第26.5話 ブリヤンとサリュ
サリュ視点
現在、俺はブリヤン様と騎士団の応接室にいる。
さっきまではルエンもいたのだが、先に退室を促された。
では、自分も退室しますね、といきたいところだが、悲しいかな。それは叶わない。
何故なら、これからブリヤン様の質問に答えなければならないからだ。
さてさて、どんなことを聞かれるのやら。
「さて、ルエン君の世話係であるサリュ君ではなく、騎士サリュに聞こう」
ルエンが退室してからしばらく、ついにブリヤン様が口を開いた。
それも騎士である俺に対して。
「なんでしょうか、ブリヤン様」
騎士として、職務に忠実な国の犬として、ブリヤン様の質問を待つ。
「ルエン君は我が国にとって、不利益を、危険をもたらす存在になりそうかね?」
質問の内容はやはりと言ったところ。
国としては、ルエン一人のことなど本当はどうでもいい。
国に利益をもたらすならそれでよし、不利益ならば排除するなり追放するなりでよし。
現在の状況、スキルを考慮しないで言えば、ルエンは放置しても排除してもいいのは確かだ。
ただ、ここに大罪スキルが関わってくると話が変わってくる。
スキルの効力が働く可能性が少しでもある今の状況では、軽々しく排除するわけにはいかない。
まあ、一部の貴族どもは何も考えずに排除するべきと言っているが。
そんなことを思い出しながらも質問に答える。
「スキルのことを考慮せず、現在の力量だけで言えば、危険とは言えないでしょう」
「ふむ。確かにルエン君のスキルのことは不確定な要素が大きい。では副人格やスキルを考慮に入れればどうだろう?」
俺の答えにすかさず問いを返してくるブリヤン様。
国のためならば、子供一人がどうなっても構わない。
その覚悟がブリヤン様にはある。
もちろん、ルエンの将来を望んでいる気持ちも確かにあるのだが……。
本当はブリヤン様の問いに答えたくはない。
答えは決まっているのだから。
「はっきりと申し上げるならば……」
自然とのどが渇く。
答え次第でルエンがどうなるか分からない。
だが、騎士という職務にも嘘はつけない。
「危険かと……」
「ほう」
俺の答えにブリヤン様がどう思ったのかは分からないが、感情の見えない相槌のみが返ってくる。
「どうして、危険と考えたのかね?」
数秒あと、ブリヤン様の再度の問いかけ。
俺は正直に答える。
「まず人格面ですが、人の死に対する考えがあまりにも軽すぎるように感じました。ルエン自身も副人格がすることに否やはない様子でしたから、副人格次第では簡単に人を殺すかと」
「ふむ、続けて」
のどが渇く。
ただただ、のどが渇く。
守るべき対象を自ら危険にさらしているという自覚があるだけに息が苦しくなる。
自分が騎士になったのは人を守る為だったはず。
救う為だったはず。
俺はいま何をしているんだ。
混乱し始めた思考のまま、ブリヤン様に答える。
「スキルなどの力量ですが……。未知数です」
「ほう、と言うと?」
俺のせめてもの抵抗。
本当に思っていることだが、ルエンの実力は未知数だ
まだ力のすべてを測ったとは言えない。
だが、俺の逃げの答えにも容赦なくブリヤン様は問いかけてくる。
「……っ」
言葉が詰まる。
何を言えばいい。どうすれば。
どうすればルエンにとって良い未来を運んでこられる。
「騎士サリュ。君がルエン君を特別気にしているのは知っている。だが、騎士としての本分を果たしなさい。小より大を取りなさい」
ブリヤン様にとって、俺の迷いなどお見通しなのだろう。
絶妙なタイミングで、俺の騎士としての誠実さを刺激してくる。
「……続けます」
「あぁ」
俺は報告を続けるしかなかった。
もしかしたら、報告次第でルエンを危険にさらす可能性が下がるかもしれないからだ。
そう言い訳しながら話すことにした。
どうやっても大罪スキルがある時点で、この話の結果は気持ちのいいものにはならないのだから。
少しでも冷静になるために、息を軽く吐いてから俺は報告を続けた。
「人格1と対峙しましたが、先ほども言った通りで力量は未知数です。あのときの一振りが本気ならば、私でもなんとか対処できると思います。ただ、あれがただの実験的な意味ならば、私に勝機はありません」
「ふむ。君は優秀な騎士と聞いているが……。本当に勝てないのかね?」
ブリヤン様が疑うというよりも確認するように問うてくる。
「はい。たったの一振りですが、確かに彼の力を感じ取りました。振りの力強さは文句なしです。鍛錬の積んでいない今の状態ですら、剣の力を受け流すしか対処できませんでした」
「ん? 受け流したなら力量差は確かにあるのではないか?」
ブリヤン様の言うことは正しい。
力量に差がなければ、受け流すなど出来るわけもない。
だが、あのときはたった一振りだけという状況で、かつ人格1が動作を隠しもしなかったからだ。
実践の状況下で、フェイントや殺意などが混じった状況下ならば、受け流せるとは思えない。
そのことを正直に、ブリヤン様に伝えた。
「そうか。それほどか……」
ブリヤン様が長考する姿勢に入ったのか、腕を組んで黙り込んでしまった。
数分たち、ブリヤン様が口を開いた。
「現在、ルエン君をどうこうするつもりはない。ただ、出来るだけ早くルエン君には力をつけてもらいたい」
「それは……」
「キミが何を思ったのか分からないが、ルエン君に早く力をつけ、他国への旅に出したい」
ブリヤン様のその言葉で何となくだが察してしまった。
要はルエンを旅に出して、スキルが消滅したならそれでよし。
駄目なら入国させないようにするつもりなのだろう。
そんなことを疑っていると、ブリヤン様は続ける。
「冒険者として確固たる地位を早くに築き、他国で学びを得て、我が国に帰ってきてもらいたい。大罪スキルに関する情報は少しでも欲しいからな」
ブリヤン様の言うことは事実なのだろうか。
一度疑ってしまうと、邪魔な思考は止まらない。
「そして、ルエン君のスキルがなくなったなら、良い前例として大罪スキルに関する対処ができるのだから。それに、あのような成人もしておらぬ子供に、見捨てるような残酷なことなど出来ぬ」
ブリヤン様の最後の言葉ではっとする。
国にとってしなければならぬこと。
それは確かにあるが、子供にすべてを委ねるのはおかしなことだ。
まして見捨てるようなことをブリヤン様や良識のある大人がすることではない。
ブリヤン様を疑っていたことに、恥じ入っていると、扉がノックされた。
そして、ブリヤン様が入室を促すと、入ってきた騎士は言った。
保護対象のルエンと、騎士見習いがもめ事を起こしていると。
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