第24話 サリュから見た彼

サリュ視点


 俺は目の前のコイツに何を問いかけるかを考えている。

 コイツがどういう性格なのか掴みかねているし、急に質問を許さなくなるかもしれない。

 いろいろな問いかけが頭の中で駆け巡ったが、最初の質問は決まっていた。


「お前はルエンなのか?」


 コイツが誰なのかが聞きたかったが、もしコイツがルエンならどうすればいいのか分からない。

 だから、最初の質問はこれだった。


 青が少し入ったぼさぼさ気味の黒髪、髪色に合わせた眼帯、どこを見ているのか分からない瞳。

 これら全てがルエンのもの。

 だが、コイツがルエンではないと確信している部分がある。


 まずは、口元。

 嘲笑するかのように口角が吊り上がった口元。

 その表情を見るだけでルエンでないと分かる。

 ルエンは人に等しく興味がないし、どちらかというと自信ない表情をしている。

 決して、嘲笑など浮かべない。


 次は目元と眉。

 目は口ほどにものを言う、とは古の勇者の言葉だったか。

 それぐらいに目には、その人の感情が映る。

 もちろん、貴族内の上の爵位に行くほど、感情を隠すことがうまくなるが。


 肝心のコイツの目はルエンと同じく、周りの人間に興味を示しているようには見えない。

 だが、眉が吊り上がり、怒りを堪えているかのように力の入っている目を見れば、ルエンとは思えない。

 

 目と口元などの全体の表情を見れば、怒りと嘲りが混在していることが分かる。

 そして、俺の問いにも嘲笑するように答える。


「はっ。なんだその質問は。まぁいいか、俺はルエンだが、ルエンでない」

「ルエンだが、ルエンでない?」

「そうだ。身体も知識もルエンの物だが、身体を動かしている意識や現時点で感じている感情などはルエンのものではない」


 目の前の、ルエン(仮)は全てがルエンそのものではないらしい。

 こんな状態を何と言うんだったか、二重人格?


「お前は、ルエンは二重人格なのか?」

「ん? 二重ではないなぁ。今はメインを合わせて三人いるからな」

「もう一人いるのか?!」

「おう。もう一人はお前も知っているかもしれねぇけどな」


 軽い調子で言う目の前のルエン。

 俺が知っている人格もあるなんて、何を言っているんだ。

 俺が知っているのは常に軽度で話すルエンしか知らない。


「何を言っているんだ?」

「ん? お前はルエンと同じ奴隷仲間だろ? なら遊び部屋でオカマみてぇな悲鳴を聞いたことねぇか?」

「オカマ……。いや、確か高めの声で喘ぐ変態はいたと思うが……。あれは?」

「俺らだな」

「はぁ? あれがルエンだってのか?!」


 驚愕で声が抑えられなかった。

 拷問部屋で喘いでいたのが誰か気にならなかったのは嘘だが、まさかルエンだったとは……。


「そうか、ルエン。いや、紛らわしいな……。人格1って呼んでいいか?」

「好きにしな」

「じゃあ、人格1はいつ頃ルエンの身体を使っていたんだ? まさかとは思うが、俺たち騎士団が知るタイミングで出てきていたか?」


 そう。

 もし、ルエンの中にルエン以外がいて気付かなかったなら、俺はショックを受けると思う。

 実際に、いま相当なショックを受けているし、多重人格に気付いていなかったなら、自分の節穴加減に嫌気がさす。


「ん? いや、俺も変態も出てきてねぇぞ」

「変態? それが人格2か……。そうか出てきてなかったか」

「おう。どうせ、出てきたのに気づいていなかったらどうしようとでも思ったんだろ? 安心しな。俺も変態もルエンとはまるで違う」


 その言葉に少し安堵する。

 だが、気になることがある。

 それは問いただしたい。


「お前は、人格1は剣が振れるのか? ルエンの素振りを見る限りでは、まともに振れると思わなかったんだが」

「俺も初めて剣を振ったぞ」

「なに?」

「だからよぉ、俺もルエンも初めて剣振ってんだよ」


 何かの聞き間違いかとも思ったが、ルエンたちは本当に初めて剣を振ったらしい。

 だからこそ、聞きたい。


「どうやって剣を振った? なんで俺を殺そうとした?」


 畳みかけるように、質問をした。


「一気に聞いてきたなぁ。まず剣の振り方は分からねぇ。だが、握った瞬間に分かった。どう振ればいいか。どう力を入れればいいか」

「そうか。で、俺を殺そうとした理由は?」

「簡単だ。殺した方がスッキリしそうだからだ」

「スッキリだと?」


 思わぬ答えに、眉が吊り上がるのを感じる。

 薄々と分かっていたが、コイツはやべぇかもしれない。


「そうだ。俺の中には言葉にできねぇ激情がある。もし、これを言葉にするなら怒りだろうな。俺たち、副人格は表に出ることがすくねぇ。だから、俺自身も気付いていなかったが、どうも抑えられねぇ」


 ヤバい。

 コイツ今にも俺に切りかかってきそうな雰囲気だ。

 それにコイツ、人を殺すことに躊躇いのねぇ目をしてやがる。

 本格的に、ルエンに変わってほしい。


「だが、まぁ、いま殺すとルエンの立場が悪くなるのは分かっている。今回は堪えてやる。で、他に聞きてぇことは?」


 そう聞かれた瞬間。

 不意に口から漏れた。


「お前は憤怒の種なのか?」

「俺はルエンの一人格だ。憤怒の種なんて訳の分かんねぇもんじゃねぇ」


 そう言った後、ルエンの身体から力が抜けた。

 数秒すると、目を覚ましたルエンはいつものルエンだった。


「ルエンなのか」

「そうですよ、白い彼が迷惑をかけました」


 そう言ったあと、ルエンの力がまた抜けた。

 急いで駆け寄ると、


「すー……、すー……」


 どうやら、気を失って寝てしまったようだった。

 訳の分からない状況だが、俺は急いでルエンを部屋に連れ帰った。

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