第22話 剣術

 王城の騎士団宿舎に来て、約一か月。

 今日の午後からようやく戦闘技術について学べるようです。

 僕としては、まだ体力づくりや筋トレだけでもいいいような気がするのですが……。

 そんなことを考えつつも今日という一日が始まりました。


 いつものように支度をして、いつものように騎士団宿舎の前でサリュを待っていると、


「おはよう、ルエン」


 サリュが宿舎から出てきました。

 少しくすんだ金髪に寝ぐせでもついているようですが、眠気が残っている風でもなく、朗らかな様子で挨拶をかわしました。


「おはようございます、サリュ。寝ぐせついていますけど?」

「お? 本当だ。まぁ、気にすんなや」


 そう答えた後、「さて」と気分を変えるかのように、サリュは続けました。


「今日から午後に戦闘訓練も入るわけだが、日程は変わらずだ。今からはランニング、午前中は算術などの勉強、少しの昼寝のあと筋トレ、戦闘訓練だ。ここまではいいな?」

「はい、大丈夫ですよ」


 サリュの言葉に僕は頷きます。

 僕の様子に、サリュは頷き続けます。


「よし、んで、今日の戦闘訓練は剣術を予定しているからな。まぁ、訓練用の木剣で素振りするだけで終わるかもしれねぇけどな。よし、じゃあ、今日も一日頑張りますか」

「はい」

 

 そんな風に始まった一日ですが、特に代わり映えもなく訓練をこなしていきます。

 そんな中でもいつもと変わったことが一つありました。




 宿舎で近くの部屋で寝泊まりしている、騎士見習いの方に声をかけられたのです。

 それもサリュがいないときに、です。

 彼らはサリュと話がしたいらしく、僕とはあまり言葉を交わさないのですが、珍しく声をかけられました。


「おい、奴隷。サリュさんにいつまで甘えてんだよ。早くここから出て行ってくんねぇか。騎士になるわけでもねぇ奴がいると、目障りなんだが?!」


 かけられた言葉は辛辣の一言でした。

 一か月という長い期間、同じ宿舎に暮らしていれば、不満も多く出ることは分かっていますが、それでも僕の事情はここの騎士には伝わっている筈なのに、かけられた言葉は僕にとって辛いものでした

 そんな言葉に返せる適切な答えを僕は持っていません。

 ですから、こういうしかありませんでした。

 

「すいません」


 そう謝るしかないのです。

 僕は現状、宰相様や国の支援に甘えてしまっている状態。

 不満を持つ彼らへの反論なんて僕にはありませんでした。

 彼ら見習いの方々は僕の態度が気に入らないようで、さまざまな言葉を投げてきます。


 帰れ、消えろ、失せろ、言葉の表し方はさまざまですが、彼らにとって僕という存在は邪魔でしかないようで、幼稚な言葉で僕が出ていくように指示してきます。

 ここまで疎まれるようなことを僕がした覚えはないのですが、お屋敷にいたころに比べれば、大したものではありませんでした。

 これまでの痛みに比べれば、全てが些事でした。


 彼らは何かに気付いた様子を見せると、ただ謝ることしかできない僕に舌打ちをして、去っていきました。

 何に気付いたのかと疑問に思っていると、すぐにサリュが来ました。

 どうやらサリュにバレるのを恐れて、去っていったようです。

 サリュにいろいろと追及された僕ですが、何でもないと言い張り、今日の勉強に向かいました。




 いつもと違う出来事がありましたが、何とか今日のスケジュールをこなしていき、午後になりました。

 まずは、いつも通りの筋トレをこなし、ついに戦闘技術の訓練に入りました。


「さて、今から戦闘訓練を行うわけだが、今日は基本的に木剣での素振りになると思ってくれ」


 そう話し出したサリュの両手には、それぞれ木剣が握られています。

 右手に持つ剣はサリュが使うのか、左より長い物になっていました。

 

「今日、教えることは剣術になる。他にも、槌術、拳術、盾術、弓術、槍術などなど冒険者はいろいろな武器を使っていくわけだが、俺は騎士だからな。まともに教えられるのは剣術しかない。だから、まずは剣術を教えていこうと思う」


 そう言ったサリュは僕に木剣を渡してきました。

 その後、サリュにいろいろと剣について教わりました。


 握り方、振り方を基本とし、身体のどこに力を入れるのか、逆に力を抜くタイミングは?など細々としたことを詳しく教えてくれました。

 そして、最終的に僕に下った評価は、


「お前、言いづらいが剣の才能はないかもしれんなぁ……」


 とのこと。

 サリュは心底申し訳なさそうに言っているので、蔑むような心持ちでないことは分かりきっています。

 でも、僕にすれば残念な気持ちにならざるを得ません。

 そんな僕の様子に配慮してか、サリュは言い募ります。


「いや、ただ素振りしただけで才能がどうの言うのはおかしなことだったな。うん。実際に物質に切りかからなければ分からんこともある。努力次第で才能を覆したことだってあるんだから。大丈夫さ」


 早口に発せられることで、より自分の才能のなさを隠そうとしているようで、申し訳なさが沸々と湧いてきます。

 そこで、僕は理由を聞いてみました。

 僕の才能なさは、どこに現れているのかを。

 サリュは、申し訳なさそうに言い始めました。


「まず、片目しかないせいか、振りが安定しないんだ。まっすぐ振れても、次には横にずれていたり、とにかく安定していない。ただ、ここは訓練で修正できるところだ。筋力が足りてない場合もあるしな」


 そこで、サリュは一区切りつけ、続けました。


「一番問題なのは、長い間の拷問の所為か、骨が、骨格が完全にずれてしまっていることだ」

「ずれてる?」


 僕は首を傾げました。


「そう。ずれているんだ。鋭い振りをしようと思うと、今の剣術の考えからすると、お前の骨格はずれ過ぎている。薄々そうなのでは、と思っていたんだ。お前の骨格は完全にずれていて、今のどの戦闘術にも合わないのでは、と。だから、剣術はダメかもしれない」


 サリュは苦しそうな表情で言いました。

 自分でも、もしかしたらと思っていました。

 たぶん、悪いところを挙げればキリがないほどに、自分の骨格は変わってしまっているのでは、と。

 片目がない、腕は他の人のように綺麗に上げられない。

 剣が出来るわけがなかった。

 僕に出来る戦闘手段なんて本当にあるんだろうか。


 そう、思った瞬間だった。


『俺と変わりな』

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