第25話 またも安息の空間
僕の意識できる範囲はすべてが暗闇に包まれている。
それだけで僕は何となくだが察しがついた。
また来てしまったらしい、安息の空間に。
そして、この空間に来たなら彼に出会うはず、そう白い彼に。
暗闇の中、二つの光が見える。
片方はもちろん、白い光の彼。
もう片方は、淫靡で退廃的な雰囲気を醸し出すピンクのような紫のような光。そう変態だ。
僕の最初の疑問は、最初から変態がいるのは珍しいなということ。
変態は僕のことを嫌っているはずだから、僕のことを丁寧に待つはずがない。
でも、あまり気にしていても仕方ない。
僕は、彼ら光のもとに移動した。
「よう、ルエン」
いつも通り、僕の思った通りに白い彼から声をかけてきた。
いつも彼から声をかけてもらっているのは、僕から声をかけるのが苦手だからだ。
そう彼は僕の思っていることを分かっているせいか、僕が意識したことをその通りに実行してくれる。
だから、僕がいつも通りに声をかけてくれるかな、と思うだけで白い彼は声をかけてくれる。
僕はさらに思う。
“今日はどうだった”と聞いてくれないかな、と。
すると。
「ルエン、今日はどうだった?」
その言葉を聞いて僕は安心した。
彼はいつも通りだ、と。
おそらくだけど、僕は変化を嫌っている。
彼がいつも通りにしてくれているだけで、僕は安心できる。
そんな思考も置き去りに僕は、答えを返す。
「いつも通りだったよ。今日も自分を鍛えるだけで終わったかな」
いつも通り。
そう、いつも通りに僕は答えを返した。
だが、このタイミングで僕の思考に変化が入る。
そういえば、今日は剣術の訓練をしたな、と。
そう僕が思い出すような思考をすると、ツッコミを入れるかのように変態が言った。
「なぁにが、いつも通りよ。今日は珍しく白いのが出たじゃない」
若干、白いの言葉に含みを感じたけど、変態が言ったことは間違いじゃない。
そう、僕は完全に思い出した。
白い彼が珍しく表層に出たがったんだった。
知識などの諸々を共有している僕らだけど、共有していることを思い出すのにほんの少しだけズレがある。
僕は白い彼が経験したことを思い出す。
少し意識しないと、経験したことが思い出せない。
たぶん、白い彼にとって当たり前だったことだから。
当たり前に感じていることを思い出すのには、少し時間がいる。
彼自身が意識していないことだから。
白い彼の経験した記憶を改めて思い返した。
そして、最初に出した僕の第一声は。
「僕の身体で剣術って使えたんだね?」
「え? 初めに出るのがそれなのぉ?」
僕の言葉に、変態が突っ込んだ。
確かに僕が思い出したことによると、サリュを殺そうとしたことや僕らの人格のことを話したのは確かに問題だけど、僕自身に戦える力があるのは重要なことのはず。
そう思考すると、変態は言う。
「まぁ、確かにメインの身体で戦えることは重要ねぇ。じゃないと、攻撃を受けるだけになってしまうものぉ」
そう、僕に攻撃手段がないことは避けたかった。
僕は冒険者にならなくちゃいけない。
冒険者には戦闘力が必要なはず。
でなければ、僕の一日に剣術の授業など入れるはずもない。
そんな風に考えていると、気になったことが口から出た。
「キミ、いや人格1って、かなり危ない性格なんだね?」
「ん?」
僕の言葉に、白い彼は聞き返すように声を漏らした。
「いや、だって、僕のお世話をしてくれている人に対して、いきなり殺そうとするから」
僕の言葉に、彼は答える。
「ここにいるときは大丈夫なんだが、身体を使わせてくれる状況になると、急に沸々と激情が沸いてきてなぁ。我慢できなかったわ。まぁ、俺の感覚はお前も分かっているだろうが」
そう。
僕が彼に対して、初めに殺そうとしたことを聞かなかったのは、彼の感情が分かるからだ。
僕らは全てを共有している。
彼らそれぞれの感じていることを思い出すのに時間はかかるが、全てを共有しているのは確か。
だから、彼が感じた激情も理解しているし、変態が拷問で心の底から喜んでいたことも理解している。
「さて、それぞれ思い出すことも終わっただろうしよ、これからどうするか考えようや」
そう僕たちは考えなければいけない。
ただ、僕は考えることを苦手としている。
ならば、彼らに判断の多くを任せるだけだ。
続けて白い彼は話し出す。
「ルエンは俺らに任せるようだし、もともと変態を呼んでいたことから話すか」
「というと?」
変態をあらかじめ呼んでいたのには理由があるらしい。
白い彼は続ける。
「たぶん、ルエンの中に俺たちがいることがブリヤンだったかに伝わるだろう。どこまで話す?」
「どこまでって、お屋敷にいたときに生まれたって言えばいいんじゃないの?」
白い彼の質問の意図が読めなくて、僕は聞き返す。
それぞれの思考の整理はかなり重要で、ここでしっかり対話しないと人格と状況によっては暴走しかねない。
事実、変態が暴走した所為で、僕の片目はなくなっているわけだし。
「いや、いろいろ聞かれるはずだぞ? まず、ルエン自身が副人格の俺らを認知しているのかとか、どういう性格なのか、危険性はあるのか、とかな」
「なるほど」
言われればその通りで、国として僕の脅威度が気になるはずだ。
もし、誰彼構わず殺しをするような人格がいると思われたなら、そこで僕の人生は終わりなわけだし。
ただ、変に隠すようなことってあるかな、と僕が思うと、変態が言った。
「隠すようなことってあったかしらぁ? 相手が聞いてきたことに素直に答えてあげればいいじゃないのぉ?」
「まぁ、それもそうなんだがなぁ」
白い彼は何を心配しているのか、僕はそれを聞いてみた。
「俺が心配しているのは、ルエンを危険だと判断して牢屋にまた入れられるんじゃないかってことだ」
「あぁ、それなら」
「それなら大丈夫じゃないの? 私たちの身体に大罪スキルだっけ? があるんですもの。出来ればスキルの不安を失くしたいんじゃなぁい?」
僕の言いたいことを変態は言ってくれた。
そう。
僕のスキルを国は気にしているはず。
だから、僕を縛り付けるようなことはしないはず。
ましてや、国から追放してどこかで野垂れ死ぬのも恐れているはず。
と、ここまで思考してきて、僕は思う。
僕がこんなに物事を考えることは必要ない、と。
そんな僕の意思が反映されたのか、彼らは言う。
「まぁ、何とでもなるだろうから。素直に答えればいいだろ」
「そうねぇ。何とでもなるわよね」
そんな風に、思考が停止した僕たちは安息の空間にて、そこそこの時間を過ごした。
外がどれほど経っているか分からないけど、白い彼に言われ、僕は意識を浮上させた。
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