第360話「嘘偽りのない現実Ⅲ」
高校には卒業試験なるものが存在する。
しかしまぁ、受験を終えたばかりの生徒からすれば、卒業試験なんて受験とさほど変わらない。
ノー勉で挑む者。
軽く勉強をする者。
がっつりと対策を練る者。
いずれにせよ、受験で身に付いている学力と勉強をする要領。
それらが、卒業試験の難易度を一気に下げる。
「卒業おめでとう」
卒業試験をあっさり合格し、流れるように卒業式。
少しゆるんでいたネクタイをしめてくれた蒼が、寂しそうに言う。
「卒業したって、どうせ家に居候するんだろ?」
「そうだけど、なんか寂しい」
「そういうものかな」
振り返ればあっという間だ。
そんなのは、当たり前のこと。
でも、振り返っても濃い3年間だったと思える。
たった3年間。
色んな事があったと思う。
「大切な人と出会って、失って・・・なんだろう、振り返ると色んな事がありすぎた気がする」
「大切な人って、私のこと?」
「蒼はもちろん、大切な人」
「それは嬉しいんだけど、その言い方だと私死んでない?」
蒼のその言葉に悪意はない。
ただ、ちょっとタイムリーなワードなだけだ。
何となく、実感がわかない。
この世界に、この世に、岩船先生がもういないという現実を。
でも、そんなことを言ったって時間は止まらない。
死んだ人間が生き返ることもない。
「でもさ、友彦は色んな事に片足突っ込んでるんだよ?」
「え、そうなの」
「私の親友と、どこでどうやって仲良くなったのかな?」
笑みを浮かべて、そんなことを言う蒼。
恐らく、海老名姉妹の妹、明音のことを言っているのだろう。
明音とは関りがある。
もちろん身体の関係とかそういうのではない。
ただの友達と呼べる範囲内での関り。
ただ、その関りを蒼は知らないでいた。
隠していた・・・それは事実だ。
下心があったわけでもない。
今となっては、どうして隠していたんだっけ・・・そんなレベルだ。
「い、いつから・・・」
「べつに? ちょーっと怪しいって思っただけだよ?」
「いやらしい関係ではないから・・・そこだけは信じて」
「別にそういう疑い方をしているわけじゃないよ。でも、友彦のことだから変なことに片足突っ込んでるんじゃないかなって」
どうだろうか。
考えるが、答えは出てこない。
簡単な話だ。
自覚がないのだから。
「なんていうか、人間関係って複雑で苦手だ」
変なことに片足を突っ込んでるんじゃない。
これが人間関係と言うものなのだろう。
そう結論付けて、発した言葉。
「卒業したからって、これまでがリセットされるわけじゃない。これからも人間関係は続くんだよ」
「なんか胃が痛くなる」
「ほんと、人付き合い嫌がるよね」
「以前に比べれば、全然マシになったんだけどな」
「そう」
在学中、色んなイベントが発生した。
でも、そのエンドをすべて回収したわけじゃない。
それはそうだ。
卒業は、人生という長いシナリオの中の一つ。
そこで区切りがつくわけでもない。
これからも、未回収のエンドロールを探し求めて、生きていくことになる。
見慣れた教室。見慣れた校舎。
それを後にして、蒼とともに校門を出る。
「やぁ」
すると、待ち構えていた人がいた。
岩船先生の従兄弟。
飯田友奈だ。
「友奈さん」
「卒業おめでとう」
「ありがとうございます」
「これだけは言わないとって思ったから」
「何をです?」
「卒業おめでとうって」
「ど、どうも・・・何か意図でもあるんですか?」
「佳奈美ちゃんの、最後の教え子だからね」
「最後の・・・」
「そう。本人が言っていたよ」
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