第11話 他人から見た僕、僕が思う僕
5番が騎士の恰好をして部屋に入った時、何故か納得する自分がいました。
5番はただの奴隷にしては、いろいろな知識を持っていたからです。
冒険者、スキル、おとぎ話……。
いろいろなことを教えてくれましたが、貴族の事を教えてくれたときに違和感がありました。
普通の人がどれくらいの事を知っているかは分かりませんが、5番は丁寧に教えてくれました。
そんな知識を持っているのですから、学のある立場を予想していました。
だから、騎士だというのは納得できます。
いろいろ思い出し納得していると、僕の今後はすでに決まっているようで、5番に部屋から連れ出されました。
僕がこれからどうなるのかを、部屋から出てすぐに5番から教えてもらいました。
僕の教師となってくださる方の手配と、僕自身の体調の為にも一週間ほどの休養をとらせるよう、ブリヤン様から命じられているらしいです。
僕が騎士団の宿舎に連れていかれるようになった原因は、宮廷貴族の反発や訓練所の距離への利便性などから、騎士団の仮団員の方が使用する宿舎の一室を使わせてもらえるとのこと。
本来は、恐れ多い事に王城内の一室を与える予定だったようです。
騎士団の宿舎が与えられた事実に、僕はほっとしました。
一週間。
休養、休暇なるものを取ったことのない僕は、一週間の間に何もすることがないというのは、少々落ち着かないものがあります。
そもそも休養、休暇とは何をするものなのでしょうか。
と、色々考えていると、宿舎に一緒に向かっている5番が不意に話し始めました。
「さて、3番。いや、ルエンだったな。ルエンはこれから宿舎にて一週間休めるわけだが……。お前、休暇を貰った経験は?」
「ないですが……」
「じゃあ、何をしていいか分からないんじゃねぇか?」
5番の言う通り、僕はどうしたらいいか分かりません。
だから、僕は素直に頷きました。
「5番の言う通り。僕は、休暇なるものをどう過ごしたらいいか分かりません」
「まぁ、そうだよなぁ。っと、俺の名前、5番じゃなくて、今後はサリュって呼んでくれや」
「そうでした。5番も名前があるんでした。サリュですね。分かりました」
「んで、一週間の休養だけどよ。俺は、団長からお前の世話を頼まれてんだわ」
僕は驚きました。
僕如きの為にお世話してくださる方を用意してくださるなんて、と。
そんな驚きを抱きながらも、サリュの話を聞きます。
「んでよ。お前が回復して問題がないようなら俺が街を案内するけど、どうするよ。お前の片目、中身なくなってんだろ? 眼帯見繕ったり、服買ったりしねぇといけねぇだろ?」
サリュの言葉で、自分の片目がない事を思い出しました。
僕は、人の見た目や顔の造形などを詳しく見ていないので、自分の顔の状態から与える印象を考えたことがありませんでした。
他人の感情の動きは分かるのですが、美醜の感覚などがないのが大きいのかもしれません。
だからこそ、サリュに質問をしました。
「僕のなくなった目は、やっぱり隠した方がいいのでしょうか。見る人によっては、不快に見えたりするなら、隠そうと思うのですが」
「う~ん、そうだな。まず、片目がないと他人の注目を集めちまう」
「注目ですか?」
何故、片目がない程度で注目されるのでしょうか。
僕に一般的な感覚がない故に、分かりません。
だけど、サリュはしっかり教えてくれました。
「そう、注目だ。人ってぇのは、大多数の人間と違うと違和感を持つ。すると、違和感に対して視線を送っちまうんだわ。片目がねぇと、他人の感じる違和感は大きいはずだぜ」
「なるほど」
納得した僕を確認すると、サリュは続けて眼帯した方がいい理由を説明しました。
「あと、不快感だが、これはさすがに分からねぇなぁ。ただ、確実に言えるのは憐れみを持たれるのは確実だな」
「憐れみ……」
「まぁ、お前の目を見て、そしてお前の身体の大きさを見て、何かを察することはできるだろうよ。子供のお前が片目を失くしてんだ。相当、同情されるぞ」
同情。
サリュの発言から、僕は疑問に思うことがあります。
それをサリュに問うてみました。
「同情、ということは……。サリュ」
「なんだ」
「僕は、可哀そうな子供なのでしょうか」
僕の問いに、サリュは息を飲みました。
先ほどまで連れ立って歩いている中でも、僕に時々、視線をくれていたサリュですが、この質問の時だけは顔を背けて答えました。
「言いたかねぇが。一般的な子供たちから見たら、お前はかなり可哀そうに見えるかもしれん」
「そう、ですか」
ある程度予想していたとはいえ、他人から見て、僕は可哀そうな子供らしい。
同じ奴隷仲間だったサリュに言わせてしまったことに、若干の後悔を感じていると、僕の方へ顔を向け、真剣な表情で言いました。
「だが、同じ奴隷として言うなら……。俺たちは同じ環境を共にした、いわば同士だ。そんな俺たち自身が、同じ境遇で生き残った者を称えこそすれ、同情するのはありえん。だから、他人がどう思おうとも生き残ったことを喜べばいい」
それだけ言うと、淡々とサリュは歩を進めていきました。
食堂やトイレ、などの皆の共有スペースを案内された後、僕の部屋に着きました。
サリュは、扉をあけ、僕に部屋内に入るよう促します。
部屋に入って、自分の部屋になる室内を見渡します。
クローゼットもあれば、ベッドもあって、勉強するための机もある。
奴隷だったころに比べれば、天と地ほどの差がありました。
これまでとの境遇の差を感じていると、僕の内側から、ある言葉が浮かんできます。
奴隷のくせに……。
続きの言葉は浮かんでこずとも分かりました。
“奴隷のくせに贅沢”、“奴隷のくせに生意気”、などのお屋敷で聞いたことのある言葉です。
ここは屋敷の中ではないはずなのに、自分の奥底が自分自身に向かって吐いている言葉。
僕はまだ自分を奴隷と定めているようです。
僕の心の内が分かるわけもないサリュは、宿舎で生活するうえでの規則を説明してくれました。
「ここで暮らすうえでの規則だが、飯は朝晩だけだ。時間は朝が五時から九時、晩は六時から十時までだ。食堂で食えるわけだが、時間外で食いたければ、自分で食材を買って作れ」
そう言って、サリュは言葉を区切り僕の様子を確認すると、続けて言いました。
「と、ここまで当たり前のように時間で説明したが、さすがに分かるか?」
「屋敷で働いていたから、時間は自然と覚えました。一日が午前と午後で十二時間ずつあるんですよね?」
「ああ、その通りだ」
時間について、軽く確認したサリュは続けました。
「あと、お前に関係するのは風呂だな。一週間に二回、風呂に浸かれる機会がある。今日は俺たちが落ち着くために、特別に風呂が用意されていたわけだ。もったいねぇから後でもう一回行くぞ。風呂に浸かれねぇときは、外の井戸で水汲んで身体を拭きな。わかったか?」
僕はサリュの言葉に頷きます。
「よし。んで、残る規則なんだが、飯と風呂以外の規則は基本的に騎士団員のうちでの規則なわけよ。だから、お前に関しては飯と風呂だけ気を付ければよし。後は、共有のスペースは汚さないようにするとか、自分がされて嫌なことをしなければだいたい大丈夫だ」
「分かりました」
僕は素直に返事をしました。
返事を聞いたサリュは、懐中時計で時間を確認した後、言いました。
「よし、んじゃ、風呂行くか? 今日ここに着いてすぐに身を清めたが、改めて使い方とか教えたりしてたら、飯にちょうどいい時間になんだろ」
「サリュにお任せします」
「よしゃ、んじゃ、風呂行くぞー」
軽い調子でサリュは言いました。
何気に僕はお風呂が初めてだったので、期待していましたが、期待以上に気持ちよくて少し申し訳なくなりました。
風呂後は、おなかが空いていたのでサリュについていき、ご飯を食べました。
本当はご飯のあとにでも、騎士団員の方々、特に近くの部屋の方に自己紹介をした方がよかったのですが、ご飯後にいつの間にか僕は意識をなくしていました。
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