第26話 ブリヤンへの報告

「……ルエン。ルエン!!」


 誰かが僕を呼ぶ声がします。

 その声に従って、僕は目を覚ましました。

 僕に声をかけていたのは、サリュでした。


「……っ」


 サリュに返事をしようとするも声が出ません。

 前回もあったので何となく分かりますが、また数日間も寝ていたのでしょうか。


「ほれ」


 サリュが水を渡してくれました。

 ごくりと水を飲んでいる間にサリュは説明してくれます。


「ルエンも察していると思うが、お前はまた三日間ほど寝ていたわけだ。推測の理由になるが、剣を振った力がお前の身体に負担をかけたんだろう。人格1が俺に剣を振ったとき、相当な力が感じられたからな」


 そういうサリュは悔しそうな表情です。

 何を思ってそんな表情をしているのでしょうか。

 僕の思考は置き去りに、サリュは言います。


「さて、身体は起こせるか? 起こせるなら騎士団の応接室に向かうよう、ブリヤン様から指示が出ているからなぁ。無理ならこの部屋に来てくれるそうだぞ。どうする?」


 その言葉を聞いて、血が引く思いでした。

 僕のような奴隷の部屋にわざわざ来てもらうなど不敬の極みです。

 僕はすぐにサリュに返事をして、着替えなどの身支度をしました。

 サリュを待たせるのは申し訳なかったですが、出来る限り急いで準備し、詰め所に向かいました。




「さて、応接室の前に着いたわけだが、しばらく待つことになるだろうな。ブリヤン様は忙しい方だからな」


 サリュは話しながら、応接室に入っていきました。

 僕も一緒に部屋に入っていったわけですが、何故かサリュが立ち止まっていました。

 理由を聞こうとしましたが、それより先にサリュが言います。


「失礼しました! まさか、ブリヤン様がすでにいらっしゃったとは……。ノックをするべきでした。申し訳ございません」


 言葉と共にサリュは頭を下げました。

 ブリヤン様がすでにいらっしゃるとは……。

 確かに想定外です。

 

 僕らの驚いた様子にブリヤン様は朗らかに笑いながらおっしゃいます。


「あぁ、悪いね。今ちょうど手が空いたところでね。早めに来たんだよ」


 そうおっしゃいながら、ブリヤン様はご自身の正面の椅子を指しながらおっしゃいます。


「さぁ、そこに座りなさい。そこで経って話すわけにはいかないからね」


 僕たちは椅子に座りました。

 ここの椅子はふわふわしすぎて、少し落ち着きません。

 また、ブリヤン様の感情の読みづらい表情もまた落ち着きを奪います。

 ブリヤン様は朗らかな表情のままおっしゃいます。


「さて、今日はなんだったか。そうルエン君のことについてだね。サリュ君からの報告で知っているけど、改めてサリュ君。そのときの状況を教えてくれるかな」


 促されたサリュは、落ち着いた様子で話し始めました。


「剣術を教えていたときなのですが……」


 そうして語り始めたサリュが言ったことは以下のこと。


 僕に剣の才能はなかったこと。

 そう告げたあと、僕の様子が一変したこと。

 僕の変わった様子に誘われるまま剣を受けたこと。

 その剣が受け流すしか対処できないほど強烈であったこと。

 一変したあとの僕が言うには、僕の中には人格が複数あること。

 

 ここまでの報告を丁寧に行ったあとサリュは「以上です」の一言で終わった。

 報告を聞いたあと、ブリヤン様は僕に顔を向けおっしゃいました。


「さて、ここまでの報告を聞いてルエン君はどこまで覚えているかな?」


 もちろん、僕は全て知っています。

 僕の人格の一つの経験としてありますが、僕にとっては知識という形で知っています。

 だから僕の答えは。


「覚えてはいません。ただ」

「ただ?」

「知ってはいます」


 僕の答えにブリヤン様は眉をしかめます。

 当然、ブリヤン様はおっしゃいます。


「それはどういうことかな? 覚えていなくて知っているとは?」


 その問いに、僕は即答します。

 僕の身体に人格がいることは知っていること。

 その人格と知識などのいろいろを共有していること。

 それらを説明しました。


 僕の説明を聞いたブリヤン様はおっしゃいます。


「人格はいつごろから宿っているんだい? なぜ人格が生まれたか知りたいんだ」


 僕もそれは知りたいところです。

 変態は僕が創造したんだと思っていますが、白い彼はいつの間にかいたのですから。

 そのときの様子とそれぞれの能力も合わせて説明しました。

 僕の説明からブリヤン様は何か気付いたかのように、ハッとした表情をしました。

 そして、おっしゃいます。


「これはもしかしたらの仮定だが、君の人格は大罪の種に対応した能力や性格を有しているのではないかな」

 

 ブリヤン様のおっしゃることに、僕は確かにと納得しました。

 白い彼の激情、変態の変態性。

 一度自覚したら、ブリヤン様のおっしゃる通りなのでは、と納得してしまいそうになります。


「でも根拠というか、確証というか」


 そう僕が口ごもると。


「そう根拠がないんだ。もしかしたらルエン君の人格は関係ないのかもしれない。でも、関係しているかもしれない。すべてがあやふやな状態になっているんだ」


 ブリヤン様のおっしゃる通りです。

 すべてに根拠がない。

 では、僕はどうしたらいいのでしょう。

 それが僕の言葉として漏れていたのでしょうか。

 ブリヤン様はおっしゃいます。

 

「ルエン君。人格をしっかりと制御するんだ。そして、力も。人格も、感情も、力も、制御できたなら冒険者として活躍できるんじゃないかな。ルエン君の人格1はサリュ君との剣術だ示している通り強い。それを制御するんだ」


 ブリヤン様は静かにおっしゃいました。

 そして、続けます。


「また、人格2の能力もしっかり利用するんだ。そしたら苦痛のある場面でもうまく乗り切れるはずだ」


 そこまでおっしゃったブリヤン様は、穏やかに微笑みます。


「ルエン君。キミの人生が幸多いものにするために、努力と思考を忘れてはいけないよ。さぁ、今日はここまでにしよう。サリュ君は少し残っていてくれ」


 僕はブリヤン様に「ありがとうございました」と一礼して、部屋を出ていきました。

 僕のこの先はどうなっていくのでしょうか。

 未来への不安があまりにも大きくなっていき、僕の表情は自然と曇っていきました。

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