第21話 色欲、怠惰の鬼

「さて、残りのルエン君のスキルに関する鬼でしたか。確か、《色欲》と《怠惰》でしたよね?」

「そうです」


 サンセリテ様の話を引き続き、聞かせていただけることになった僕たちは、真剣な面持ちでサンセリテ様の言葉を待ちます。


「《色欲》、《怠惰》、ともに記録に残っていることは少ないですね。まず、色欲からでしょうか」


 言葉を区切ったサンセリテ様は迷うような表情をしたあとに、おっしゃいました。


「ルエン君にはまだ分からないと思いますが、色欲というのは簡単に人を狂わせることができます」

「狂うですか?」

「そうです。まだ子供の君に、詳しく語るのは教育上まだ早いと感じていますので、能力だけの説明になります」

「はい」


 なぜ、言いよどむのかは分かりませんが、素直に僕は頷きました。


「色欲の鬼の能力。それは人を快楽によって操ったり、廃人にする能力です」

「操るですか?」

「そうです。これは怠惰にも関係するのですが、色欲の鬼は魔力を知覚できるものが変容したものという説があります。というのも、魔力によって人に快感を与え、さらには中毒性のある効果も用いて、鬼の思うままに操る能力だそうです」

「それは恐ろしいですね」


 僕は心底から恐ろしく思います。

 それと同時に、それはそれで楽だなとも。

 誰かの思うままに、指示されるがままに、快楽に従う。

 それはとても楽なように思うのです。


「そう。恐ろしい。ですが、他にも色欲の鬼の能力はあります。それは変身の能力です」

「変身ですか?」

「そう、変身です。若しくは、変態でもいいかもしれません。自分の姿を自在に変えられるという能力を持っていたという記録もあるそうです。これは信ぴょう性の薄い記録ですが」

「そうですか、変身」

「ええ。人を快楽で縛るという特性上、容姿を好みの者に変化させられる能力があったのでは、と思われているようです」


 ここまで話してくださったサンセリテ様は、一呼吸おいて僕らに確認しました。


「さて、ここまでは良いですか? 良いのなら、怠惰についてもお話ししますが」

「僕は大丈夫です」

「俺も大丈夫です」


 僕とサリュはそれぞれ答えました。

 僕らの返事に頷いたサンセリテ様は、おっしゃいました。


「では、今日は怠惰の鬼の話をしたら終わりにしましょうか」

「「はい」」

「さて、怠惰の鬼の能力は判明していることはあまりにも少ないです」

「そうなのですか?」


 僕は純粋に疑問に思います。

 ここまでの二体の鬼は判明していることがはっきりしていたからです。


「そう。怠惰の鬼の発生件数は過去の記録にもあまり多くはないです。そんな数少ない怠惰の鬼の情報で有益なものは、これがまた魔力が影響しているのではということだ」

「魔力……」

「そうです。魔力と言われても、私たちには分かりませんよね?」

「はい」

「ですが、一つだけ魔力らしきものを感じ取れる事象があります。それがスキル検査の水晶です」


 僕はサンセリテ様の言葉にハッとします。

 確かに、水晶に触れたときに身体から何かが抜けたように感じました。

 それが関係しているのでしょうか。


「ルエン君の様子だと、何か覚えていることがあるようですね? 遥か昔の人間たちは魔力の存在を明確に知覚していたと言われています。つまり、今話している怠惰の鬼も色欲の鬼も魔力を明確に感じる時代に発生していたように思うのです」


 と、ここでサンセリテ様が一呼吸おいておっしゃいます。


「まぁ、明確な証拠はないわけですが……」


 と一言おっしゃった後、気分を切り替えるように「さぁ」、と続けました。


「さぁ、怠惰の鬼の能力ですね。おそらくと仮説があるのは、魔力に作用して鬼の周囲の生物の頭の内部を破壊する能力だと思われています」

「それは……」

「恐ろしいですか? でも、鬼という存在は私たちに停滞への危機感を煽る存在。恐ろしくても当たり前ですよ」


 僕とサリュの表情に出ていたのか、先回りする様にサンセリテ様がおっしゃいました。

 ただ、疑問があります。

 ここまでの鬼は大罪に少なからず関係している能力なのですが、怠惰のそれはらしくないように感じました。

 そのことをサンセリテ様に質問すると。


「ルエン君。よく気付きましたね。そう、怠惰の鬼は脳内に直接何らかの影響を与えますが、それをすることによって何が起きるかというと、思考できなくなるそうです」

「思考できない?」

「そうです。言われてもパッとしませんでしたか? 思考できなくなるとどうなるか。日々を同じことをずっと続けることになるのです。仕事に真面目だったものは休みを忘れて働き続け、怠け癖があったものは全てを放棄して眠り続けたと言われています」


 サンセリテ様の言葉を聞いて、僕は怠惰の鬼はこれまでと大きく毛色が違うと感じました。

 それはサンセリテ様も思うところのようで。


「怠惰という大罪は特殊です。だから鬼の能力も一風変わっていると考えています。思考を放棄する、するべきことを放棄する、この二つを極端に増幅するのが怠惰の鬼なのではと仮説があるようです」


 サンセリテ様がおっしゃいました。

 と、区切りがいいのか、サンセリテ様は続けます。


「さて、今日はここまでにしてお茶でも飲みましょう。ルエン君はまだ成長途中ですから」


 その後、一週間前と同じように一日を過ごしました。

 今日聞いた鬼の能力は恐ろしいものでしたが、他にもいる鬼の能力は教えるかどうか未定だそうです。

 いくら大罪スキルの持ち主といえど、関係のない大罪の情報を与えるのはどうかという国の判断だそうです。


 なにはともあれ、今日という日もしっかり学び過ごしました。

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