 料理、ちゃんと出来るんだ。

 とても女性らしい。


 クルミと茶々は、タクシーで新居に移動して、ジョニーは軽トラで荷物を数回運ぶ。空になったアパートの部屋の掃除を終えて、ようやくひと息。


 マンションの部屋は最上階。

 電化製品は初めからそろっているし、バーベキューが出来そうな大きなベランダがある。

 眺めも良い。


「部屋は余っているから、いつでも遊びに来てね」

 なんなら、一緒に住む?

 微笑むクルミ。

 その顔は反則だ。

 男だ、ってことを忘れてしまう。


 帰る道中、茶々に聞いてみた。

「私が十六歳になるまで、お互い抜けがけしないって決めたの」

 なるほど。

「でもまあ、私は助仁のとなりに住んでいるし、有利だから。当然守らないけどね」

 ・・・・なるほど。

 末恐ろしい小学生。

 オレに選択権は無いわけだ。


 日付けが明日に変わる頃、誰かがドアをノックする。

「まゆみです。ごめんね、こんな時間に」

 え?

 何だろう、こんな時間に。

 部屋のドアを開ける。

 まゆみはラフなスエット姿。胸元までラフに開いて、谷間がのぞいている。

 たぶんノーブラだ。

 刺激的過ぎる。

「どうしたんですか?」

「ちょっと相談したいことがあって・・・」

「相談ですか」

 まあ、どうぞ。

 部屋に招き入れる。

 ・・・・あれ。

 二人きりになれるなんて、滅多にない状況だぞ。

 これは・・・・


 今がチャンス、なのかも。






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