第19話 鬼の発生理由
「そもそも鬼という存在が何なのか、というのを詳しく知っていますか? ルエン君」
サンセリテ様が確認をするように問いかけます。
「僕が知っている鬼という存在は人への負の感情が増大し、大罪スキルを得たものが死後に変容した存在と聞いていますが……」
「そう。人への負の感情が増大する。大罪スキルを得ている。というのは勿論正解なのですけど、周りから見れば大罪に関するほどの感情を持っているように思えない人間も鬼になった例があるのです」
「それはその人の感じ方次第なのでは……」
僕は感じたことを素直に言います。
そんな僕の言葉に、サンセリテ様は柔らかく微笑み、おっしゃいました。
「その通り。その人の感情を他人が推し量れる訳がない。では、そもそも大罪スキルを与えられたものは、どういう基準でスキルを手に入れているのか気になりませんか?」
言われてみれば確かに、と僕は思います。
その人を大罪と見なすのは誰なのでしょう。
スキルはその人の特技や技術といったもの、そう聞いた僕としては、人の感情を大罪と見なすのは誰が決めているのでしょう。
そんな疑問を持った僕に、タイミングよくサンセリテ様はおっしゃいます。
「そもそも大罪という概念、考えを与えたのは誰だと思いますか?」
「もしかして、神様……。ですか?」
「そう、その通り。そして、大罪と同じくして鬼という存在が生まれたわけです。ここまで言えば、分かりますね? 誰が鬼という存在を認識したのは誰か?」
僕は血の気が引ける思いでした。
僕らが知っている鬼という存在は神によって認知したのですから。
「さて、ならば何のために鬼が存在するか、分かりますか?」
「それは……、分かりません」
「そうです。誰にも分からないのです。ですが、それらしい答えはありますよ」
「それは……?」
「それはこの世界に生きる者たちの発展のためですよ」
「発展ですか?」
どういうことでしょう。
発展。
まるで、僕らの世界が停滞しているかのような……。
「ルエン君。いま、この世界が停滞しているような物言いに思いませんでしたか?」
「それはそうですが」
「そう。神はこの世界が発展し続けることを望んでいるんですよ。それは確かなはずです。理由に関しては最初の鬼について話が戻ってきますね」
「ここで最初の鬼ですか」
今まで聞くだけだったサリュが言葉を発しました。
それにサンセリテ様は頷き、続けます
「最初の鬼は遥か東の島国の戦場で生まれました。かの国では領土の奪い合いや下克上が常に発生し続けていたそうで、暗殺なんかも横行していたそうです」
「それは、……殺伐としていますね」
サリュが渋い顔で言いました。
「騎士であるサリュ君は戦場で戦う側の人間ですから、こと戦うことにおいての悲惨さは何となく分かるようですね。ならば……」
サンセリテ様がサリュの様子に納得しているように頷くと、言葉を溜めてにこやかな顔を顰めておっしゃいました。
「ならば、分かるのではないですか? 戦いの悲惨さに辟易した我らが主、神の気持ちは。我らが主はうんざりしたのですよ。いつまでも学ばず、同じ人間同士で戦い続ける人間に失望したのです。そして、神は鬼を生み出しました」
「それが……」
「そう、始まりの鬼。憤怒の鬼です」
「憤怒の……」
憤怒というのは僕の中にもある大罪です。
ここからが僕が一番に聞きたかった話なはず。
僕はさらにサンセリテ様に集中して話を聞きます。
「そう。憤怒。当初の鬼は、戦を憂い、友を失くしたことにより、戦と戦を始めた人間に怒りを持っていました。そして、戦場で死ぬ前に、家族を暗殺されたようです。それから狂ったように戦場で戦っていたようですが、終わりのときをあっさりと迎えてしまい、鬼になったようです」
「その、なんというか、やけに詳しく伝わっているのですね?」
サリュが思わずといったように、聞きました。
そのことに、サンセリテ様は困ったような表情でおっしゃいました。
「当時の教会が信託として、神から啓示を受けたようなのです。そして、後になって、東の話が伝わったことによって、この話が本当であるという確信を教会は持っています。それから、鬼の話を伝えるためにおとぎ話を作り、流したのも我々教会なのですよ」
「そうなんですか?!」
僕は思わず驚いてしまいました。
おとぎ話は本当だとしても、広めたのは教会だったとは。
「そう、あの話は我々が実際にあった話を、こちらの地方で分かりやすくしたものをおとぎ話として残したのですよ」
「じゃ、おとぎ話の冒険者って……」
「そうです。東の国の戦に出ていた者のことです。妻が病になったというのも、暗殺した事実を変えたものになります。おとぎ話に伝わるもので村から差別されていた部分は脚色ですが、国を一つ滅ぼしたのは事実ですね」
あっさりとサンセリテ様はおっしゃいます。
「さて、憤怒の鬼がなぜ出現したか分かりましか? 当時の状況と我らが主の思惑が一致した結果、鬼は現れたのです。そして、何らかの意味で停滞しているときに鬼は現れます。現在も君が現れたということは何らかの不満を神が持ったということなのでしょう」
そう、サンセリテ様がおっしゃったのち、申し訳なさそうな表情で僕に聞きます。
「ルエン君。君が怒りを抱いた原因を聞いてもいいかな?」
「サンセリテ様!!」
これまで怒ったことのないサリュが怒鳴りました。
「サリュ君。これは大事なことだ。取り返しのつくことなのか。それとも、もう鬼になるのを待つしかないのか……。それを判断したい」
「それは……」
「サリュ!」
「……っ」
まだ反論しようとするサリュに僕は名前を呼びます。
それだけで、僕の気持ちを察したのか、サリュは悔しそうに口を閉じました。
そして、僕は話しました。
「僕は感情というものをそもそも理解していません。でも、僕の親にあたる人物が亡くなったと聞いたとき、途方もない激情を抱いたことはあります」
「ルエン……」
僕の言葉に、サリュは悲しそうにしています。
なぜ、サリュが悲しむのでしょうか。
そんな思考の中、サンセリテ様はおっしゃいます。
「ルエン君。それはおそらく怒りだろう。子が親を奪われ、怒りを持った。そう私は思うよ。同時に、君はまだ何とかなるのではないかな?」
「何とかですか?」
「そう。君は感情が理解できないほどに、情緒が幼い。ならば、今からでも情緒を育て、親を奪われた怒りを上回るような幸せを手に入れればいいのではないかな?」
サンセリテ様は最後に穏やかに微笑みました。
まるで、これからは大丈夫とでも言うかのような笑みです。
僕は不思議と安心しました。
そのあと、サンセリテ様は気分を変える為かおっしゃいました。
「さぁ、今日はここまでにしましょう。残りの時間はお茶でも飲んでゆっくりしましょう。本当は鬼の能力について伝えたかったのですが、今度にしましょうか」
そうおっしゃったサンセリテ様に連れられ、お茶を飲み、今日の残りの日程を消化しました。
サリュも僕が昼寝から戻るころには、気分を切り替えているようでした。
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